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第四章 ドンガ国

第十三話 お兄さんと呼ばないで!

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 ガイルさんから話を聞くよりはお兄さん本人と一緒に話した方が手間が省けると考え、ガイルさんと一緒にお兄さんの元へと向かう。

 その際にガイルさんがなんかグダグダと言っていたが互いの確執もそうだけど、どちらも一歩も引かない為に少しも進展しなかったということだけが分かった。

「兄上はここにいる。入るぞ兄上」
「……何しに来た。もう話は終わったハズだぞ」

 ガイルさんがノックをして部屋に入れば、大きな執務机の向こうで何やら書類を片付けている国王がいた。

 国王はガイルさんを一瞥するなり、話すことはないとつっけんどんな態度で言うなり書類に目を通す。

「いいや、終わってない! そもそも兄上から了承を得ないことには何も始まらないからな」
「だから、勝手にしろとさっきから言っているだろうが!」
「だから、俺も何度も行っているだろ! 『継承の儀』を国の祭りとして開催する為には、この『継承の儀』には『王位継承権は関与しない』と兄上のお墨付きが必要なんだって」
「……また、それか」
「そうだよ。まただよ。いい加減分かってくれよ」
「ふん! そんなのお前が負けた時の言い訳にしたいだけのことだろうが!」
「だから、なんでそんな風に受け取るんだよ!」
「あぁ? なら、お前が玉座に微塵も未練がないって証明してみろ!」
「だから、俺はこの国を出た時に王位継承権も棄てたと言っただろ!」
「なら、なんでこの国に戻って来たんだ! それこそ、玉座に未練がある証拠だろうが! そもそもお前が王位継承の儀をちゃんと受けないからこうなったんだろうが!」

 国王はガイルさんに対し玉座に未練がないことを証明してみせろと言うが、そんな心の中を見せろと言われても証明のしようが無い。正に悪魔の証明ってヤツだなと呆れて二人のやり取りを見ていたが、国王が言っていることも一理あるかもと思えて来た。

「……あのなぁ、この国を出る前から散々言っただろ。政務能力と鍛冶師としての能力はなんの関係性もないって!」
「それは俺の鍛冶師としての能力がお前より劣ると言うのか!」
「だから、そうじゃなくて……俺には国を動かす能力がないから身を引いたんだって」
「それが俺を下に見ている証拠じゃないか! 継承の儀で争えば俺に勝てると思っていたからこそ、自ら王位継承の儀を蹴ったんだろうが!」
「……」
「ほれ見ろ……小僧、これでコイツの考えが分かっただろ。話はこれだけか?」
「もう、殴ってもいいよな」
「アオイ、それはもうちょっと待って」

 イラッとしているアオイを宥め俺はここまでの二人の話を聞いて、自分なりに纏めてみた考えを話し出す。

「ガイルさんは確認するまでもないけど、玉座には興味がないし自分自身にも政務能力はないってことでいいんだよね」
「ああ、その通りだ」
「ふん、どうだか!」
「そして、国王のお兄さんはガイルさんと継承の儀でちゃんとシロクロ決着を着けたい……ってことでいいんだよね」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、簡単じゃない」
「「ん?」」

 俺が二人の心情を確認し簡単だと言えば、二人は不思議そうな顔をする。

「小僧、何が簡単なんだ?」
「え、簡単でしょ?」
「だから、どこが簡単なんだ!」
「もう、ガミガミガミガミうるさいなぁ。いい? お兄さんはガイルさんと決着を着けられればそれでいいんでしょ。ならさ、ガイルさんの提案通りに継承の儀に勝ったとしても玉座に座ることは出来ないし、単純に鍛冶師としての腕を競うコンテストだと国内に向けて宣言してもらうだけでいいんだから。ね、簡単でしょ」
「……ガイルよ。本当にそれでいいのか?」
「ああ、何度も言うが俺にそこに座る権利はない。それと今更だけど、国を出た時には継承の儀に勝てる自信なんかなかった。ただ、俺の周りで兄上と対立させようと目論んでいる連中が疎ましかっただけなんだ。変に誤解させてしまったみたいですまない」
「ガイル……」

 俺の説明を聞いて少しはガイルさんの玉座に興味がないと言っていたことに対し信憑性が上がったのかさっきまで寄せていた眉間の皺が少しだけ緩みガイルさんに本当かと確認すればガイルさんも俺の言葉を追認し国王に出奔した当時のことを謝る。

「ふむ、小僧。そしてガイルよ。お前達の言いたいことは分かった」
「じゃあ……」
「ああ、俺の名で正式に発布しよう」
「ガイルさん!」
「コータ!」

 俺とガイルさんは思わずガッシリと固い握手を交わすとアオイが「もう少しで殴るところだった」と言えば国王が「俺、国王なのに……」と呟いた。

「ありがとうね、お兄さん」
「小僧、俺はこれでも国王なんだがな」
「うん、知ってる。でもガイルさんのお兄さんなんでしょ。なら、お兄さんで間違いないよね」
「まあ、そうだが……ガイルよ、なんとかならんのか?」
「ならないね。兄上もたまには陛下とか国王とか言われるよりも新鮮でいいんじゃないか」
「だがな、俺の弟はガイル……お前だけだ」
「兄上……」
「きしょい」
「アオイ!」

 取り敢えず話は一歩進んだということで国王に感謝を伝えるが、国王は俺がお兄さんと呼んだことに対し訝しむ。

 そして俺は国王だと言うが、俺にとってはガイルさんのお兄さんに違いないわけだし、名前も聞いてないからお兄さんでいいじゃないかと言えば「俺の弟はガイルだけだ」と暗に兄と呼ぶのはガイルさん以外に許さないと聞こえた。

 それに感動したのか、二人で見つめ合ったのをアオイが一言で切り捨てる。

 国王は気を取り直して俺に名前を告げ、名前呼びを許可する。

「……そういう訳だから、小僧。俺のことは出来ればドイルと呼んでくれ」
「うん、分かったよドイルさん。じゃ、俺も小僧じゃなくコータって呼んで」
「アオイだ」
『タロだよ』
「そうか。コータにアオイにタロだな。ん? タロ?」
『うん、僕タロ。よろしくね』
「……ガイル、聞こえているのか?」
「兄上、気にするな」

 国王は目の前で前足を上げ返事をするタロに疑問符を浮かべるがガイルさんに気にするなと言われれば、それ以上の追求も出来ずに諦めるしかなかった。

「それにしても殴られなくてよかったぁ~」
「ああ、俺もそう思う」
「なら、止めろよ」
「いや、俺には海龍神リバイアサンを止めるのは無理だから」
「え?」
「……忘れてくれ」

 国王はガイルさんの言葉の意味を確かめる様にアオイを見るが「殴るぞ」と言われ目を背け伏せるしかなかった。

「ガイルよ、お前は一体何を引き入れたんだ?」
「ふふふ、兄上よ。人間諦めが肝心だぞ。それに俺が引き入れたのはアイツらだけじゃないからな」
「ん? どういう意味だ?」
「まあ、その内分かるだろうさ」
「お前、ホントに国を乗っ取る気はないんだよな?」
「ないよ。しつこいな~それにコイツらがいれば国どころか世界をこの手に納めることも夢じゃないんだからな」
「じゃあ、さっきのは……」
「うん。だから、忘れてくれ」
「……」

 ガイルさんと国王の会話がそれとなく俺の耳にも入ってきたけど、まあ考えてみればタロがフェンリルってだけでも信じられない話だし、アオイが本当は巨大な海龍神リバイアサンだなんて言ったって信じてもらえないこと確実だ。

 それに今、ガイルさんとここにはいないカリナの頭の中には俺の前世での知識がインストールされている。

 もし、その中の武器、兵器関連を悪用されようものなら、この世界の軍事バランスがひっくり返るだろうことは容易に想像がつく。

 既にインストールしてしまったから、後は二人のことを信頼することしか出来ないけど、アオイとタロがいればどうにでも出来るからとのほほんと構えられているのは確かだ。
『肯定します』
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