異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ

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第一章 旅立ち

第二十五話 見えないフラグ

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 朝になり魔法で作った土壁の小屋の中で目を覚ます。

「う~ん、よく眠れたな。コレもタロのおかげだね」
『ワフゥ~』

 枕代わりにしていたタロから起き上がり軽く伸びをしてから、周りを見回すが一緒に寝ていたハズのリザードマンのキュリがいなかった。

 もう帰ったのだろうかと小屋の外に出ると川の中で横たわっている人型の何かが目に入る。

 こんな朝から縁起でもないどうか死体じゃありませんようにとその何かに近付くと岩を枕に気持ち良さそうに寝ていたキュリがいた。

「ハァ~もう心臓に悪い。ねえ、起きて……もしも~し」
『ん? あ~朝か』
「朝かはいいんだけどさ、なんでこんなところで寝てたの?」
『あ~乾いたからな』
「やっぱり」
『やっぱりって言うなよ。一晩くらいなら大丈夫かと思ったんだけどな』
「なんでダメだったの?」
『泥だな』
「泥?」
『あ~そうだ。普段は沼とかで過ごしているからな。泥が保護膜代わりになるんだよ』
「へ~そうなんだ。でも、昨日は体に泥は着いてなかったよね?」
『聞きたい? 話せば長いぞ』
「じゃあ、いいや。早く里に行こうよ」
『な~聞きたくないのか?』
「いいから。里はどっち?」
『……』

 キュリが話したそうにしているのは聞けば絶対にフラグが立つんだろうなと思い聞きたくない。

 キュリが答えないから、地図マップを表示させ「リザードマン」を識別させて表示すると俺の隣に一つ、そして離れた場所に緑の光点が固まっている場所があり、そこがリザードマンの里なのだろうと見当がつく。

「よし、タロ行こうか」
『朝ご飯はないの?』
「あ~もうちょっとしたらご飯にするから、それまで待ってて」
『ホント? 絶対だよ!』

 なんの準備もせずに出て来たものだからご飯を用意することが出来ずタロに不便な思いをせてしまった。

『なあ本当に聞きたくないのか。今なら五分に短縮したバージョンもあるぞ。五分だぞ、五分。なあ、聞きたくならない?』
「もう、さっきからうるさいよ。聞きたくないって言っているよね?」
『そう言うなよ。絶対に聞いた方がいいって』
「いいから。ほら、里はこっちの方でいいんだよね」
『ああそうだ。なあ、本当に「くどいよ」……すまん』

 川を遡ること数時間。影が短くなり、太陽が真上に来たのが分かる。もう昼なんだなと感じていると『ぐるる~』と動物の唸り声のような音が聞こえる。少し前からずっと聞こえているので音の発生主も分かっている。

『コータ、ご飯!』
「もうちょっと待てない?」
『待てないよ!』
「じゃあ、ちょっと『魚は止めてね』……え?」
『だって魚は昨夜食べたし』
「いや、それはそうだけどさ。他に食べる物なんてないぞ」
『え~そんなのイヤだよ』
「だけどな~イヤだと言われてもな~」
『そっちの山の中なら果実があるだろ』
「あるの?」
『いや、俺は知らないが採っている奴がいたぞ』
「ふ~ん、タロはそれでもいいの?」
『魚以外ならなんでもいいよ』
「分かったよ。ちょっと見てくるから」
『行ってらっしゃ~い!』

 タロに見送られて川から山の中へと入る。

「まあ、鑑定で可食な物を探せばいいかな『鑑定』っと。うん、結構あるね」

 視界に映る果実の表面に○Xが表示されるので、採取がしやすくなった。

「これは大丈夫、これはダメ。これは食べられるけど味が微妙、で、こっちも食べられるけど激辛と」

 そんな感じで食べられて味が妥当な物をアイテムボックスに詰めて帰る。

「はい、戻ったよ」
『おかえり~食べられるのあった?』
「ん~あったけど、味が微妙かもね」
『え~しょうがないな~』

 タロの返事に微妙にイラッとしながらも俺が用意した果実に齧り付くタロを見て「腹一杯食べろよ」と願ってしまう。

「キュリは食べないの?」
『俺はいい。里にももう少しで着くからな』
「え? あ、ホントだ」

 キュリに里が近いと言われ地図マップで確認すると、確かにすぐ近くに大きな緑色の光点がある。なら、食べ物探さなくてもよかったんじゃないかとキュリに文句を言うと『お前達が食べられる物があると思うか』と言われ確かにそうだなと納得してしまった。

 でも、魚が主食なら干物とかありそうだけど、キュリが手ぶらだったことからそういう保存食の類はないのかもしれない。

 それはそうと近いのなら暗くならない内に辿り着きたいのでタロに早く食べる様に言うと俺も適当に果実を頬張る。

『うぇ~ベタベタするよ、コータ』
「俺もそうだよ」
『どうにかして~』
「そうだな。まずは『水球ウォーターボール』でしょ。更に『撹拌』させて。お~いい感じ!」
『ボクも! グプッ』

 俺が自分の手元に水球を発生させると、その中を撹拌させた中に両手を突っ込むといい感じにベトベトしていた感覚が消えていく。水球の中で両手を揉むように洗っているところにタロが見るからにべたついている口周りが我慢出来ないようで水球の中に顔を突っ込むが息が出来ないことに気付き、咽せる。

『もう、ヒドいよ。息が出来ないじゃん』
「説明する前に顔を突っ込んだのはタロじゃん」
『あれ? そうだった?』
『……』

 俺達のそんなやり取りをキュリが驚いている。魔法を使うところは昨日見せたハズなんだけど何をそんなに驚くことがあるのかなとキュリに聞いてみる。

「ねえ、何がそんなに珍しいの?」
『お前、昨夜もそうだったけど魔法が使えるんだな』
「そうだよ。キュリも使えるでしょ」
『肯定します』
『いや、使えないぞ』
「ん? どっち?」
『どっちも何も使えないって』
「あ……」

 キュリは魔法が使えないと言うがメッセージでは『肯定します』と表示されていた。と、なるとこの世界のヒトと言うか生き物は総じて魔法が使えるらしい。
『肯定します』

「じゃあ、タロも魔法が使えるの?」
『肯定します』
『なんのこと?』

 キュリもタロも魔法が使えると言うことなので、ここからは臨時の『魔法教室』を開催することにした。幸いこんな場所なら人の目もないだろうから大丈夫だろう。

「え~突然ですが、今から魔法の指導を行います」
『は?』
『コータ、どうしたの?』

 俺の突然の宣言にキュリもタロも戸惑っているようだ。まあ、二人とも魔法が使えるとはこれっぽっちも思っていないのだから当然かもしれない。

「まあまあ、大丈夫。俺はどこもおかしくないよ」
『いや、でもよ。俺に魔法を使えって言うのはおかしいだろ』
『そうだよ』

 まあ、リザードマンのキュリはそう考えてもおかしくはないとしてもタロはフェンリルだということを忘れていないか。フェンリルと言えば、神獣と呼ばれるくらいに高位の魔物に位置付いているハズだし、魔法やスキルなんかも使えるハズだぞ。ラノベからの知識だけどね。

「とにかく、俺の言う通りにしてみてよ。タロは昨日、俺が教えていたのを見ていたからなんとなく分かるでしょ」
『え~そんなこと言われても……確か、そよそよ~だったよね。あれ、出来た?』
「やったね、ほら。やっぱり出来るんだよ!」
『な、なあ。じゃあ俺も出来るのか?』
「出来るハズだよ。やってみて」
『いや、やってみてと言うが……どうやってだよ?』
「あ、それもそうだね。あのね……」

 リザードマンと言えば水属性だろと勝手に決めつけて、先ずは『水球ウォーターボール』から教えてみる。

「言葉は必要ないからさ。こんな風に水の塊を出すことを考えてみて」
『それだけなのか? 何か必要じゃないのか?』
「いらないよ。いいからやってみてよ」
『そうか。じゃあ……ん? んんん?』

 俺がキュリの前に水球を浮かべて出すとキュリはそれを不思議そうに触ってみたりしていたが、俺が急かすと覚悟を決めたように唸り出すと、その手にピンポン球くらいの水球が浮かんでいた。
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