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第二章 動き出す何か

第十二話 蠢くナニか

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 クリフさんに隠すことなく話すが「信じられません」と言って頭を横に振り、俺の話を聞いてくれない。

 信じて貰えなくても俺は構わないんだけど、目の前で起きた事実はしっかりと受け止めて欲しいし、ドレイクさんにもそろそろ戻って来て欲しい。

 とりあえず、俺はここでやるべきことは全部やったのでタロを呼び、この場から去ろうとしたところでクリフさんから呼び止められる。

「お待ち下さい」
「ん? まだ何かありますか?」
「はい、アレはどうするおつもりなのですか」
「はい、アレです」
「アレって……あれ?」

 クリフさんアレと言って差した湖の方を見ると、シュリを丸呑みした『海龍神リバイアサン』がこちらをというか、俺の方をジッと見ていた。これがあの有名な『仲間になりたそうな目でこちらを見ている』なのかな。
『肯定します』

 あ~やっぱりとか感慨に耽っている場合じゃない。こんなデカイのを連れて行けといっても無理でしょと断ろうとしたところで、クリフさんも海龍神リバイアサンと一緒に俺のことをジト目で見ている。

 どうしてこうなったんだろう。

 話は少しだけ遡り、それは皆が寝静まった頃の丑三つ時に俺は部屋のバルコニーから文字通りに飛び上がる。タロは気持ち良さそうに寝ていたのでお留守番だ。

 目的は湖にいると言われているシュリが探していたナニかを見付けること。

 足下からの『噴射ジェット』で湖中央まで来た俺は垂直になった状態で足下の湖面を眺める。

「でも、ホントにいるのかな」
『肯定します』

「あ~いるんだ。まあ、折角探しに来たんだしいるのならいっか。でも、ここにいる人達は見たことないみたいなんだよな。見たことあるのなら、話題になっててもおかしくはないし。もしかしたら寝てるだけってこともあるよな」
『肯定します』
「おぉ適当に言ってみるもんだな。でも、寝ているのを起こすのか。寝ているのなら湖底だろうしどうすっかな。ん~よし」

 湖底にいるであろうナニかに届かせるには重ければいいだろうと、俺は浮いた状態で両手に魔力を集めると目の前に長さ五メートルほどの円錐形の岩を生成する。

「尖っていたらケガするかな」

 先端を気持ち丸めてから同じ物を追加で四本用意すると直進させる為に、そのまま勢いよく回転させる。

「じゃあ、行ってらっしゃい! ほい!」

『バシャ~ン!』という音と共に五本の円錐形の岩が湖に潜っていく。

「ねえ、湖の断面図と今、落としたヤツの様子とか分かるかな」
『表示します』

「お~言ってみるもんだ。どれどれ? え、これがそうなの?」
『肯定します』

 視界に映されたのは湖を横から見たような断面図で、綺麗なお椀の形をしていて、その底にはとぐろ型のナニかが赤く表示されていた。そして、今ソコを目指して五本の物体が真っ直ぐに向かっている。

「もうすぐ着きそう。五,四,三,二,一,〇……あれ?」

 これがSF映画やアニメならば『チュド~ン』と効果音が流れていただろうが、湖底の音をここでは拾うことが出来ない。だが、とぐろ型のナニかの形が崩れたところを見ると、効果はあったのだろう。そして、真っ赤になったナニかが真っ直ぐ上へと登ってくる。

「あれ? もしかして怒っているのかな」

 湖面をジッと見ていると月明かりの薄暗い中でもハッキリ分かるくらいに湖面に黒いナニかが広がると、そのまま俺を呑み込もうとガバッと口を開けたナニかがいた。

「うわっ、あっぶないな~」
『%&#*!』
「え? ナニ?」
『&%$#!』
「だから、分からないって!」

 俺を丸呑みするのに失敗したのは蛇っぽいナニかだった。そのナニかは俺に向かって何か怒っているかのようにずっと怒鳴っていたが、その言語は俺の全言語理解スキルをもってしても分からなかった。すると、ソイツは急に黙ると俺の方をジッと見る。

『あ~これで分かるか?』
「ん? あら、急に分かる様になった。どういうことだ?」
『お前の思考を読ませて貰った。その中の言語っぽいものから、習得した』
「へ~そういうことが出来るんだ。へ~」
『ふふふ、そうだ。俺は凄いんだぞ』
「へ~ホントに凄いね」
『ああ、だがな。そんな凄い俺にかったい岩を落として来たヤツがいるとはな! 一体、なんの用だ!』
「あ、ごめん。いるのならどんなのがいるのかと思ってさ。ちょっと気になっただけなんだ。じゃあ、これで。俺はもう用が済んだから」
『あ? 待て待て! 俺を無理矢理起こして、見たかっただけと……そう言うのか?』
「うん、そう。じゃ」
『だから、待てと言っている!』
「もう、何?」
『俺はどのくらい寝ていたんだ?』
「知らない。じゃ」
『だから、待て!』
「だから、俺は昨日ここに来たの。だから、アンタがいつからここで寝ていたとか聞かれても知らないから」
『そうか。だが、俺がココに来た頃はあんなに建物やお前の様な小さな生き物はいなかったと思うんだが。更に言えば、ここには水はなかったと微かにだが覚えている』

 俺の目の前にいるコイツの話を聞いて朧気に分かったことは少なくともここ数年での話ではなく、百年、下手すれば千年単位で寝ていたのではないかということだ。

 この湖を地図で見れば綺麗な円形、断面図でもお椀型となれば、コイツがここに落ちた衝撃で隕石落下のように地面が抉れて、横たわるコイツを隠すように湖になり今に至るとか。
『肯定します』

 目の前のコイツに「推測だけど」と断り、俺の考えを話すと思いっ切り項垂れる。

『そうか……考えられるだけでも千年は経過しているんだな』
「まあ、俺もこの辺りの歴史は知らないから、確かなことは言えないけどね」
『いや、分かった。今は起こして貰えただけでも有り難い。礼を言おう』
「うん、まあ俺も見たかっただけとはいえ、無理矢理起こしてゴメンね」
『それは謝罪なんだな』
「まあね。じゃあ『だから待て』……もう眠いんだけど」
『俺はどうしたらいいんだ?』
「えっと、どういうこと?」
『いや、だからな。起こされた俺はどうすればいいんだ?』
「どうって、好きにすればいいじゃない。じゃ」
『だから、それを聞いているんじゃないか』
「え~あ! じゃあさ、明日の昼前くらいにまた、呼び出すから。ね、今はそれでいい?」
『昼前か。今、寝たらまた起きるのに何年も経ってそうだな』
「また、寝るつもりなの?」
『ん? あ、そうか。起きて待っていよう』
「ああ、そうして貰えると助かるかな」
『待っているぞ。絶対だぞ!』
「あ~はいはい」
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