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第三章 旅の始まり

第二十八話 王との語らい

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 会議室ではオジサン達が「まさか」「いや、そんなはずは」とか口々にしている。思ったよりも被害者は多いみたいだなとか、思っていると王は宰相に目配せし宰相は黙って頷きながら視線を手元に落とし何やら書き込んでいるようだ。

 そして、宰相が衛士にそのメモを渡すと、衛士達はザワついていたオジサン達を次々と拘束し会議室の外へと連れ出していく。

 衛士達がオジサン達を連れ出すと残されたのは俺とアオイの他は王に宰相、それとマリオの他は数人程度だった。

「まさか、ここまで入り込まれているとは……」
「はい。ですがこれからの調査でもっと出て来るかと」
「そうか。だが、早めに分かってよかったと……そう思うことにしよう」
「はい」

 王と宰相があんまりな結果にうんざりとした表情になるが、俺の方を一瞥しなんとか納得したようだ。

 そして、会議室の中もなんとか落ち着きを取り戻し王が「さて」と仕切り直そうとしたところで、会議室の扉が勢いよく開かれると、そこにはさっきアオイに殴り飛ばされたヘリオが立っていた。

「ようやく来たか」
「ヘリオ様、こちらへ」
「……」

 宰相に案内されるヘリオは俺に気付くと「チッ」と舌打ちしながらも王の隣、マリオの横の席へと座ると同時に王から声を掛けられる。

「遅かったな」
「申し訳ありません。ですが「よい」……陛下!」
「また、先程と同じことを繰り返すのか?」
「ぐぬぬ……」
「分かればよい。では、コータ殿。ヘリオも席に着いたところで話をしてもらえるだろうか」
「いいけど、一言でも『うそ』とか『信じられるか』と言われたら、そこで止めるけどいいよね」
「ああ、構わん」
「コイツ、また「ヘリオ!」……ですが」
「ふぅお前はさっきから何が気に食わないのだ」
「陛下! 何がとはまた不思議なことを。いいですか、先程からこの小僧は私達王族に対し無礼な態度を取っているのですよ。それを諫めようとしているのに何故止めるのですか!」
「あ~それはそうだが」
「でしたら「まあ、聞け」……はい」

 ヘリオは何かと俺に対し無礼だなんだと文句を付けてきたが、王がそれを認めないのが腹立だしい様だ。だが、王はそんなヘリオに対し「聞け」とだけ言うと大人しくさせてから話し始める。

「確かにコータ殿の態度は目に余るものがある」
「ならば」
「だから、聞けと言っておる」
「はい……」
「確かに態度には問題はあるが、それでも無視出来ないのがコータ殿の功績だ」
「……」
「ふむ。それについては理解はしているようだな」
「……はい。確かにそれについては……認めます。悔しいですが認めるしかありません」
「ならば、多少の言動に対し目を瞑ることは出来ぬか?」
「出来ません!」
「そうか。ソフィアの……お前の妹の恩人だということを考慮しても無理か」
「ぐぬぬ……確かにそれについては感謝しております。ですが「よい」……は?」
「お前は自分の……王族という立場に対して我慢ならない……それしか考えていないようだな」
「そうです。それが何か問題なのでしょうか?」
「どこで間違えたのか……」

 王はヘリオの言葉に頭を抱えてしまい、隣の宰相も嘆息している。そしてマリオはと言えば、また面白いことが始まるとでも思っているようでさっきからニヤニヤとしている。

 王は暫く頭を抱えて考え込んでいたようだが、漸く顔を上げるとヘリオの目を見詰めながら口を開く。

「ヘリオよ。コータ殿はこの国の救世主でもある。ならば、多少の態度に問題があったとしても、それに文句を言うのは助けられた立場の余が文句を言うのは間違いだと思っている」
「ですが」
「聞け、それにだ。コータ殿はこの国の国民ではなく冒険者である」
「しかし、それでも我々王族、貴族に対する態度ではありません!」
「だから、先程からコータ殿は恩人だと言っているではないか!」
「いえ、いくら恩人だろうと許せないことがあります」
「余が許すと言っている。それにお前は不満があると……そう言うのだな」
「い、いえ。不満などではなく……単に儀礼として」
「それを踏まえた上で余が許すと言っているのだ。現にそれに対し不満を言っているのは先程からお前だけだ。それこそ、余に対する非礼ではないのか?」
「ぐぬぬ……」
「分かったのなら、大人しくコータ殿の話を聞くのだ。これ以上場を騒がすのなら退去してもらう。それと余に対する反意として処罰も有り得ると心得ておくのだな」
「そんな……」
「不満か? なら「分かりました」……それでいい。さて、コータ殿。騒がせたが改めて話をお願いする」
「ああ……」

 王とヘリオの話し合いは一応は終息したようだが、俺を見るヘリオの視線が鬱陶しい。そんなに気に入らないのなら部屋から出て行けばいいのにと思うが、出た瞬間に王太子の立場を剥奪されるのだろうな。
『肯定します』

 しかし、ここまで王族という立場に固執しているヘリオがこのまま王になっても大丈夫なのかと心配になったので、魔族のことについて話す前に少しだけ確認したくなり王の顔を見ると王も思うところがあったのか、俺の視線に気付くと話し始める。

「コータ殿、ヘリオの態度に不安があるのか?」
「ん? ああ、そうだな。あそこまで王族や貴族としての体面というかプライドを拗らせていると直ぐに『無礼打ち』を乱発した恐怖政治になりそうだなと」
「な、お前は私を侮辱するのか!」
「ヘリオ!」
「……」

 王に対する俺の答えにヘリオがまた激昂して噛みつこうとするが、王の一言で大人しくなる。

「そういうところをコータ殿は言っているのだ」
「しかし「口答えするな!」……はい」
「まったく、昔から直ぐに激情する性格を直せと言っているのに……ハァ~このままだとコータ殿の言うように、この国の将来に不安を感じても無理もなかろう」
「「「……」」」

 王の言葉にヘリオだけでなく回りの人達も思うところがあるのか、黙り込む。

 王は回りの様子を気にしつつも話し出す。

「ふぅ~コータ殿が不安に思うのも仕方ない。だが、この国では王の言葉一つで何かが動くことはない。例え余がコータ殿を討てと命じてもそれが直ぐに実行されることはない。ふふふ、その顔は何を言っているのか分からないという顔だな。ふふふ」

 王は俺の反応を見て楽しそうにしている。だが、王が言っていることが分からないのも事実だ。王は一体何を言いたいのかと考えていると王は続けて話し出す。

「ふふふ、コータ殿も分からないようだな。これは一手報いたかな。ふふふ、愉快、愉快。と、これでは話が進まぬな。コータ殿、見ての通りに余の横には宰相がついておる。そして、宰相の下にも文官が何人もついておる。それだけの者が余の言ったことを吟味し行うべきか否かを話し合うわけだ。どうだ? 余の言っておることが分かるか」
「まあな、要は王制を取りながら、その実は議会制に近い形を取っていて、独裁政治ではないということを言いたいわけでしょ」
「「「……」」」

 俺が王の問いに答えると聞いて来た王だけでなく、他の人達もポカンとしている。

「あれ、もしかしてやっちゃった?」
『肯定します』
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