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第1話 出会い
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「おじさん、お久しぶりね」
「ん? 君は確か……」
いつもの様に通りの向こう側を観察していた俺の前に現れたのは屈託のない笑顔の若い女性だった。
この女性を俺は知っている。そして、多分だが女性も俺を知っていたのだろう。だからこそ俺に声を掛けてきたのだと思う。
確か、この女性……いや、この女の子に会ったのは三年ほど前だっただろうか。その時も俺はいつもの様に通りの向こう側を観察していたのだが、今の様に屈託のない笑顔を浮かべ友達と一緒に笑いながら通り過ぎて行ったのを覚えている。
その時はまだ新しい制服に身を包んで歩いていたことから、恐らくだが近くにある高校の入学式に向かう途中だったのだろうと思っていた。それからは彼女がその通りを歩く度に何故か気に掛かり、幾度となく見かけることになるのだが彼女がこちらに気付くことはなかった。
だが、ある時、不意に彼女と目が合った。目が合った時、彼女は少し驚いた顔をしていたようで一緒に歩いていた友達が数歩先に行ったところで、その場に立ち止まっていた彼女を呼び、彼女が「ごめ~ん」と笑いながら友達のところまで小走りに寄っていったのを覚えている。
それから、彼女は俺と目が合うとニッコリと笑う様になり、数日経つと俺に向かって手を振ってくるようになった。そんな風に手を振る彼女を不思議に思ったのか、彼女の友達は誰に手を振っているのかと詮索している様だったが、彼女が「なんでもないから」と友達の背中を押しながらキャッキャと通り過ぎるのを見守る様になった。
いつからか、俺も彼女に対し手を振り返すようになり、それは俺の密かな楽しみとなった。
そして、彼女を最後に見かけたのは、彼女が卒業証書が入っているであろう筒を手に持っている姿だった。彼女は俺に向かって手とその筒を振って来たので俺も「おめでとう」と返した。
その声が聞こえたかどうかは分からなかったが、それから彼女を見かけることはなかった。学校を卒業したのだから、今は別の通路を通勤、もしくは通学路として使っているのだろうと思うことにしたのだが、忘れることは出来なかった。
彼女が高校に通っている三年間のほぼ毎日、挨拶を交わしていたのだ。だからこそ彼女を忘れることなど出来なかった。いや、忘れたくはなかった。
だが彼女とは三年間、ほぼ毎日の様に挨拶を交わしていたが、彼女が通りを渡りこちらに来ることはなかった。
それは彼女が女子高校生で俺がおじさんだから、しょうがないことと思っていたのだが、今彼女は俺の横にいる。
そして「初めまして」と挨拶を交わした。
「なんでこっちに……」
「ん~なんでかな。気が付いたらいたって感じかな。ね、それよりオジサンはなんでここにいるの?」
「……俺のことはいいから」
「え~でも気になるじゃない。オジサンは毎日、ここにいたでしょ。それはどうしてなの?」
「……だから、俺のことはいいから」
「ケチ!」
「そんなことより、あれは君じゃないのか?」
「あ! ホントだ……」
俺は通りの向こうにあるコンビニの窓に貼られている一枚のチラシを指差すと彼女に確認してもらう。
そして、彼女はそれを自分であることを認めた。
「なんか、ちょっと恥ずかしいね」
「で、いいのか?」
「何が?」
「何がって……探しているんだろ」
「ん……そうだね」
「そうだねって「だって、まだ探している途中だもの」……探している?」
「そう、探しているの。あの時、私は……」
彼女の身に起こった話を聞き、俺は納得する。
「そうか。だから、君はこっちへ来てしまったんだね」
「うん、そう。でね、オジサンのことを思い出したらここに来ちゃったの」
「そうか。それで君は何を探したいんだ?」
「……アイツ」
「アイツ?」
「そう。私から全てを奪ったアイツを探しているの! あの時も今くらいの時間にあのコンビニの前を通ったのは覚えている」
「あ~それは覚えている。楽しそうに俺に向かって振っていたよな」
「あ! 覚えててくれたんだ!」
「そうだな。あれ以来、君を見ることが出来なくて寂しい思いをしていたよ」
「え~またまたぁ……ホント?」
「ああ、ホントだ。だから、俺はてっきり違う町に行ったものだと……」
「違うの!」
俺は目の前の少女が高校卒業と同時に違う町へ行ってしまったのだとばかり思っていたが、どうやら違うようで彼女は叫ぶようにそれを否定した。
「……だって、だってあの後に私は」
「そう。それで……」
「うん、親に心配掛けちゃったみたい。ダメだね」
俺は彼女の言葉の後にコンビニの方に目を向けると彼女も俺の視線に気付き項垂れてしまう。
「それで、ここへ来たってことは何か確信でもあるのかい」
「うん。多分だけど、何回か見かけたことがあるのを思い出したのよ。そう、あんな感じの……アイツだ!」
その時にコンビニに入ってきた黒いステーションワゴンから降りてきた男を認めると形相を変え「アイツだ」と叫ぶが、通りの向こう側までは届かなかったようで男はそのままコンビニの中へと入っていく。
すぐに通りを渡りコンビニへ行こうとする彼女を引き留めて「何をするつもりだ」と問い掛ければ、彼女は「決まっているでしょ!」と声を荒げる。
だが、俺は彼女にそんなことをさせたくはない。だから、彼女を必死に止めると同時に何が出来るかを考える。そして、その考えが纏まると彼女に「聞いてくれ」と声を掛け、その場に座らせる。
「何よ! なんで止めるの!」
「いいか。よく聞くんだ。君はそんなことをしちゃいけない!」
「なんでよ! だって、アイツは私を……」
「全部を分かるとは言わない。でも、君がそんなことをしたと知ったら、親御さんが悲しむ」
「ウソよ。なんでそんなことが分かるのよ! それにお父さん達がこれ以上、何を悲しむって言うのよ!」
「いいから聞け!」
「……」
彼女は俺が絶対にこの腕を離すことがないと観念したのか、その場に大人しくしゃがみ込む。
「いいかい。親に取って子供が不幸になるほど、親不孝なことはない」
「でも、私は……」
「例え、そうでもだ。いつかは君の親が知ることになる。その時に親は『なぜ、あの子が』と思うと同時に何故、自分達が代わりにしてやることが出来なかったのかと悔やむに違いない」
「……分かった。でも」
「うん、君がしたいことも分かる。だからね……」
「え、そういうことが出来るの?」
「それは君の頑張り次第だ」
「分かった。頑張る!」
「ああ、そうしてくれ。俺も微力ながら手伝うからさ」
「うん!」
「ん? 君は確か……」
いつもの様に通りの向こう側を観察していた俺の前に現れたのは屈託のない笑顔の若い女性だった。
この女性を俺は知っている。そして、多分だが女性も俺を知っていたのだろう。だからこそ俺に声を掛けてきたのだと思う。
確か、この女性……いや、この女の子に会ったのは三年ほど前だっただろうか。その時も俺はいつもの様に通りの向こう側を観察していたのだが、今の様に屈託のない笑顔を浮かべ友達と一緒に笑いながら通り過ぎて行ったのを覚えている。
その時はまだ新しい制服に身を包んで歩いていたことから、恐らくだが近くにある高校の入学式に向かう途中だったのだろうと思っていた。それからは彼女がその通りを歩く度に何故か気に掛かり、幾度となく見かけることになるのだが彼女がこちらに気付くことはなかった。
だが、ある時、不意に彼女と目が合った。目が合った時、彼女は少し驚いた顔をしていたようで一緒に歩いていた友達が数歩先に行ったところで、その場に立ち止まっていた彼女を呼び、彼女が「ごめ~ん」と笑いながら友達のところまで小走りに寄っていったのを覚えている。
それから、彼女は俺と目が合うとニッコリと笑う様になり、数日経つと俺に向かって手を振ってくるようになった。そんな風に手を振る彼女を不思議に思ったのか、彼女の友達は誰に手を振っているのかと詮索している様だったが、彼女が「なんでもないから」と友達の背中を押しながらキャッキャと通り過ぎるのを見守る様になった。
いつからか、俺も彼女に対し手を振り返すようになり、それは俺の密かな楽しみとなった。
そして、彼女を最後に見かけたのは、彼女が卒業証書が入っているであろう筒を手に持っている姿だった。彼女は俺に向かって手とその筒を振って来たので俺も「おめでとう」と返した。
その声が聞こえたかどうかは分からなかったが、それから彼女を見かけることはなかった。学校を卒業したのだから、今は別の通路を通勤、もしくは通学路として使っているのだろうと思うことにしたのだが、忘れることは出来なかった。
彼女が高校に通っている三年間のほぼ毎日、挨拶を交わしていたのだ。だからこそ彼女を忘れることなど出来なかった。いや、忘れたくはなかった。
だが彼女とは三年間、ほぼ毎日の様に挨拶を交わしていたが、彼女が通りを渡りこちらに来ることはなかった。
それは彼女が女子高校生で俺がおじさんだから、しょうがないことと思っていたのだが、今彼女は俺の横にいる。
そして「初めまして」と挨拶を交わした。
「なんでこっちに……」
「ん~なんでかな。気が付いたらいたって感じかな。ね、それよりオジサンはなんでここにいるの?」
「……俺のことはいいから」
「え~でも気になるじゃない。オジサンは毎日、ここにいたでしょ。それはどうしてなの?」
「……だから、俺のことはいいから」
「ケチ!」
「そんなことより、あれは君じゃないのか?」
「あ! ホントだ……」
俺は通りの向こうにあるコンビニの窓に貼られている一枚のチラシを指差すと彼女に確認してもらう。
そして、彼女はそれを自分であることを認めた。
「なんか、ちょっと恥ずかしいね」
「で、いいのか?」
「何が?」
「何がって……探しているんだろ」
「ん……そうだね」
「そうだねって「だって、まだ探している途中だもの」……探している?」
「そう、探しているの。あの時、私は……」
彼女の身に起こった話を聞き、俺は納得する。
「そうか。だから、君はこっちへ来てしまったんだね」
「うん、そう。でね、オジサンのことを思い出したらここに来ちゃったの」
「そうか。それで君は何を探したいんだ?」
「……アイツ」
「アイツ?」
「そう。私から全てを奪ったアイツを探しているの! あの時も今くらいの時間にあのコンビニの前を通ったのは覚えている」
「あ~それは覚えている。楽しそうに俺に向かって振っていたよな」
「あ! 覚えててくれたんだ!」
「そうだな。あれ以来、君を見ることが出来なくて寂しい思いをしていたよ」
「え~またまたぁ……ホント?」
「ああ、ホントだ。だから、俺はてっきり違う町に行ったものだと……」
「違うの!」
俺は目の前の少女が高校卒業と同時に違う町へ行ってしまったのだとばかり思っていたが、どうやら違うようで彼女は叫ぶようにそれを否定した。
「……だって、だってあの後に私は」
「そう。それで……」
「うん、親に心配掛けちゃったみたい。ダメだね」
俺は彼女の言葉の後にコンビニの方に目を向けると彼女も俺の視線に気付き項垂れてしまう。
「それで、ここへ来たってことは何か確信でもあるのかい」
「うん。多分だけど、何回か見かけたことがあるのを思い出したのよ。そう、あんな感じの……アイツだ!」
その時にコンビニに入ってきた黒いステーションワゴンから降りてきた男を認めると形相を変え「アイツだ」と叫ぶが、通りの向こう側までは届かなかったようで男はそのままコンビニの中へと入っていく。
すぐに通りを渡りコンビニへ行こうとする彼女を引き留めて「何をするつもりだ」と問い掛ければ、彼女は「決まっているでしょ!」と声を荒げる。
だが、俺は彼女にそんなことをさせたくはない。だから、彼女を必死に止めると同時に何が出来るかを考える。そして、その考えが纏まると彼女に「聞いてくれ」と声を掛け、その場に座らせる。
「何よ! なんで止めるの!」
「いいか。よく聞くんだ。君はそんなことをしちゃいけない!」
「なんでよ! だって、アイツは私を……」
「全部を分かるとは言わない。でも、君がそんなことをしたと知ったら、親御さんが悲しむ」
「ウソよ。なんでそんなことが分かるのよ! それにお父さん達がこれ以上、何を悲しむって言うのよ!」
「いいから聞け!」
「……」
彼女は俺が絶対にこの腕を離すことがないと観念したのか、その場に大人しくしゃがみ込む。
「いいかい。親に取って子供が不幸になるほど、親不孝なことはない」
「でも、私は……」
「例え、そうでもだ。いつかは君の親が知ることになる。その時に親は『なぜ、あの子が』と思うと同時に何故、自分達が代わりにしてやることが出来なかったのかと悔やむに違いない」
「……分かった。でも」
「うん、君がしたいことも分かる。だからね……」
「え、そういうことが出来るの?」
「それは君の頑張り次第だ」
「分かった。頑張る!」
「ああ、そうしてくれ。俺も微力ながら手伝うからさ」
「うん!」
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