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第二章 動き出す何か

第十話 いろいろ繋がった話

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「まずは食事をいただきませんか? 折角の食事も冷めてしまうから」
「……そうですね」
「それもそうか。では、頼む」

夢魔インキュバス』のことをどうにかする前に手を伸ばし掛けていた食事を前に我慢が出来ずに『いい加減メシを食わせろ』と遠回しにいったお陰でやっとメシにありつける。タロはすでにお代わりを堪能しているというのに。

 運ばれてきた食事を口に運ぶがやはり、味はイマイチだ。それでも何もないよりはマシだと思い少しずつ食べる。

 それにしてもソフィアの母であるブリジットさんは姿すら見せないのはどうしてだろうかと考える。娘のソフィアを助けたのは聞いているハズだろうにと思う。

 食事も終わり、口を拭き終わると姫さんに疑問をぶつけてみる。

「ねえ、ソフィア。聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「お母さんにはもう会ったの?」
「ん? まだだけど、それがどうしたの?」
「あのさ、俺ってソフィアを助けたんだよね」
「そうよ。でも、お礼はいらないってさっき言ったよね」
「うん、お礼は要らないけどさ、親としては普通なら俺に一言あってもいいんじゃないの? 俺に対するお礼の言葉は爺さんからしか聞いてないんだけどさ、これっておかしくない?」
「え? そうなの? クリフ、どうなの?」
「……そのことに関しましては私からはなんとも」

 あ~やっぱりなと俺は思ってしまう。王都から自分の娘が訪ねて来たと言うのにまだ会っていないというのも妙な話だ。そこで俺はイヤなことを思い付いてしまった。

「あのさ、こんなこと言いたくないけどソフィアはお母さんから疎ましく思われていないのかな」
「なんで、なんでそんなヒドいことを言うの!」
「あ~自分でもうすうすは気付いていたんだね」
「そんなことはないもん! お母さんがそんなこと……」

 姫さんも思うところがあったのか、目に涙を浮かべて「泣くものか」と耐えている様子だ。だから、敢えて俺の考えを話してみる。

「あのさ、ソフィアはお母さんが他の王妃から嫌がらせをされていたことは気付かなかったんでしょ。でも、お母さんはそんな嫌がらせを受けている時にソフィアは父親である王様から可愛がられていたんだよね。だから、お母さんからすれば『自分がこんな目に合っているのはソフィアのせいなのに』と思うのも自然だと思うよ」
「そんな……」
「だから、ここではソフィアではなくブリジットさんが姫でいられるのにソフィアが来たら、それすらも奪われてしまうと考えているんじゃないのかな」
「コータ君、いくらなんでも妹がそんなことを「でも、娘にすら会わないんじゃねえ」……ぐっ」
「そんな、お母さんにまで嫌われたら、私……わたし……うわぁぁぁ~ん」

 泣かすつもりはなかったんだが、姫さんの涙腺は決壊してしまい、専属メイドのお姉さんに抱きかかえられ、お姉さんは俺をキッと睨んでいる。

 姫さんの母親に関しては多分、正解だろうな。
『肯定します』
 それとさっきから隊長が睨んでいる。その手にはワインが入っていたであろうグラスを持ったままの状態で俺をジッと見ていると口を開いた。

「小僧、どうして礼をいらないと言うんだ。それこそお前が山の中で遊んで暮らせるだけの額も貰えるだろうに」
「だから、金額の多寡じゃないと言ってるよね」
「ふん! そう言って多少でも値を吊り上げようとしているんじゃないのか? ん、どうなんだ? 山猿!」
「ホント、失礼だな。そもそもだ。護衛のあんた達が弱すぎるから俺が出なきゃいけなかったんだろうが! あ、そうだよ。俺は隊長あんたから礼を言われてないよな」
「ふ、ふん! あんなの私達だけで十分だったんだ。予定通りならな。あ!」
「お! 今、予定通りって言ったね」
「し、知らん! そんなことは言ってない!」
「い~や、言った。あ~そういうことか。これで合点がいったよ」
「コータ君、それはどういうことなんだい?」

 俺が狙った答を隊長から聞き出すとドレイクさんが俺にどういうことなんだと聞いて来た。そもそもの話であれだけの魔物をいくら姫さんを襲撃するためとはいえ、どこに隠していたのかってのが不思議だった。だって、姫さんがいつどの道を通るのかを知っていないと魔物を配置することは出来ない。だとすれば誰かが内通していたと考えるのが普通だろう。

 じゃあ誰が内通したのかと考えた時に護衛騎士の弱さが気になった。とは言っても普通の強さとか俺は知らない。でも姫さんの護衛騎士になるくらいなら、ある程度の腕と言うか強さが要求されるハズだ。それなのに隊長達が戦っていた様子を見ても強そうだとは思えなかったんだ。

 だから、さっきの隊長との会話に『もしかして知っていたんじゃ』と思ってカマを掛けたら見事に引っ掛かってくれた。

「じゃあ、隊長さんにはもう少し詳しく聞かせてもらおうかな」
「し、失礼だな小僧!」
「まだ話し中でしょ『拘束バインド』」
「うっ……何をする小僧!」

 席を立ちこの場から去ろうとした隊長を捕縛する。

「さっき言ってた『予定なら』ってのはどういうことなの?」
「し、知らん! 私は知らない!」
「コータ様、これはどういうことなんですか!」
「クリフさん、この隊長ってちゃんと選ばれた人なの? 護衛騎士の隊長にしては弱すぎじゃない?」
「その辺りの選抜については私は関与していませんのでなんとも言えませんが……」
「そう。でもさ、さっき俺が言ったようにソフィア達の通る道を知っていないと魔物を使っての襲撃なんて出来ないでしょ。だって、アレだけの魔物をいつ通るのか分からない場所でずっと大人しくしているなんて無理でしょ。ってことはある程度はソフィア達の行動予定を把握していないと無理だよ」
「はあ、確かにそうですね」

 クリフさんも俺の考えていることを分かってくれた様だ。そして俺はさっき隊長が言っていた『予定通りなら』と言っていたことを検証する。予定と違っていたのは隊長も一緒に始末するつもりだったからなんだと思う。だから、予定と違っていたことに気付いた隊長は焦ってしまい通りすがりの俺を巻き込んだんだろう。それに粗方の魔物が片付いた所で俺達も合わせて始末するつもりだったんじゃないかと思う。
『肯定します』

 隊長の悔しそうな顔とメッセージの内容から間違いはないのだろう。とりあえず、明日にはここを離れるならと預かっているご遺体と闇ギルドの遺体も出してしまいたい。

 そのことをクリフさんに告げて、遺体を安置出来る場所を貸して欲しいということと殺害された護衛騎士の傷を検分した方がいいと伝える。

「場所は確保いたしますが、その護衛騎士の遺体を検分する必要はあるのですか?」
「うん、多分だけど隊長の剣で刺されたりしているんじゃないかと思ってね」
「それはどういうことでしょう」
「あ~それはね……」

 護衛騎士と言っても誰もが裏で暗躍している人の言うとおりに動く人ばかりではないだろうと。隊長を操っている人にも関与出来ない人事で選ばれた護衛騎士もいるだろう。だから、そういう人達はあの魔物の襲撃で邪魔者として真っ先に味方であるハズの騎士に刺され殺されたのではないかとクリフさんに話す。

 キンバリー領にはまだ足止めをくらったままの護衛騎士がいるので、事情が伝わらない内に捕縛することを提案する。

「巫山戯るな!」
「巫山戯ているのはどっちかな。まあ、例え王都に帰れたとしても生きていられる保証なんかないからね。賭けてもいいけど、アンタは始末されるよ」
「馬鹿なことを言うな! なんで私が」
「じゃあ、試してみる? 別に俺はアンタの生死には興味ないから」
「ぐぬぬ……」

 隊長も自分の処遇がどうなるのか分かっていたんだろう。そりゃ最初の襲撃で隊長も含めての全滅を企んだのだから、言わずもがなだろ。

「じゃあ、今晩はお世話になりますね。タロ、行くよ」
『ワフ!』
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