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第二十五話 まずは食事を済ませてからだ

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 アンナが自分達だけでは解体もままならないと他のメイド達にも声を掛け、手伝ってもらう。
 だけど、カレンはまだ引き摺っているのか手伝いにすら出て来なかった。

「全くカレンてば……」
「いいから、放っておけ。今、話しても拗らせるだけだろ。晩飯食ったら、チャーリーの所に行くから、カレンも連れて行ってみるか。アンナも来るか?」
「いいの?」
「ああ。だが、屋敷の外には出られないからな。チャーリーに会わせるだけだ。だから、そこでチャーリーに聞きたいことを全部聞くようにカレンに言っといてくれ。それでもダメなら見限る」
「……分かったわ」

 その後、なんとか食べる分だけ解体を済ませると、肉の塊から『吸引』で血を抜き取る。
「なあ、ワイバーンの血液って、なにか需要はあるのか?」
『ないわね。竜ならあるけど、ワイバーンは劣化版だしね』
「そうか、なら死蔵だな」

 血抜きを済ませたワイバーンの肉を前にアンナが悩む。
「なにを悩んでいるんだ?」
「なにって、どうやって食べるのが美味しいのかなと思ってね」
「悩んでいるんなら、まずは薄く切るだろ。次に少し厚めに切ってからの試食だな。それで決めればいいじゃないか」
「そうか、試食ね。うん、ならそうしましょうか。まずは薄く切って。で、ちょっとだけ厚めの四角ね。あとはこれを焼いて……ふふん、うん中々いい匂いがして来たわね」

 石で作ったフライパンの上でいい感じに焼けていく。油自体は肉から出ているので、ひどく焦げ付くことはないようだ。
「じゃ、味見ね。はい、あ~ん」
 アンナが試食用の肉をフライパンから摘むとシンの口の方へ向けてくる。

「アンナ、なんのつもりだ?」
「なんのつもりって、試食でしょ。はい、あ~ん」
「いや、それは分かるけど、なんで……あ~んなんだ?」
「いいじゃない。ほら、早く! あ~ん」
「あ、あ~ん」
「どう? どうなの? もう一ついっとく? はい、あ~ん」
「あ、あ~ん」
 試食用に薄切り肉、ステーキっぽく厚くした肉を口の中に放り込まれて、しばらく味わう。

「どっちでもいけるな」
「そう。なら、どっちも用意しましょうか。ほら、聞いたわね。ジャンジャン焼いていくわよ!」
「「「は~い」」」

 この場はアンナに任せて、洞窟へと戻るとフクとユキがニヤけて俺を見る。
「にいちゃん、顔が赤いね」
『フク、あれが『あ~ん』です。覚えておくといいですよ』
「おい、ユキ。なにを教えているんだ!」
『なにって見ていてこっちが恥ずかしくなるくらいの『あ~ん』ですけど』
「見てたのなら、言えよ」
『いやよ。照れてるシンを見られるから楽しいのに』
「はぁ。分かったよ。分かったから、しばらく一人にしてくれ」
「『は~い』」

 飯の用意が出来るまで、これからのことを考える。
 カレンに宣言したように、このまま手を引くのは簡単だ。だが、それでは俺が面白くない。貴族にいい様に扱われるのも腹が立つ。
 なら、どうしたらいいのか。やはり、チャーリーに釘を刺し、手を出しようがない状態にもて行くのが一番最適だと思う。

 だけど、そうなるとカレンがなぁとさっきから堂々巡りだ。
 やっぱり、直接対決させてから、カレンが家族と自分のどっちを取るのかをちゃんと選ばせた方がいいな。

 食事の用意が出来たと呼ばれて、いくがやはりカレンはいない。
「まるで駄々っ子だな。自分の意見が正しいと信じて疑いがないなんてな」
「ごめんね」
 俺の呟きを聞いたアンナが反応しカレンのことだと思ったのか、謝罪してくる。

「なにに対する謝罪だ?」
「なにって、あの子のことで悩んでるんでしょ」
「そうだけど、アンナには関係ない話だろ。いざとなれば、あいつ一人をここに置いていくし」
「ふふ、そんなこと出来ないクセに」
「な、なにを」
「だって、そうでしょ。そういうことが出来る人なら、こんなことしないって。一人でさっさとどこか行っちゃってるでしょ」
「……」
「図星みたいね。うふふ、好きよ、そういうところ」
「え?」
「ほら、早く食事を済ませて。あのお兄様の所に行くんでしょ」
『あら、ごまかされちゃったわね。ねえ、気になる? 気になるわよね?』
「あ~もう、いいから。放っといてくれよ」

 アンナとのやり取りをアリスに揶揄われ、少しムッとしてしまう。

 食事を済ませてもまだ、カレンは出てこない。
「しょうがないな。アンナ、頼む」
「いいわよ。こっちよ」

 アンナに案内され、カレンがふて寝している場所へ行く。
「おい、立て」
「なによ。もう、用はないんでしょ? 放っといてよ!」
「ダメだ。お前を放っておくと他のが危険な目に遭う。だから、放っておけない」
「なによ! そんなの私の知ったことじゃないわ」
「そうだね。だけど、お前のことを片付けない限りは先に進めないんだよ。いいから、立て!」
「いやよ!」
「じゃあ、いいか。このまま行かせてもらうぞ。アンナ、肩に手を置いてくれ」
「これでいい?」
「ああ、じゃ行くぞ」
 俺はカレンの腕を引っ張り、アンナに肩を掴ませチャーリーの部屋へと転移する。

「おや、いきなりだね。今日はどうしたんだい?」
「ああ、あんたの真意を知りたくてな。ほら、好きなだけ質問しろよ」
 カレンをチャーリーの座る執務机の前に立たせる。

「なにか聞きたいことがあるのかな」
「はい……」
「いいよ。聞きたいことなら、なんでも答えてあげよう」
「私の家族は処分されないですか?」
「また、直球だね。ああ。しないよ」
「では、私はこの街に戻ってもいいですか?」
「……」
 カレンの質問にチャーリーが黙り込む。

「どうなんですか? 戻ってもいいんですか? だめなんですか?」
「別に私が、それを止めることは出来ない」
「じゃ……」
「まあ、よく聞いてほしい。君は私とオリヴィアのことを知っているんだよね?」
「……はい」
「では、私としては君がこの街に戻ることを歓迎することは出来ない」
「どうしてですか! 私はなにもしてないのに、お嬢様に付き合わされ、あんなところまで連れて行かれ、乱暴され、生きているのがツラいと思ったのに、それでもダメなんですか!」
「理由はシンが知っているんじゃないかな」
 チャーリーが俺に話を振ってくる。

「なぜ、そう思う?」
「君は簡単に人を信じることはしないだろ。特に貴族とかはね」
「よくご存じで」
「どういうこと? なら、シンが言ってたことは本当なの?」
「ほう、どういう風に言われているのか、興味が湧くね。よければ、教えてくれないか? 答え合わせといこうじゃないか」
「そうだな、じゃ話してやろうじゃないか。採点は甘めでお願いするぜ」
「まあ、聞こうじゃないか」
「じゃあ、話すぞ。俺の考えはこうだ……」

 チャーリーに俺が考えていた最悪のシナリオを話す。

「そうか、そう思っていたのか」
「ああ、で採点は?」
「そうだな、百点満点で九十九点だな」
「ほう、以外と高得点だが、足りない部分はなんだ?」
「オリヴィアを生かすことは出来ない」
「「……」」

 チャーリーの言葉にアンナとカレンが黙り込む。
「オリヴィアはあなたの妹でしょ! なのに、始末すると言うのですか!」
「そうだな。オリヴィアが生きている限り、シンが言う様に私の心の平穏は訪れないだろう」
「じゃあ、もし私が戻ったら、家族も処分されるのですか?」
「ああ、そうだね。それがどうしたんだ?」
「私の家族はなにも罰せられるようなことはしていないじゃないですか! それなのに……」
「だから、君のせいで家族全員が罰せられることになるんだよ。娘の責任は親は当然として、兄弟がいるのなら連帯責任として処分するのは当然だろ?」
「そんな……貴族の領主様の遊びに付き合わされて、なんとか生き延びて、やっと帰れると思ったら、家族の命を天秤にかけることになるなんて……どうしてですか!」
「それはシンも言ってただろ。私が貴族だからだ。それ以上でも以下でもない」
「そんな……」
「カレン、気は澄んだか。で、チャーリーは俺達がこの街に寄らないと約束したら、こいつらの家族には手を出さないと誓えるか?」
「そうだね、本当にそうしてもらえるのなら、私がどうこうすることはないだろう」
「信用していいのか?」
「そこは信用してもらうしかないかな」
「分かった。もしお前が俺達に対し、害しようと考えているのなら、こちらも反撃させてもらうがいいか?」
「そうだね、それくらいは約束してもいいかな」
「よし、契約成立だな『契約コントラクト』これで、お前が俺達かこいつらの家族を害しようとした瞬間に心臓に痛みが走るからな。そのまま、考えを捨てなければ十分もしない内に契約違反として処分されることになるぞ。せいぜい、気をつけて生きるんだな」
「待て! さっき言った契約内容は本当なのか?」
「ああ、いくらでも試してみればいいんじゃないか? 十分は超えない様にな。それだけ気をつければいいさ。ただ、人に頼んでも同じだからな。例えば、お前のお袋さんみたいに冒険者に頼めば、頼もうとした時点でカウントダウンが始まるからな。その辺だけは注意してくれよ。ほら、気は澄んだだろ、カレン。さっさと立つんだ。アンナも捕まって」
「「はい」」
「じゃあな、チャーリーも長生きでな!」
「あ、待て! シン!」
 チャーリーが呼ぶが知ったことじゃないと、洞窟へと転移する。

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