上 下
112 / 130
第三章 旅の始まり

第三十九話 王都を出るまであと少し

しおりを挟む
 馬車の乗り心地を改良するのもテンプレだなと思いながら、車の改良すべき点をカリナと相談する。

「先ずは直進性を高めないとだね」
「ちょくしんせい? なんで? 車輪を真っ直ぐにしてればいいんじゃないの?」
「それはね……」

 俺はカリナに分かってもらえるように模型を門から玄関まで続く石畳の上で走らせるが、石畳がゴツゴツとしている為に上手く転がらない。

 俺はしょうがないかと土魔法で緩く傾斜を付けた五メートルほどの直線を用意すると、その上に模型を乗せてから手を離せば、模型の車は一メートルほど走ったところで、右側に寄ってコースから外れる。

「ね?」
「いや、ねって言われても分からない」
「そりゃそうだね。じゃあ、次は直進性を高める為に前輪の角度を少しだけ内側にしたから、違いを見てね」
「いいけど……」
「じゃあ、行くよ」

 俺が模型の車から手を離せば、模型の車はコースから外れることなくコースを走りきる。

「え?」

 カリナは模型の車を手に取ると信じられないものを見たという風に驚いているが、二台の模型の車を同時に走らせ、その違いを理解しようとしている。

「何度やっても結果は変わらずか……コータが言っていることが少しだけ理解出来た様な気がする。だが、これは必要なのか?」
「えぇ! そこ?」
「ああ、この車なら操舵輪ハンドルがあるから、真っ直ぐに走らせることは出来るじゃないか」
「チッチッチ! カリナ君、君は分かってないな」
「カリナ君って。まあ、いいけど。で、俺が何を分かってないって?」
「だって、そんなの疲れるでしょ」
「は?」
「いや、だからね。ずっとハンドルを持って真っ直ぐ走らせるのは疲れるでしょって言ったの」
「長時間も走らないだろ」
「そりゃ、今のままならね。でも、そこを改良するんだし。魔力タンクのアオイも俺もいるんだから長時間走らせることは出来るよね。で、その間ずっとハンドルを握って真っ直ぐ走らせるってなると、スッゴく疲れると思うけどね」
「あ……」

 カリナは俺の話から直進性の大事さを分かってもらえたようだ。

 これで車は真っ直ぐ走らせることが出来たし、ある程度の乗り心地も確保出来たと思う。となれば、後は心臓部の確認だ。

「で、肝心の駆動部分は……っと、コレかな?」
「そう。これがそうだ」

 カリナは腰に手を当て薄い胸を張り、フフンと偉そうに答える。

「これってベルトで伝えているんだね」
「そうだ。これなら、確実に力が伝わるだろ」
「うん、ダメだね」
「そうだろ、そうだろ……え? ナニがダメなんだ」
「だって、これだと少し力が加わるとベルトも滑るよね」
「だが、他に伝達方法があるとも思えないが」
「そんなもん「ギアだな」……ちょっと、アオイ。俺のセリフ!」
「俺にも言わせろ。折角コータから知識を貰っても披露する機会がないんだからな」
「貰う? ねえ、それって俺も貰えないのかな?」
「出来るぞ」
「なら「待て!」……もう何?」

 駆動部分を見ると革のベルトで駆動部分と後輪の車軸を繋いでいるだけだった。これだと少しの負荷でベルトが空回りしてしまい、力が逃げてしまうと説明すれば、アオイが横からギアにすればいいと口を出す。

 するとカリナはアオイが俺から知識を貰ったと聞いて、自分にも貰えないかとアオイに言えば、アオイは首を横に振る。

「知識をカリナに与えることは出来るが「なら、やってよ!」……だから、聞け!」
「はい……」
「ふぅ~いいか。他人の知識というか、記憶を無理矢理頭に詰め込むんだぞ。俺は自分で加減出来るから、調整しながらなんとか出来たが、お前には無理だ」
「そんなのやってみないと分からないだろ!」
「だから、やってみて痛いからイヤだと途中で止めることは無理だぞ」
「え? 止めてくれないのか?」
「止めろと言うなら止めてもいいがな……」
「何? 言ってよ」
「廃人になるかもしれんぞ」
「廃人? どういうこと?」
「だから、さっきから言っているだろ。他人の知識を頭に詰め込むんだ。何も障害が無い方がおかしいだろ」
「じゃあ、途中で止めることなく痛みに耐えるしかないって言うの?」
「だから、さっきからそう言っているだろ。必要な知識なら、そんなに焦らなくても教えるから、な」
「イヤ!」
「イヤって、お前な」
「だって、コータの知識なら絶対に面白いに決まっているし!」
「だからな「いいから、やって!」……どうするよ、コータ」
「……そうだね、後々面倒にならないように遺言、いや誓約書を書いて貰った方がいいかもね。エミリーもいることだし。どうするカリナ」
「……分かった。書く! こうなったら遺言も一緒に用意しようじゃない! 待ってなさい!」

 カリナは俺達にそう言うと屋敷の中へと戻っていく。

「ありゃ、本気だな」
「まあね。俺の持っている知識がカリナの技術開発魂に火が着いたんだろう」
「そうだな。そんなところだろうな」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

処理中です...