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第四十五話 そこ聞いちゃいます?

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 さて、カレン達に期限を一週間と切ってから、その一週間が経過したので返事を確認することにした。

 この村に留まるのか、俺達に着いてくるのか難しい判断とは思うが、一応救済策は預けているから答えは既に決まっているのだろうと俺は思っている。

 いつの間にか作られていた『魔道士フクとその従者達』と銘が打たれた石像の前でアンナとミラ、それにフクとユキでカレン達四人の元メイド達を待つ。

「しかし、どうして俺じゃなくてフクなんだよ」
「僕に言われても分かんないよ」
「どうせ、シンにするのがなんとなくイヤだったんじゃないの」
「あ~それ、分かる気がする!」
「ほう、それはどういう意味なのか、詳しく教えてもらおうじゃないか。ん?」
「「……」」
「あ、兄ちゃん来たよ!」
「お、来たか」

 フクが指差す方を見ると何故か顔を赤らめたカレンとガイン、そしてその後には同じ様にそれぞれ手を繋いだ男女が並んでいた。

「どうやら決めたみたいだな。カレン」
「うん。私、ここで彼と……ガインと一緒に生きていく!」
「カレン……」
「ガイン……」
「あ~そういうのは後でしてくれ」

 俺はカレンとガインが皆の前だと言うことも忘れて見つめ合っているのを慌てて止める。

「シン、怒らないの?」
「怒る? なんで俺が?」
「だって……」

 カレンは俺に対し旅を途中で抜けることに対し怒らないのかと確認してきたが、俺としては面倒をみるのが減るのであればウェルカムなんだが、カレンが思っているのは別のことだろうと思い当たる。

「お前が気にしているのは、記憶のことか?」
「……」
「お前の記憶が中途半端に戻っているのは感じていた。だが、お前はそれでいいのか? もし、記憶が完全に戻っても今のままでいられるのか?」
「酷いこと言うのね」
「俺は正直に言っているだけだ」
「そうね。シンはそういう気遣いが出来る男ではなかったわね」
「ふん、なんとでも言え。で、どうなんだ? ガインには話したのか?」
「なんのことだ?」
「ガイン、ちょっと待ってね」

 俺とカレンが話していることを暗にガインにも話したのかと言えば、それはまだだったようでガインが俺とカレンの会話の内容を訝しむ。そしてそのガインに対しカレンは少し待てと言い俺に向き直る。

「私もまだ全部を思い出した訳じゃない。でも、私が戻れば家族に迷惑を掛けることが分かるくらいには落ち着いている。そして、そんな風に落ち着けたのはガインの存在があったから。だから、私はこのままガインの側で暮らしていくと決めたの!」
「そうか、お前がそこまで決めたのなら俺からは何も言うことはない。だが、前にも言った通り『助けて欲しい』と思ったら、遠慮だけはするなよ。いいな、これだけ約束してくれれば俺は何も言わない」
「ふふふ、シンはいつもそう」
「ん? 何がだ?」

 俺がカレンとガインの関係を責めることはせず耐えきれなくなったら、助けを呼ぶことを躊躇するなと言えば、カレンが笑いながら揶揄うように言う。

「シンは気付いていないかも知れないけど、私達のことをぶっきら棒な感じで扱っているようで、その実はちゃんと傷が付かないように大事にしてくれていることは分かっているわよ」
「そ、そんなことはないだろ」
「もう、だからそういうのは残ってくれたアンナ達にちゃんと分かる様にして上げないとダメだぞって話よ。だって、相手はあのアンナなんだからね。普通にしててもあの娘には通じないからね」
「お、俺には関係ないだろ」
「ふふふ、シンがそう思っているだけよ。だって、あの娘達はシンに遠慮してこの村の男の人とはなるべく交流しないようにしていたんだからね」
「だからって「シン!」……なんだよ」
「いい加減にしないと怒るわよ!」
「……」

 カレンに言われて気にならなかったと言えば、ウソになるが確かにあの二人からは分かり易い好意を感じているのは確かだ。だが、俺はまだ目的の途中だしそういうことをしている余裕があるとは思えない。

『マジメか!』
「アリス……」
『もう、そんなマジメ君でいるとフクに先を越されちゃうわよ。それでもいいの?』
「先……って、それはどういう意味だ?」
『どういう意味って、そのままの意味よ』
「だから、どういうことだ!」
『もう、そういうのも鈍感なのね』
「いいから、答えろよ!」
『はいはい、いい? あのフクがモテない訳がないのよ』
「ん?」
『あのね、あのコミュ力お化けがその辺の娘に好感を持たれない理由がないのよ。現にフクをどうやったら相手にしてもらえるのかって悩んでいる娘が結構いるんだからね』
「え? ウソ……俺には誰も……」
『あ~だって、シンには側にいつも二人がいたからね』
「チェンジで!」
『うわっ最低な奴がココにいたよ!』
「なんでだよ! 俺だって、気にならない娘がいないわけじゃなかったんだぞ。なのになんだよ、その理由は!」
『私に怒ることないじゃない。全部、アンタのせいでしょ。中には珍しくシンに熱視線を送ってくる相手がいたのに全然、気付かないんだもん。もう、見てて見てておかしいやら悲しいやら……もう、思い出すだけで……ご飯三杯いけるわ!』
「……」
「シン?」

 俺がアリスと脳内で口汚く罵り合っていると、その様子を不審に思ったカレンが話しかけてくる。

「シン、大丈夫なの?」
「あ、ああ。なんでもない。それで、気持ちは変わらないんだな」
「うん。シンにはもちろん。アンナにも感謝している。でも、私はここで生きていきたいって思ったの!」
「そうか。分かった……じゃあ、今日は俺達の壮行会ってことで盛大に祝ってくれよな」
「うん! もちろん!」
「カレン……どうなったんだ」

 俺とカレンとのやり取りを黙って見ていたガインと他の元メイド達がカレンに注目する。

 カレンは皆の方を振り返ると「今日は宴会だぁ!」と叫び、回りにいた村人達もそれに呼応し「おぉ~!」と野太い声を上げる。

 俺はその様子を満足そうに眺めていると元孤児達が不安そうに見ていたのに気付く。

「お前達もここに残るんだろう?」
「うん……いいのかな」

 俺の問いにアンディが不安げに答える。

 俺はそのアンディの両肩を握るとアンディに目線を合わせて話す。

「アンディ、良いも悪いもお前がそう判断したんだ。それにこれから俺達はまだ旅を続けるが、その旅にお前達の様な小さい子供を連れて行くのは危険が伴う」
「でも、フクさんだって……」
「フクはその辺の子供と違うのはお前も知っているだろう」
「……うん」
「だから、ここに残るという判断をしたお前は正しいと俺は思う。それにカレン達にも言ったが、何もこれが最後と言う訳じゃない」
「え?」
「お前も何か辛いことがあったら、俺を頼ればいい。『助けてシン兄さん』と。重ねていうが、頼るのは俺だからな。間違ってもフクじゃないぞ」
「シン……もしかして石像のことを怒っています?」
「な、なんのことだ。俺がそんな小さなことで怒るような男とでも?」
「あ~めっちゃ気にしているじゃないですか。でも、しょうがないんですよ。だって、村の人と交流していたのはフクさんなんですから」
「……」

 俺は気付いてしまった。このまま気付かなければよかったのにと思いながらも確かめずにはいられない自分がイヤになりそうになりながらもアンディに確認してしまう。

「なあ、なんでで俺はシンなんだ?」
「え……今、それを言います?」
「だから、なんでなんだよぉ!」
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