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第四十六話 イッちゃいな

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 その夜、村では盛大な宴会が催された。

 元孤児達が改めて村の一員となったこと、元メイド達と村の青年達との婚約発表、そして俺達に対しては魔法を教えてくれたこと、野盗を討伐したこと、そしてこれからの旅の安全を祈ってとかなんとか、要は食って飲んで騒げればなんでもいいのだろうが、気持ちはありがたい。

 ただ、それが形となっているのはフクだけだ。今も俺の周りにはアンナとミラしかおらず、フクの周りには村の少女達とフクよりは明らかに年上のお姉さんもしなだれかかっている。

「なんでアイツばっかり……元は同じハズなのに……」
「もう、何が不満なの?」
「そうよ、こうして私達が側にいるじゃない」
「……ハァ~」
「「シン!」」

 俺がフクを見て羨ましそうにしていると、横にいたアンナとミラが自分達が側にいるのに何が不満なのかと俺に言うが、いくらご馳走でも毎日だと飽きるというものだ。俺だってたまには地元の物を摘まんでもいいじゃないかと思う。

『ぷっ! キャハハ! もう、笑わせないでよ!』
「アリス、何がおかしいんだ!」
『だって、って……一度も経験ないくせに……って、キャハハハ!』
「くっ……」
「シン、どうしたの?」
「大丈夫? 酔っちゃったの?」
『ほらほら、遠慮しないで、ド~ンといっちゃいなよ。今なら、酔ったフリで許してくれるかもよ。ほら、イッちゃいなよ! 色んな意味でさ』
「出来るかよ!」
『え~何? 今さら、シチュエーションを大事にするの? もしかして最初は海辺のおしゃれなホテルでとか考えているの? バッカじゃないの。大体、そんなのこの世界のどこにあるって言うのさ。そんなんだと来世までそのままだよ』
「えっ、そうなの?」
『そうよ。いつまでもヘタレのままじゃ、ずっとそのままだね。そしてフクが先に階段を上るわね』
「ぐっ……」
「「シン?」」

 俺がアリスと脳内で会話をしているのをアンナとミラが心配そうに見ている。確かにこの二人の容姿は俺には勿体ないくらいだ。でも、俺だって最初のシチュエーションくらい夢見てもいいだろ。

『ふふふ、フーゾクで卒業しようとして、卒業出来たと思っていたのにね』
「うるさい!」

 確かに前はフーゾクで卒業しようとしたし、卒業出来たと思っていた。だから、今度は失敗したくないし、ちゃんと卒業する為にもちゃんと準備したい。でも、なんで二人なんだよ。せめて、一人なら搾って考えられるのにさ。

『ホント、贅沢な悩みよね。そういうのはいいから、とにかくヤッちゃいなよ!』
「簡単にいうなよ。一生に一度のことなんだぞ」
『そうは言っても二度目の人生でしょ。もしかしたら、またってこともあるかもよ』
「え、そうなの?」
『さあ? そこは上の考えることだから、私には分からないわよ。でも、今のところ面白いから私から推薦してもいいわよ』
「……いいや、やめとく」
『あら、いいの?』
「ああ、次があると考えてしまうとつまらなくなるからな」
『へぇ~』

 アリスは俺の答えに何か言いたそうだったが、特に何も言わないまま黙り込む。

「「……」」
「悪かったな。でも、酔ってないし大丈夫だから」

 俺のことを心配そうに見ていた二人に謝りグラスに手を伸ばす。

 グラスを傾け喉を潤すと「なあ」と二人に話しかければ二人も「何?」と返してくる。

「なんで俺なんだ? アンナは歳があれだけど、ミラならフクが合うんじゃないのか?」
「歳のことは言わないの!」
「だってフクは……なんか違うと思ったし」
「何? そんなこと考えていたの?」
「今さらだね」
「そうはいうがな」
「もう、いいじゃない。私達はあんたに助けられて、今ここにいるの。それでいいでしょ」
「そうね。私なんか特にそうよね」
「でも……うっ」

 俺が何か言おうとしていたら、アンナがもういいからとでも言いたいのか、俺の口を人差し指で押さえる。

「シンが言いたいことはなんとなく分かるけど別に今、ムリして答えを出さなくてもいいわよ」
「そうよ。別に一人を選べって言っていないんだし。二人一緒でもいいじゃない」
「え、いいの?」
「え、ダメなの?」
「一人だけ仲間外れはイヤだよ」
「え?」
「「え?」」

 二人の言葉に俺は自分の耳を疑うが『当たり前でしょ』とアリスが言ってくる。

「どゆこと?」
『あのね、ここは異世界でしょ。それに地球でも一夫多妻の国はあったじゃないの』
「いや、でも……」
『もう、折角二人がいいって言ってるのに!』
「だからって……」
「「……」」

 アリスに言われたからじゃないけど、確かに俺はどちらかをムリに選ぼうとしていたのかもしれない。だってしょうがないじゃないか。こっちは生粋の日本人だったんだから。そんな一夫多妻が当たり前なんだから受け入れろと言われてもいきなりはムリだ。

 でも、無理に決めなくてもいいとは言いながら、俺が何かを言い出すのを期待して見ている二人をどちらかだけ選ぶのは出来そうもない。ここは二人に甘えて先延ばしにさせてもらおう。

「「え?」」
「あ!」

 そう思っていたハズなのに気が付けば二人の手を握ってしまっていた。

『あらら、でもそれでいいのよ』
「頼むから静かにしててくれよ」
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