異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ

文字の大きさ
上 下
2 / 130
第一章 旅立ち

第二話 離れたいのに

しおりを挟む
 タロにばかり戦わせてるのが面白くないのか護衛騎士の人達の視線が冷たい気がする。そういや、魔法が使えるとか言っていたなと思いだし、タロの背後から近付くゴブリンに向かって右手を突き出し、それを左手で支えながら呟いてみる。

「『石礫ロックバレット』……」
 ヒュンと音がしたと思ったら、タロの背後から迫っていたゴブリンの額に小さな穴が空き緑色の液体を吹き出しながら倒れる。

「おう、出来た! ふふふ、これで俺も魔法使いだ!」
「おい、一匹倒したくらいで何を喜んでいるんだ! まだいるだろうが!」
「もう、ちょっとくらい余韻に浸らせてくれてもいいじゃないか。はいはい、分かりましたよ。でも、一匹ずつってのは面倒だな。そうだ! 『地図《マップ》』に敵性を赤色で表示出来るかな」
『肯定します』
「じゃあ、お願い」
『……』

 視界に広がる地図に赤い光点が表示されたのを確認すると「目標固定ロックオン出来るかな」と言えば『肯定します』と返って来たのでお願いすると襲っていたゴブリンやオークの額にレーザーポインターの様な赤く小さな点が表示される。

「よし、じゃあ行くよ。『石礫ロックバレット』!」
 ヒュヒュヒュッと音がすると、赤い点を撃ち抜きその場に倒れるゴブリンとオークの皆さん。

「え? どういうことだ。まさか、お前がやったのか?」
「うん、タロにばかり働かせるのもと思ってね」

 騎士達は自分が戦っていたハズの魔物が次々に倒れていったのを不思議に思いながらも隊長だけは俺の仕業と認識したのか確認してきたのでそれを肯定する。そして、離れた所にあった赤い光点も気になってはいたが、それをタロが気付いてくれた。


『ねえ、コータ。拾って来た方がいい?』
「ああ、そうだな。頼むよ」
『うん、分かった』
「あ、おい、ちょっと待て! どこにやった!」
「まあまあ、ちょっと待っててよ。この事件の犯人らしきヤツを拾ってくるだけだからさ」
「はんにん……なんだそれは?」
「えっと、なんて言えばいいのかな。この襲撃を企んだヤツ?」
「何! それはどう言うことだ!」
「それを俺に聞かれても……」
「そうだな済まない。許せ」

 タロが俺から離れ、どこかに行ったのを隊長が止めようとしたのを俺が制してタロが拾ってくるのを待ってくれるように頼むが、『襲撃犯』がいたことの方が問題だったみたいで隊長が慌てる。さっきから、「だからなのか」「どうして」「どこから漏れた」とか呟いている。

 隊長が思考に耽っていると馬車の扉が開き中から片眼鏡モノクルを付けた白髪頭の老紳士が降りてくる。見た目から執事と思われる。

 紋章が入った黒塗りの上質な感じの箱馬車にいかにもな執事に護衛騎士の団体とここまで見事なテンプレならば、次に降りてくるのは……。

 見た目執事な老紳士が馬車の中に右手を差し出し、誰かが降りてくるのをエスコートしている。するとフリーズ状態から帰って来た隊長が「姫様、なりません!」と降りてくるのを止めようとするが姫様と呼ばれた女性……いや、女の子はそれを制して馬車から降りてくる。

「私達を守る為に戦ってくれたのです。お礼くらい言わせて下さい」
「ですが……」
「サーシャ、姫様の言う通りに」
「分かりました」

 お礼を言いたいと言う女の子に隊長は何か言いたそうだったが、執事さんがそれを制する。

「護衛騎士の皆様、守っていただきありがとうございます。お陰で私はこうして無事でいられます。本当にありがとうございました」
「あ~姫様……そんな」
「「「……」」」

 隊長だけでなく他の護衛騎士も姫さんの感謝の言葉に胸を熱くしているようだ。そして、俺はと言えばいつここから抜けられるのだろうか、タロが早く帰って来てくれと願っていると姫さんは俺の前に立っていた。

 今の俺の身長は分からないが、視線が同じ高さであることからおそらくそれほど変わらないのだろう。であるならば、俺の今の身長は百五十センチメートルくらいだろうか。そんなことよりも今、目の前にいるのは正真正銘のお姫様なんだよな。ふわふわな巻き毛に白い肌、そしてキリッとした目鼻立ちに青い瞳にどことなくいい匂いが鼻腔を擽る。

 そんな匂いを思いっ切り嗅ごうとしていると「姫様、なりませぬ!」と俺の前から姫さんが消えた。見ると隊長が姫さんを守るように俺と姫さんとの間に立ち、その背に姫さんを隠している。

「サーシャ、なんのつもりですか」
「いけません姫様。この子供は油断なりません」
「ですが、私を守る為に一緒に戦ってくれたのですよね。なら、一言くらいお礼を言いたいのです。そこをどいてください」
「いいえ、どきません。さっき、この小僧は鼻をいっぱいに膨らまして姫様の匂いを胸いっぱいに嗅ごうとしていたのです。そんな輩に近付ける訳にはいきません!」
「あら……」

 どうやら隊長には俺がしようとしたことがバレていたらしい。これはまいったと後頭部を右手でガリガリと掻いていると隊長の背後から顔を覗かせている姫さんと目が合った。

 姫さんは心なしか頬を赤くしていたようで、俺がしようとしたことが恥ずかしかったのかなとか思っていると執事さんが「サーシャ姫様の前です」と言えば、隊長が悔しそうに姫さんの前から離れる。

「改めまして。私はトガツ王国の第三王女でソフィア・フォン・トガツと申します。この度は私達の護衛騎士にご助力下さりありがとうございました」
「いえ、お……私は単なる通りすがりなだけで大したことはしていませんので、そんなお礼を言われるほどでは……」
「そうだ! お前は私が声を掛けるまで黙って見ていたんだ! そうだな?」
「ええ、まあ、そうっちゃそうだけど、助けたのも事実でしょ。なのにその言い方はどうなのさ」
「ぐぬぬ……」
「そうですよサーシャ。最初はどうであれ助けて下さったのは事実です。本当にありがとうございました」
「いえいえ、じゃあお礼も受け取りましたのでお……私はこのへんで……」

 ちゃんと姫さんからのお礼も受け取ったし、これ以上ここにいたら隊長がいろいろと爆発しそうなので、ここから離れようとしたところでタロが何かを引き摺りながら帰って来た。

 引き摺ってきた何かを俺の前に置くと褒めて褒めてといった感じで俺の顔をジッと見ているので、ムツゴロウさんばりに「よ~しよし」と思いっ切り頭を撫でて、じゃあとその場を離れようとするが「お待ち下さい」と今度は執事さんに声を掛けられる。

「失礼ですが、助けていただいた上に言葉ばかりのお礼だけで済ませる訳にはいきません。まずは貴方様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「えっと、私の名は『コータ』と言います。そして『タロだよ』です」
「「「……」」」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

追放されましたがマイペースなハーフエルフは今日も美味しい物を作る。

翔千
ファンタジー
ハーフエルフのシェナは所属していたAランクの勇者パーティーで魔力が弱いからと言う理由で雑用係をさせられていた。だが、ある日「態度が大きい」「役に立たない」と言われ、パーティー脱退の書類にサインさせられる。所属ギルドに出向くと何故かギルドも脱退している事に。仕方なく、フリーでクエストを受けていると、森で負傷した大男と遭遇し、助けた。実は、シェナの母親、ルリコは、異世界からトリップしてきた異世界人。アニメ、ゲーム、漫画、そして美味しい物が大好きだったルリコは異世界にトリップして、エルフとの間に娘、シェナを産む。料理上手な母に料理を教えられて育ったシェナの異世界料理。 少し捻くれたハーフエルフが料理を作って色々な人達と厄介事に出会うお話です。ちょこちょこ書き進めていくつもりです。よろしくお願します。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。

ちょす氏
ファンタジー
あ~めんどくせぇ〜⋯⋯⋯⋯。 不登校生徒である神門創一17歳。高校生である彼だが、ずっと学校へ行くことは決してなかった。 しかし今日、彼は鞄を肩に引っ掛けて今──長い廊下の一つの扉である教室の扉の前に立っている。 「はぁ⋯⋯ん?」 溜息を吐きながら扉を開けたその先は、何やら黄金色に輝いていた。 「どういう事なんだ?」 すると気付けば真っ白な謎の空間へと移動していた。 「神門創一さん──私は神様のアルテミスと申します」 'え?神様?マジで?' 「本来呼ばれるはずでは無かったですが、貴方は教室の半分近く体を入れていて巻き込まれてしまいました」 ⋯⋯え? つまり──てことは俺、そんなくだらない事で死んだのか?流石にキツくないか? 「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」 ⋯⋯まじかよ。 これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。 語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...