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第二十二話 初めまして、お兄様

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 領都のお屋敷を目指して、飛ぶこと数十分。やっと、お目当てのお屋敷の上空に着く。
「さて、肝心のお兄様はどこにいるのかなっと……」
『分かったわよ、シン』
「お、さすがアリス。で、どこにいるんだ?」
『そんなに慌てなくてもいいでしょ。ほら、転移の座標を設定してあげたから。こんなの普段はしないんだからね! 今日だけなんだからね』
「はいはい、ご苦労様。じゃ、『転移』」
 目の前の景色が一瞬で変わり、落ち着いた感じの色調の部屋に変わる。
 すると俺の存在に気付いたであろう、机に座る人物が俺に視線を向ける。

「こんな夜にいきなりだね。誰からの依頼なんだ?」
「誰からって、言うならオリヴィアかな」
「ふっ……オリヴィアからの依頼? それはないな」
 俺が正直に言っているのに、このお兄様は信じちゃくれない。

「まあ、信じてはくれないだろうなとは思っていたよ。だから、はい。これ」
 懐からオリヴィアが書いた手紙を出すとチャーリーの側まで近より渡す。

「これは?」
「サインに見覚えはない?」
 手紙の裏に書かれているサインを確認させる。

「サイン……まさか!」
「どういう意味の『まさか』は後で聞かせてもらおうかな。まずはその手紙を読んでくれな」
「分かった。読ませてもらおう」

『まさか』って言ったのが聞こえたけど、どういう意味の『まさか』なのかが気になる。
『まさか、生きているはずがない!』
『まさか、まだ生きているのか?』
『まさか、私との約束を守って生きていてくれたのか』
 どの『まさか』だろうか。

 チャーリーが顔を上げる。オリヴィアからの手紙を読み終わったようだ。
「ふぅ……読ませてもらったよ」
「で?」
「そうだな、オリヴィアは君が預かっているんだな?」
「そうだね」
「分かった。それでオリヴィアは連れてきてもらえるのかい?」
「ここに?」
「ああ、そうだ」
「わざわざ? 殺されに?」
「君も知っているのか?」
「知ってる。全部知ってる。なら、どうする?」
 チャーリーに俺は全部知っていることを話す。知ってしまったチャーリーはどう動くんだろうか。

「なら、妹はオリヴィアはどうなったら戻って来れるんだ」
「もう、手紙は読んだんだよね?」
「ああ、読んだ。そうか、そういうことか。原因を……あいつらをどうにかしない限りは無理か……」
「そういうこと。どう? やる? やるなら、手伝うけど?」
「軽いな……君は。少なくとも私にとっては親なんだがな」
「片方だけね」
「それも知っているのか」
「だから、全部知っているんだって」
 チャーリーがまだ親を追い出すことに躊躇しているようだ。まあ、チャーリーは、親のすることを見てはいるがオリヴィアみたいに体験していないからな。躊躇するのも無理ないか。

「なあ、この後の予定は?」
「私か? 私は特になにもないが」
「なら、誰かが訪ねてく予定は?」
「それもないな」
「分かった。じゃあ行こうか」
 チャーリーの肩を掴む。
「な、なにをするつもりだ?」
「なに、ちょっとしたお出かけだから心配するな。おやつもちゃんと持っているから」
「君はなにを言ってるんだ?」
「いいから、暴れると舌を噛むぞ。『転移』」

 一瞬で景色がチャーリーの部屋から洞窟の中へと切り替わる。
「え?」
「へ?」
「「「「「「きゃ~」」」」」」
「うぉぉぉぉぉ~」

 チャーリーを連れて転移した先では、オリヴィアとアンナさん達がほぼ裸な状態で体を拭きあっていた。
『あら、ラッキーね。ちゃんと録画してあるから見たい時には言ってね』
「(アリス、これはわざとだろ?)」
『さあ? まあ、いいじゃない。たまにはサービスってことでさ。それにちゃんと隠すところは隠しているんだし、いいじゃないの』
「(ありがと……)」
『どういたしまして!』

 チャーリーがアンナさん達にボコられている途中でオリヴィアがチャーリーに気付く。
「あれ? ちょ、ちょっと待って! ねえ、もしかしてだけど、お兄様なの?」
「「「「「え~?」」」」」
「あ、ああ。オリヴィア久しぶりだね」
 よろけながらチャーリーがなんとか立ち上がるとオリヴィアと向き合う。
「お、お兄さま……」
「会いたかったよ。オリヴィア!」
 チャーリーがオリヴィアに近よる……『パーン』
「なに考えているんですか! 若い女性が裸でいるところに乗り込んでくるなんて!」
「オリヴィア……違うんだ! 話を聞いてくれないか!」
「なにが違うんですか! 現にこうやって、私たちの前にいるじゃないですか! ……え? あれ? そういえば、なんで? なんでお兄様がここにいるの?」
 オリヴィアがやっと異変に気付き、こちらを見る。

「シン。ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「俺はいいが、その前にちゃんと衣服を整えた方がいいんじゃないのかな」
「衣服? あ、ああ、そうでした。お兄様のエッチ!」
『パーン』
「なんで、私が……」
 オリヴィアが陰で着替えを済ませ、気持ちを落ち着かせてから、俺とチャーリーの前にアンナ達と現れる。

 そして、チャーリーに対し綺麗な土下座を披露する。
「気が動転していたとはいえ、すみませんでした!」
「「「「「すみませんでした!」」」」」

「ははは、もういいから。ほら、顔を上げて。それにしてもオリヴィアも強くなったんだね。屋敷にいた頃とは大違いだよ」
「お兄様……」

「で、チャーリーはこれで俺のことも少しは信じてもらえるようにはなったかな?」
「君は『シン』でいいのかな?」
「ああ、シンと呼んでくれ」
「分かった。では、シンよ。ここまでのことを見せられて信じない訳にはいかないだろう。それに親を追放するのにも手を貸してもらえるのであれば、こちらから改めてお願いしたい。頼む」
 そういうとチャーリーが俺に向かって頭を下げる。

「おいおい、貴族は頭を下げないものじゃないのか?」
「いや、それは間違った考え方だと私は常々思っている」
「ほう、それは面白いが危険じゃないのか?」
「ああ、確かに危険だ。だが、私はこのやり方で貫いてみせる。そのつもりだ」
「分かった。なら、こちらも喜んで手を貸そう」
 チャーリーが右手を出してきたので、俺も右手を出してガッチリと握手を交わす。

「あのう……私からもいいですか?」
「君は……確かアンナだったね。なにかな?」
「私たちの家族の様子はどうなんでしょうか?」
「家族か。そうだったね、あいつらの計画では君達の家族も捕縛予定だったね」
「はい、そう聞いています」
「まあ、安心してと言うのもおかしいが、まだあいつらはそこまで動いていないよ。だから、まずは私が動いてみるから報告を待っていてほしい」
「はい! 分かりました。よろしくお願いします!」

「いいのか?」
「ああ、もう決めた。私はあいつらを追放する。まあ、簡単には追放することは出来ないだろうな」
「そうか、じゃあ今日はこの辺で送ってやろう。あいつらの処分方法は、また俺が出向いて相談に乗ってやるからさ」
「そうか、分かった。よろしく頼む」
 チャーリーはなにかが吹っ切れたような顔付きになったように見える。
 チャーリーの肩を掴み一緒にお屋敷の部屋に転移する。

「じゃあ、また明日な。今ぐらいの時間でいいか?」
「分かった。構わない」
「じゃあな」
 転移で洞窟に戻るとアリスが話掛けてくる。
『簡単に信用していいの?』
「まあ、裏切られたら、その時だ」
『それもそうね』
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