異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ

文字の大きさ
上 下
3 / 131
第一章 旅立ち

第三話 何も聞いてないです

しおりを挟む
『えっと、どうかしたのかな?』
「さあ? 俺にはさっぱり。でも用がないのなら行こうか」
『うん!』

 タロが喋ったせいなのか姫さん達は口を開けたまま固まってしまったようなので俺達はそれならとこの場を去ろうとしたところでやっと再起動した執事さんが再び「お待ち下さい」と言うので立ち止まり振り返ると執事さんは綺麗なお辞儀をしていた。

「申し訳ありません。コータ様のお連れのタロ様が声を発したことに驚きのあまり戸惑ってしまいました」
「えっと、こちらこそごめんなさい。じゃあ」
「ですから、お待ち下さい」

 執事さんにフリーズしたことを謝罪されたが面倒なので適当に返し、その場から離れようとしたが、今度は執事さんに右腕を掴まれた。

「えっと……」
「私は言いましたよね。このままタダで返すことは出来ませんと」
「は、はい……」

 執事さんの圧力に負け、大人しく話を聞く体勢になる俺とタロを前に執事さんが話し出す。

「言いたいこと、聞きたいことは多々ありますが……」
「『はい』」
「コレはなんでしょうか?」

 執事さんが言うコレとはタロが咥えて引き摺ってきた人だった物体だ。先程の石礫ロックバレットの犠牲者と言えるだろう。何気なく初めての殺人となったが、実感がない。大丈夫なのか俺?。

「えっと、多分ですけど先程の実行犯だと思いますよ」
「先程のと言うと……まさか、此奴らが魔物を使って姫様を襲撃させたと言うことですか!」
「ええ、そうだと思います。そいつらは、あそこの少し高くなっている丘の上でこちらの様子を窺っていたみたいですよ」
「そうなんですね。しかし、此奴らの服装はどこかで見た覚えがありますね。サーシャ、ちょっとこちらへ」
「なんでしょうかクリフ殿」
「此奴らの服装に見覚えがありませんか?」
「……ん? いや、まさかそんなハズは……」

 執事さんに呼ばれた隊長が所々ずるむけになった三人の格好を確認する。俺も少しだけ見たがアニメやラノベのイラストでよく見る如何にも『魔道士です』って感じの揃いの服装だった。

 そして、その格好に見当が付いたのか執事さんと隊長の顔色が変わる。

 っていうかさっきから執事さんが俺の腕を掴んだままなんだが段々と力が込められて痛いんですけど、いい加減離してくれないかなと小さく『エヘン』と咳払いをすると、やっと気付いてくれた執事さんが「申し訳ありません」と俺の手を離してくれた。

「じゃあ、俺は「いえ、もう無理です」……え?」
「お礼もしていないのは散々言っていますが、此奴らを捕まえたことのお礼も追加でしないといけません。そしてついでに言えば、此奴らを見たことを他所で話されるのも困るのです」
「え~」

 執事さんに断り、もうお礼なんかいいから、この場から離れようとしたところでまた執事さんに捕獲されてしまう。しかも何やら大事に首を突っ込んだようで見られたからにはしょうがないですねと俺を見る執事さんの目が怖くなる。

「クリフ、コータ殿が怖がっていますよ」
「はっ失礼しました」

 執事さんは姫さんに謝ってはいるが俺の腕を離すことはないようだ。もう、どうにでもして欲しいと思っていると護衛騎士の方々が出発の準備が出来ましたと報告してきた。

「そうですか。分かりました。では、姫様も馬車の方へ。コータ殿も一緒に行きますよ」
「え? 俺が? なんで? どうして?」
「ふふふ、子供一人こんなところに置いていけないでしょう。それにまだお礼を述べただけですからね。どうぞ」
「姫様、なりません!」
「サーシャ!」
「ぐぬぬ!」

 姫さんが俺を馬車の中へと勧めてくれたのが隊長は気に入らないようで姫さんに忠告するが、それを執事さんに止められ口籠もる。

 馬車の中へ入ろうとしたところで、亡くなった騎士達の遺体をどうするのかと気になっていたが、布にくるんで途中の町で埋葬すると聞いた。

「あれ? ラノベと言えばアイテムボックスやインベントリに魔法鞄マジックバッグとかあるんじゃないの」
『肯定します』
「俺も使えたりするのかな」
『肯定します』
「使えるんだ。じゃあ、えっと収納……え?」
「「「え?」」」

 目の前にあった襲撃犯と思わしき三人の遺体に向けて『収納』と呟いたら、消えてしまったことに焦ってしまう。同じ様に見ていた姫さん達は単純に驚いていたようだけど。

「えっと、ちょっと待って! え~と取り出せばいいんだよね」

 さっきのご遺体を思い浮かべて箱の中から取り出すようにイメージしてみると、かざした右手から。地面にさっきのご遺体が並ぶ。

「あ! 使えた!」
「コータ様、今のは?」
「あ、えっとアイテムボックス……なのかな?」
「「「え~!」」」

 姫さん達に取り敢えずは『アイテムボックス』が使えるみたいだからと、この三人のご遺体と騎士達のご遺体の運搬を申し出ると姫さんだけでなく隊長からも少しだけ感謝される。

 全てのご遺体を収納し改めて馬車へと乗り込む。馬車の中には隊長と姫さんと俺の三人で、執事さんは御者席に座る。配置としては進行方向に向かって姫さんが座り、その姫さんの対面に隊長が座り俺はその隣に座らせられていた。まあ、姫さんに何かしようとしたら何がなんでもとめるぞという風に俺をずっと睨んでいるのは勘弁して欲しいが、せめて兜だけでも脱いでくれたらいいのにと思っている。

 そんな風に思っていると好奇心が我慢出来なかったのか姫さんからあれやこれやと質問攻めに遭う。どうしてあんなところにいたのか、タロはなんなのか、魔法は使えるのかなどなどだ。

 姫さんからの質問に対し俺が考えた設定はこうだった。

 祖父と一緒に山中で暮らしていた。
 タロはその時に山の中で拾った子犬だ。
 魔法も少しだけ祖父に教えてもらった。
 その祖父が亡くなったのでタロと一緒に山を下りて来たところで、姫さん達の馬車に遭遇した。

 俺も質問されてばかりではなく姫さん達ご一行がどこに向かっているのかを確認すると、どうも姫さんの母親が実家の領で療養中とのことでそこへ向かっているらしい。

 それはいいのだが、どうして襲われたのか心当たりはないのかと言えば、姫さんは無口になり隊長は『空気を読め』とでも言いたげに俺を睨む。

 なし崩し的に巻き込まれた俺はどうするのが正解なのかと窓の外に目をやれば、そこには楽しそうに駆けているタロの姿があった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

追放されましたがマイペースなハーフエルフは今日も美味しい物を作る。

翔千
ファンタジー
ハーフエルフのシェナは所属していたAランクの勇者パーティーで魔力が弱いからと言う理由で雑用係をさせられていた。だが、ある日「態度が大きい」「役に立たない」と言われ、パーティー脱退の書類にサインさせられる。所属ギルドに出向くと何故かギルドも脱退している事に。仕方なく、フリーでクエストを受けていると、森で負傷した大男と遭遇し、助けた。実は、シェナの母親、ルリコは、異世界からトリップしてきた異世界人。アニメ、ゲーム、漫画、そして美味しい物が大好きだったルリコは異世界にトリップして、エルフとの間に娘、シェナを産む。料理上手な母に料理を教えられて育ったシェナの異世界料理。 少し捻くれたハーフエルフが料理を作って色々な人達と厄介事に出会うお話です。ちょこちょこ書き進めていくつもりです。よろしくお願します。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...