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第一章 旅立ち
第二十二話 いつの間にか争奪戦
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姫さんの状態も落ち着いた様なので気になっていたことをクリフさんに聞いてみる。
「クリフさん、聞きたいことがあるんですけど」
「はい、私で分かることでしたらなんなりと」
「あのね……」
俺はこの館のメイドさん達が俺に対し何かを期待しているような気がするとクリフさんは何か知りませんかと聞いた。
「はぁそうですか。その様なことになっていたんですね。それは申し訳ないことをしました」
「え? なぜクリフさんが謝るんですか?」
「いえ、これは私の落ち度です。コータ様は私共の恩人であり、お嬢様のご友人でもあらせられます。しかし、この館でのお世話を私共ではなくここのメイド達に任せてしまった為でもあります」
「いや、それは無理もないことだと思いますが、それがどうして俺を狙ってくる話に繋がるんですか?」
「ああ、そうでしたね。そこをお話しないといけませんね。実を申しますと……」
クリフさんが言うには俺が平民であること、姫さんの友人であること、親がいないことなどが婚姻を結ぶ相手としては好条件で申し分ないとのことだった。
姫さんを世話する専属メイドのお姉さん達は有力貴族からの行儀見習いとして王家に仕え、他家の貴族に見初められればそのまま輿入れすることが出来れば家の為になると教えられているとも教えてくれた。だから、俺の様な平民には目を向けることはない。だけどもウェルターさんの様な地方貴族では商家や有力者の娘が同じ様に行儀見習いとして仕えることが多い。しかし、王家と少し違うのは婚姻相手を探すのは出来ればラッキー。そうでなければ自分から体当たりの手当たり次第と言うことだ。貴族に気に入られお手付きになり子供を授かればその貴族家に取り入り、家も安泰するだろうとの打算的な考えだ。
だけど、俺の場合はうるさい親もいないし、貴族との関わりもないが最高位の王家とつながりがあるのだから、下手な下級貴族よりも十分目があると思われているとのことだった。
それに給仕にちゃんとお礼を言ったり、湯浴みの時にメイドのお姉さんの介添えを断ったこともプラスに補正されているとか。
なので、クリフさんはそういう煩わしさを避ける為にも姫さんの専属メイドから一人回すと約束してくれた。
俺はクリフさんにお礼を言うとタロと一緒に部屋を出ようとしたところで、こちらを見ていた姫さんに気付く。
「何?」
「……何ってそっちが何か言うことがあるんじゃないの?」
「あ~鼻から出ていたところは見ていないから、気にしないで!」
「しっかり見ているじゃない! だから、そうじゃないでしょ。これから依頼を受けるんでしょ。何日か会えなくなるのに何か言うことはないの?」
「あ~じゃあ、お元気で」
「はい、さようなら……じゃない! もっとこう……ほら、あるでしょ。察しなさいよ!」
正直面倒だなと思いながら、どういうのが正解なのかと数少ない人生経験の中とマンガや映画とかの中から正解を探そうとするが、どれも地雷の様な気がしてならない。
『肯定します』
「あ~やっぱり」
「何よ!」
「なんでもない。こっちのことだ。じゃあ、行って来るから」
「はぇ……」
そう言って姫さんの頭をぽんぽんと軽く手を乗せると姫さんの顔がプシュ~と音が聞こえるくらいに赤く染まる。
これはこれで正解だったのかもしれないが、俺は友達の線を越えるつもりはないんだからと姫さんに願いを込めるが……やっぱり間違いだった様な気がしてならない。専属メイドのお姉さんはあらあらとでもいうようにニヤついているし、クリフさんはハンカチで目尻を押さえているし。
とにかくここから逃げるのが先だとタロを呼びつけ、部屋から急いで出る。
館を出ると冒険者ギルドを目指すが、その前にふと思い出す。俺ってば冒険に出ると言うのに手ぶらじゃないかと。どうしようかと思うと門衛のニヤけている顔を見てちょうどいいと小走りで近付く。
「よう、お出掛けなんだって? いきなり指名依頼とはな。さすがCランクだな」
「それはどうも。あのね、ちょっと聞きたいんだけどいいかな」
「なんだ? 金ならないぞ」
「そんなの分かっているよ。ノエルさんにしっかり握られているんじゃしょうがないよね」
「な、なんでそれを!」
「だから、聞きたいのはそれじゃないんだって」
「じゃあ、なんだ。俺もヒマじゃないんだ」
「もう、そっちが言ったクセに……あのね、武器が欲しいんだ」
「武器? お前は魔法メインだろ。それなら必要ないだろ」
「いやいや、何言ってんの。魔道士でも接近戦が出来ないと死んじゃうよ」
「ほう、なかなか分かっているじゃないか。それでどんな武器が欲しいんだ」
「ん~分からない」
「お前、それじゃこっちもアドバイスのしようがないだろ」
「でも、使ったことないし」
「まあ、そうだな。山の中から出て来たばかりじゃしょうがないか。よし、俺が懇意にしている鍛冶士を紹介してやる」
「え、いいの?」
「ああ、俺からの紹介だと言えば、ちゃんと話も聞いてくれるだろうよ。いいか、その店はな……」
冒険者ギルドには昼前に行けばいいとクリフさんに言われているので、その前にハンスさんに教えてもらった鍛冶士の店に寄ってみることにした。
「えっと、ハンスさんに聞いた場所だとこの辺りなんだけど……タロ、何か分からない?」
『……あっちから何か叩いている音がする』
「ありがとう。行ってみよう」
『ワフ!』
タロの耳を頼りに進むと俺の耳にも槌を振るっているような小気味いい音が聞こえてくる。
「多分ここだよね。よし、開けるよ」
『ワフ!』
「こんにちは……うわぁ~すごく熱い……」
『ガンガン』と音はするが俺の挨拶には返事がないので、もう一度大きい声で呼んでみる。
「こんにちは~誰かいませんか? こんにちは~」
「うるさい! 聞こえている! 誰だ、まったく……あん……小僧、俺になんの用だ?」
店の奥から出て来たのは俺より少し背が低く顔は髭で覆われ、汗で滲んだタンクトップに作業ズボンといった出で立ちの男だった。
「あ、なんだ。俺のことをジロジロ見やがって。そんなにドワーフが珍しいのか?」
「あ、すみません。山の中から出て来たばかりで……他種属の人に会ったこともないもんだから」
「ああ、そういうことなら仕方がないか。それで俺になんの用だ?」
「実は……」
俺はハンスさんからの紹介でここに来たことを話して、出来れば自分にあった武器が欲しいということを正直に話す。
「ハンスめ、また面倒なことを持ち込みやがって……小僧、名前は?」
「えっと、コータと言います。こっちはタロ」
『ワン!』
「お、おお。俺の名はガイルだ。見た通りの鍛冶屋だ。よろしくな」
「は、はい」
俺は差し出されたガイルさんの右手を握り返す。ゴツゴツとしたザ・職人といった手だなと思った。
「じゃあ、こっちだ」
「はい」
ガイルさんに案内され店の奥へと進むとそこには片手剣に両手剣、メイスにハンマーにと多種多様な武器が壁や棚に並んでいた。
「うわぁ~凄い! どれもこれも強くなれそう」
「うんうん、そうだろ、そうだろ」
俺が並んだ武器を見てそう感想を漏らすとガイルさんも嬉しそうに頷く。ただ、見ているだけじゃ分からないのでガイルさんに手に取ってみてもいいか聞くと黙って頷き「振ってみろ」と一番近くにあった片手剣を渡してきた。
「振ってみろと言われてもな~」
学生時代に授業で剣道を習っただけだしと自分に言い訳をしながら、渡された剣を両手に持ち半身になるように足を前後にずらし剣を上段に構えてから振り下ろす。
『剣技スキルを習得しました』
「へ?」
「どうした? そんなんじゃ分からないぞ」
「え? あ、はい」
もしかして武器を扱えば、そのスキルを入手出来るのかな。
『肯定します』
俺はメッセージを読みチート万歳と叫びたい気持ちを堪えながら剣を振り続けた。
「クリフさん、聞きたいことがあるんですけど」
「はい、私で分かることでしたらなんなりと」
「あのね……」
俺はこの館のメイドさん達が俺に対し何かを期待しているような気がするとクリフさんは何か知りませんかと聞いた。
「はぁそうですか。その様なことになっていたんですね。それは申し訳ないことをしました」
「え? なぜクリフさんが謝るんですか?」
「いえ、これは私の落ち度です。コータ様は私共の恩人であり、お嬢様のご友人でもあらせられます。しかし、この館でのお世話を私共ではなくここのメイド達に任せてしまった為でもあります」
「いや、それは無理もないことだと思いますが、それがどうして俺を狙ってくる話に繋がるんですか?」
「ああ、そうでしたね。そこをお話しないといけませんね。実を申しますと……」
クリフさんが言うには俺が平民であること、姫さんの友人であること、親がいないことなどが婚姻を結ぶ相手としては好条件で申し分ないとのことだった。
姫さんを世話する専属メイドのお姉さん達は有力貴族からの行儀見習いとして王家に仕え、他家の貴族に見初められればそのまま輿入れすることが出来れば家の為になると教えられているとも教えてくれた。だから、俺の様な平民には目を向けることはない。だけどもウェルターさんの様な地方貴族では商家や有力者の娘が同じ様に行儀見習いとして仕えることが多い。しかし、王家と少し違うのは婚姻相手を探すのは出来ればラッキー。そうでなければ自分から体当たりの手当たり次第と言うことだ。貴族に気に入られお手付きになり子供を授かればその貴族家に取り入り、家も安泰するだろうとの打算的な考えだ。
だけど、俺の場合はうるさい親もいないし、貴族との関わりもないが最高位の王家とつながりがあるのだから、下手な下級貴族よりも十分目があると思われているとのことだった。
それに給仕にちゃんとお礼を言ったり、湯浴みの時にメイドのお姉さんの介添えを断ったこともプラスに補正されているとか。
なので、クリフさんはそういう煩わしさを避ける為にも姫さんの専属メイドから一人回すと約束してくれた。
俺はクリフさんにお礼を言うとタロと一緒に部屋を出ようとしたところで、こちらを見ていた姫さんに気付く。
「何?」
「……何ってそっちが何か言うことがあるんじゃないの?」
「あ~鼻から出ていたところは見ていないから、気にしないで!」
「しっかり見ているじゃない! だから、そうじゃないでしょ。これから依頼を受けるんでしょ。何日か会えなくなるのに何か言うことはないの?」
「あ~じゃあ、お元気で」
「はい、さようなら……じゃない! もっとこう……ほら、あるでしょ。察しなさいよ!」
正直面倒だなと思いながら、どういうのが正解なのかと数少ない人生経験の中とマンガや映画とかの中から正解を探そうとするが、どれも地雷の様な気がしてならない。
『肯定します』
「あ~やっぱり」
「何よ!」
「なんでもない。こっちのことだ。じゃあ、行って来るから」
「はぇ……」
そう言って姫さんの頭をぽんぽんと軽く手を乗せると姫さんの顔がプシュ~と音が聞こえるくらいに赤く染まる。
これはこれで正解だったのかもしれないが、俺は友達の線を越えるつもりはないんだからと姫さんに願いを込めるが……やっぱり間違いだった様な気がしてならない。専属メイドのお姉さんはあらあらとでもいうようにニヤついているし、クリフさんはハンカチで目尻を押さえているし。
とにかくここから逃げるのが先だとタロを呼びつけ、部屋から急いで出る。
館を出ると冒険者ギルドを目指すが、その前にふと思い出す。俺ってば冒険に出ると言うのに手ぶらじゃないかと。どうしようかと思うと門衛のニヤけている顔を見てちょうどいいと小走りで近付く。
「よう、お出掛けなんだって? いきなり指名依頼とはな。さすがCランクだな」
「それはどうも。あのね、ちょっと聞きたいんだけどいいかな」
「なんだ? 金ならないぞ」
「そんなの分かっているよ。ノエルさんにしっかり握られているんじゃしょうがないよね」
「な、なんでそれを!」
「だから、聞きたいのはそれじゃないんだって」
「じゃあ、なんだ。俺もヒマじゃないんだ」
「もう、そっちが言ったクセに……あのね、武器が欲しいんだ」
「武器? お前は魔法メインだろ。それなら必要ないだろ」
「いやいや、何言ってんの。魔道士でも接近戦が出来ないと死んじゃうよ」
「ほう、なかなか分かっているじゃないか。それでどんな武器が欲しいんだ」
「ん~分からない」
「お前、それじゃこっちもアドバイスのしようがないだろ」
「でも、使ったことないし」
「まあ、そうだな。山の中から出て来たばかりじゃしょうがないか。よし、俺が懇意にしている鍛冶士を紹介してやる」
「え、いいの?」
「ああ、俺からの紹介だと言えば、ちゃんと話も聞いてくれるだろうよ。いいか、その店はな……」
冒険者ギルドには昼前に行けばいいとクリフさんに言われているので、その前にハンスさんに教えてもらった鍛冶士の店に寄ってみることにした。
「えっと、ハンスさんに聞いた場所だとこの辺りなんだけど……タロ、何か分からない?」
『……あっちから何か叩いている音がする』
「ありがとう。行ってみよう」
『ワフ!』
タロの耳を頼りに進むと俺の耳にも槌を振るっているような小気味いい音が聞こえてくる。
「多分ここだよね。よし、開けるよ」
『ワフ!』
「こんにちは……うわぁ~すごく熱い……」
『ガンガン』と音はするが俺の挨拶には返事がないので、もう一度大きい声で呼んでみる。
「こんにちは~誰かいませんか? こんにちは~」
「うるさい! 聞こえている! 誰だ、まったく……あん……小僧、俺になんの用だ?」
店の奥から出て来たのは俺より少し背が低く顔は髭で覆われ、汗で滲んだタンクトップに作業ズボンといった出で立ちの男だった。
「あ、なんだ。俺のことをジロジロ見やがって。そんなにドワーフが珍しいのか?」
「あ、すみません。山の中から出て来たばかりで……他種属の人に会ったこともないもんだから」
「ああ、そういうことなら仕方がないか。それで俺になんの用だ?」
「実は……」
俺はハンスさんからの紹介でここに来たことを話して、出来れば自分にあった武器が欲しいということを正直に話す。
「ハンスめ、また面倒なことを持ち込みやがって……小僧、名前は?」
「えっと、コータと言います。こっちはタロ」
『ワン!』
「お、おお。俺の名はガイルだ。見た通りの鍛冶屋だ。よろしくな」
「は、はい」
俺は差し出されたガイルさんの右手を握り返す。ゴツゴツとしたザ・職人といった手だなと思った。
「じゃあ、こっちだ」
「はい」
ガイルさんに案内され店の奥へと進むとそこには片手剣に両手剣、メイスにハンマーにと多種多様な武器が壁や棚に並んでいた。
「うわぁ~凄い! どれもこれも強くなれそう」
「うんうん、そうだろ、そうだろ」
俺が並んだ武器を見てそう感想を漏らすとガイルさんも嬉しそうに頷く。ただ、見ているだけじゃ分からないのでガイルさんに手に取ってみてもいいか聞くと黙って頷き「振ってみろ」と一番近くにあった片手剣を渡してきた。
「振ってみろと言われてもな~」
学生時代に授業で剣道を習っただけだしと自分に言い訳をしながら、渡された剣を両手に持ち半身になるように足を前後にずらし剣を上段に構えてから振り下ろす。
『剣技スキルを習得しました』
「へ?」
「どうした? そんなんじゃ分からないぞ」
「え? あ、はい」
もしかして武器を扱えば、そのスキルを入手出来るのかな。
『肯定します』
俺はメッセージを読みチート万歳と叫びたい気持ちを堪えながら剣を振り続けた。
応援ありがとうございます!
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