上 下
39 / 130
第二章 動き出す何か

第一話 出港

しおりを挟む
「どういうことだ!」
「申し訳ありません」
「私が聞きたいのは謝罪じゃない! どうしてこうなったのかと聞いている!」
「申し訳ありません」
「ええい、もういい。誰かコイツをつまみ出せ!」
「お待ち下さい! もう一度、もう一度だけ機会をお与え下さい。お願いします」
「クドい! おい、いいからさっさと連れて行って始末しろ!」
「そんな……私はあなたの為に今までいろいろと……グフッ……な、なんで……」

 必死に懇願している男と懇願されている老人の間に一人の男が割って入ると懇願していた男に向かい腹部に鋭利な刃物を押し当てる。

 やがて男は絶命し刺した男は心臓が止まり返り血を浴びないように注意しながら男の身体を躱し手に持つ鋭利な刃物から血糊を拭き取ると老人に会釈をしてから部屋を出る。

 老人はその男に鷹揚に挨拶を返すと床に寝転がる男を迷惑そうに一瞥しツバを吐きかける。

「だから、お前に色々知られているからこそ私にとってお前が生きているのは都合が悪いのだ。相変わらず察しが悪いな」

 床に横たわる男が片付けられると扉から入って来た男が告げる。

「司教様、皆が司教様のお言葉をお待ちしております」
「分かった。今行く」
「お願いします」

 司教と呼ばれた男は聖堂へと続く廊下をゆっくりと進む。やがて聖堂の女神像の前に置かれた聖壇の前に立つと鷹揚に両手を上に掲げると聖堂の中で司教に集中している信徒達に向け声を掛ける。

「女神イースに祈りを!」
「「「女神イースに祈りを!」」」
「女神イースからの祝福を!」
「「「女神イースからの祝福を!」」」

 ◇◆◇◆◇

 川辺の船着き場に馬車が着き順に馬車から降りる。

「来たな」
「キュリ、今日は頼むね」
「ふふふ、任せろ。今日の俺はひと味もふた味も違うぜ」
「あ~そういうのはフラグになりがちだから、あまり口にしない方がいいよ」
「ん? どういうことだ? そのふらぐってのはなんだ?」
「いいからいいから、あまり気にしないことだよ」
「……余計気になるじゃねえか。まあいい、船はあれだろ」

 そう言ってキュリが顎でくいっと指した方向にはそれほど大きくはないと思われる十四,五人ほどの定員だろうと思われる十メートルに満たない大きさの船が船着き場に接岸していた。

「コレに乗るんだ。俺に姫さんにクリフさんでしょ。後は隊長に専属メイドのお姉さんで五人。タロを乗せると二人分として七人か」
「それに俺達の交代要員も悪いが乗せてもらうぞ。それが二人な」
「じゃあ、全部で九人が乗ることになるんだね」

 俺が用意された川船の横で乗る人を確認しているとクリフさんが横に来て「それで間違いありません」と言う。するとここへ来る時に盛大にフラグを立ててくれ護衛の騎士がショックを受けていた。

 ちょっと気になり、耳をダンボにして聞いてみる。

「そんな……俺は姫様の帰省から帰ったら結婚できるのにこんなところで足止めなんて、あんまりだ!」

 横にいる別の護衛騎士が慰めているようだが納得出来るんだろうか。まあ、盛大にフラグを立ててくれた人が同道しないのなら多少は楽が出来るのではと考える。

 そんな護衛騎士は放置して『地図マップ』を開いて確認する。

「近くに敵性反応なし。しかし長い川だな……これを下流まで辿ると……王都? あれ? なら、どうして最初っから使わないんだ?」
「ふふふ、コータ様は何故、王都まで続くこの川を利用しないのか不思議でしょうね」
「え、ええ。そう思っています」
「それはですね……」

 俺が地図を見て不思議に思っていたことがクリフさんには筒抜けだったようで川を見ていた俺に説明してくれた。

 確かに王都からクレイヴ領までは船を使えばほとんど障害もなく辿り着くことは出来る。だが川を使うのは一見簡単そうに見えて、実はそうではない。上流から下流へと向かうクレイヴ領から王都までなら確かに流れに乗るだけなので、それほど難しくはない。逆に下流から上流へと向かう為には流れに遡ることになり簡単に進むことは出来ない。帆で進む仕掛けも考えはしたものの常に風を捕まえられることがないのと、遡れる程の推力が得られるほどの風が吹かないことも多いために断念したという。また、川底に竿を刺して推力を得ることも考えたが、途中に水深が深いところもありこれも断念した。

 それと王家であり貴族という身分がそれを許してくれないともクリフさんは教えてくれた。どういうことなのかと聞けば、街道沿いの町や他領に対し宿泊や買い付けでお金を落とすこと。それに陳情などの受付もあるために日数を掛けてでも陸路を使うことの必要性を説かれた。

 だが、今はリザードマンの力を借りれば下流から上流へと遡るのも苦ではなくなるだろうから、貴族ではない平民には関係ない話だよねと思ったが利権を握っているのは貴族だから平民だからと好き勝手には出来ないだろうと言うのがクリフさんの意見だ。ちなみにだが、今回の様にリザードマンに頼った運用は冒険者ギルドを通じてリザードマンへ依頼する形を取るため貴族の横入りは心配しなくてもよさそうだとも言っていた。

「へ~でも、それだと今度はリザードマンを捕まえて奴隷として扱いそうだけど、大丈夫なんですか?」
「はい。その辺りは既に書簡にて王様の方へ送りました。『リザードマンは友好的種族である』というのとお嬢様の恩人が間に入っているとも一筆添えましたので何かあれば王家が対処致します」

 姫さんの恩人って俺のことだよなと思うが、なんにせよ。リザードマンの保護に役立つのであればうれしいというものだろう。

「おい、そろそろ出すけど心構えはいいか?」
「へ? キュリ。そこは『準備はいいか?』じゃないの?」
「あ~まあ、それもだがな。ここは心構えの方が正しいと思うぞ」

 俺は腑に落ちないものの全員が乗り込んだのを確認出来たのでキュリに出発をお願いする。

「わかった。じゃあさっき言ったように気をしっかりもって。後、ちゃんと船の縁とかちゃんと捕まっててくれよ」

 キュリの言葉を理解した姫さんや隊長は船の縁をしっかりと握る。タロは握ることが出来ないので船底に伏せてもらい、俺もキュリの言うことを聞いてしっかりと縁を掴む。

「よし、準備はいいようだな。じゃ、船を出すぞ」

 キュリと一緒に船の最後尾を掴み身体を流れに対し水平にしているリザードマンがキュリとタイミングを合わせるかのように視線で合図を交わすと一気に船が押し出される。

「うわぁ! 速いねぇ」
「その割には驚きが少ないな」

 キュリには悪いが、前世でモーターボートを体験済みだったのでそれほどの驚きはない。だが、この世界でこれだけの速さを体験することはまずないだろうと思われるので俺以外は平気ではなさそうだった。しかも船は結構揺れている。これってエチケット袋が必要になりそうだな。
『肯定します』

※「司祭」だと神父同等とのことなので「司教」に変更しました。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

欲しいものはガチャで引け!~異世界召喚されましたが自由に生きます~

シリウス
ファンタジー
身体能力、頭脳はかなりのものであり、顔も中の上くらい。負け組とは言えなそうな生徒、藤田陸斗には一つのマイナス点があった。それは運であった。その不運さ故に彼は苦しい生活を強いられていた。そんなある日、彼はクラスごと異世界転移された。しかし、彼はステ振りで幸運に全てを振ったためその他のステータスはクラスで最弱となってしまった。 しかし、そのステ振りこそが彼が持っていたスキルを最大限生かすことになったのだった。(軽い復讐要素、内政チートあります。そういうのが嫌いなお方にはお勧めしません)初作品なので更新はかなり不定期になってしまうかもしれませんがよろしくお願いします。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...