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第三章 旅の始まり

第三十七話 そんな気はないから

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 まあ、なんとなくエミリーとカリナの関係は分かっていたつもりだったけど、思った通りでやっぱり姉妹だった。

 カリナは幼い頃から『発明王に俺はなる!』と言っていたようで、天性の手先の器用さで誰も思い付かないことを形にしてきたが、里にいたままじゃ新しいモノは何も生まれないと里を出る機会を狙っていたらしい。

 そんな時に冒険者になると里を出たエミリーを頼り、エミリーを追う形で里を出たまではいいが、今日まで実際にエミリーに会うことなく過ごしてきた。エミリーはエミリーで親からの手紙でカリナのことを心配し、生活の様子を知らせて欲しいと言われるが、そんな話は聞いてないエミリーは親への手紙に対し「今は自分も忙しくそれどころではない」と突き放した内容を送ったらしい。

「で、何か言うことは?」
「……」
「カリナ、正直に言いなよ。借金に困って身売りする直前だったと」
「それ以前にそんななりじゃ誰も相手にしてくれなかったこともな」
「アオイ、その辺にしてあげなよ」
「まあ、コータが言うなら……」

 エミリーが終始俯いた様子のカリナに対し、声を掛けるがカリナからの返事はない。俺も告げ口する気はなかったが、エミリーに隠しておくのも気が引けるのでカリナに対し借金したことも話すようにと口を出せば、アオイが揶揄うのでやんわりと止める。

「ごめんなさい!」
「それだけか。それよりも何故、今日まで私に姿を見せなかった?」
「だって……」
「「「だって?」」」
「怒るでしょ?」
「当たり前だ!」
「ほらぁ! だから、イヤだったのよ。ねえ、コータ。こんな怒りっぽいオバさんはイヤよね?」
「それを言うなら、お前も相当だろ」
「アオイ! 言っちゃダメ! まだ、コータにはバレてないんだから!」
「いや、エミリーと姉妹と言うだけで想像出来るだろ。それにな、コータは鑑定持ちだぞ。な、コータ」
「え?」
「えっと、ゴメンね」
「……」

 カリナがエミリーをオバさんと呼べば、アオイがカリナも似たようなものだろうと言い、カリナはまだ俺にバレてないのにと頬を膨らませて抵抗するもののアオイが俺は鑑定持ちであることをバラしてしまう。俺はなんとなくバツが悪くなりカリナに対し謝罪するが、カリナは何故だか全てが終わったという失望感が顔に浮かんでいた。

「カリナよ。言っておくがコータはダメだぞ」
「べ、別に狙ってなんかないわよ」
「そうか? お前は『自分のこと、発明品を理解してくれる人』が理想だっただろ?」
「そんな昔のこと、今は関係ないでしょ!」
「ほぉ、なら今は変わったのか?」
「……いわよ」
「は?」
「だから、自分の理想なんて簡単に変えられないって言ってるの!」
「ならば、お前もコータを狙っている……と、そういう訳か」
「もう、狙っているとかそんな直接的なことじゃないわよ。ただ、ほら! 一緒に旅していれば、そこは男女だもの。何があるか分からないでしょ。ね、コータ」

 エミリーがカリナに対し俺は自分のモノだから手を出すなと言うが、俺は了承した覚えがない。そして、カリナは自分の発明品を今まで理解してくれる人がいなかったことから、いつか自分のことを理解してくれる相手をずっと探していたらしい。そういうところは姉妹そっくりなんだなと思ってしまう。

 そしてカリナはそんな気はないと言うが、自分なりに思うところはあるらしく、そんな悪巧みがつい口から出てしまう。

「ふん、若いとはまた笑わせる。若いと言ってもそこのエミリーよりホンの二つ三つじゃないか。コータの理想を具現化した俺に適うとでも思っているのか? はん!」
「一番、最年長者が何を言うか!」
「最年長? アオイが? ちょっと、お姉ちゃん、アオイ、どういうことなの?」
「なんだ、お前は聞いてないのか?」
「フン! 態々言うことでもないだろ」
「何よ、言いなさいよ! 卑怯だわ」
「ふふふ、どうするアオイ?」
「……好きにすればいいだろ。だが、忘れるなよ。俺はコータの理想像だということをな、フン!」

 そして二人のやり取りを聞いていたアオイがカリナの悪巧みを鼻で笑うが、今度はアオイの方へと矛先が向けられてしまう。

 そんなアオイはまた呪文の様にコータの理想像だと両手で胸を揺らしながら宣言する。

「はいはい、もう止めようね」
「「「コータ!」」」
「エミリー、言っておくけど俺はあなたの婚約者になった覚えはないからね」
「だが、私より強い男など……」
「うん、それは分かるけど諦めずに探して下さい。お願いします」
「コータ……」
「きゃはは。フラれたね、お姉ちゃん。ねえ、今どんな気持ち? ねえ?」
「くっ……」

 アオイ達三人の不毛な会話を無理矢理止めてからエミリーには再度、俺の気持ちがないことを告げればエミリーの顔が曇る。だが、自分エミリーより強い男なら、諦めずに探せばきっといるに違いないと助言にもならない助言をする。

 するとそれを見ていたカリナがエミリーを揶揄うものだから、エミリーは俯きがちになる。

「それとカリナ」
「なあに、コータ」
「カリナの発明品を理解してくれる人なら、俺じゃなくてもソコにいるよね」
「え? 誰のこと? まさか!」
「俺だな」
「アオイ? いや、待ってよ。アオイは女性でしょ。俺は……」
「理解者ならアオイがいるでしょ。だから、異性に対し理解を求める必要はないよね。そういうことでごめんなさい」
「ぷっ……カリナよ。人のことは言えないな」
「何よ!」
「なんだよ!」
「二人とも姉妹揃ってフラれたな。ふふん!」
「「あ!」」

 俺は三人の様子から、これからの旅がどうなるのかなと不安になるが、先ずは王都から出るのが先だと気を取り直す。

 それよりもガイルさんのことが気になる。まさか、今日も呑んでいるってことはないよね。
 信じているからね、ガイルさん。
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