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第二章 これからの生き方を求めて

第10話 一攫千金とは行かない

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 ナキ達がのんびりと森へと果実採取に出掛けていた頃、領都ではちょっとした騒ぎになっていた。

「伯爵様!」
「どうした? ノックもせずに何をそんなに慌てている」
「ハァハァ……それが……実は物見からの報告で……ハァハァ……」
「物見からだと!」
「は、はい。ワイバーンを発見したと……報告が……ありました……」
「それで、どこに向かっているのかは分かっているのか?」
「それが……」
「どうした? まさか、こっちに向かっているのか!」
「いえ、そうではありません」
「では、キュサイか?」
「いえ……」
「ん?」

 何を聞いてもハッキリとした答えを言わない衛士に対し、ゴリアテはイラつく。

「ワイバーンが出たのなら、領民の非難や迎撃態勢などしなければならないことは山積みだと言うのに、さっきからお前の話は全然要領を得ないのだが、どういうことだ? ワイバーンが出たというのは事実なんだろうな?」
「それが……」
「いいから、さっさと話せ! それでワイバーンはどうしたと言うのだ?」
「それが……実は……消えてしまいました!」
「消えた……ワイバーンが消えたと言ったか?」
「あ、いえ。正確には『落下した』と言いますか……」
「落下? ワイバーンが落ちたとそういうのか?」
「はい。物見からの報告を聞く限りでは、ワイバーンが見えたので一人をその場に残し、もう一人が報告するべく走ろうとした際にワイバーンの頭に火球ファイアボールらしきものが当たるのが見えたと思ったら、すぐに落下していったとそういう内容でした」
「では、物見の二人がワイバーンが落ちるのを見たのだな」
「はい。そういうことになります。なので、この報告内容はとても信じられる内容ではありませんが、二人が揃って幻覚を見るとも思えないので信憑性は高いものと思われます」
「ああ、そうだな」

 衛士からの報告を聞いたゴリアテはワイバーンが落下したの間違いないことだろうと確信するが、問題が残る。
『誰が……もしくはナニが火球ファイアボールをワイバーンに放ったのか』ということだろう。

 ゴリアテ伯爵はしばらく腕を組み考えを纏めると「調べろ」と一言だけ告げる。

「は? 調べろとは……何をでしょうか?」
「そうだな。先ずはそのワイバーンの死骸があるかどうかだな。もし、死骸がそのまま放置されているのならアンデッドになるのを防がねばならない。そして、その死骸を他の魔物が貪り増えるのも避けたい」
「そうですね」
「後は、ワイバーンの素材だな。ワイバーンの革はもちろん、皮膜も色々と使い途はある。出来れば、無傷で手に入れたいものだな」
「……分かりました。では、早速部隊を編成し確認してまいります」
「ああ、頼む」

 ゴリアテは衛士に対し、すぐにワイバーンの死骸を確認し、出来るだけの素材を持って帰るように指示を出す。

「あと、ちなみにだが落ちたのがどの辺りなのかは把握しているのか?」
「はい。距離があるため、推測になりますが……大体、この領都とキュサイとの中間辺りになるかということです」
「そうか、分かった。では、また何かあれば報告してくれ」
「はっ! 失礼します」

 ゴリアテは衛士が部屋から出て行くと椅子に座り直し「ワイバーンか」と呟く。

「もし、ワイバーンがこの街に向かってきたら、私は生きていられただろうか……マリアンヌがいないこの街に意味があるのだろうか」



 このワイバーンの報告はキュサイの町でも話題になっていた。

「ワイバーンが出たって本当か!」
「ええ、ついさっき、帰って来た冒険者の方が、そう報告していましたよ」
「冗談じゃねえ、早く逃げないと……」
「ダメですよ」
「ん? 何言ってんだ。ワイバーンが出たんだろ! なら、早く非難すべきだろうが!」
「ええ、そうですね」
「なら、なんで止めるんだよ!」
「ですから、Cランク以上の冒険者に対しワイバーン討伐の緊急依頼が出されます。そしてあなたのランクはギリギリCランクです。なので、この町から無断で出ることは出来ません。悪しからず」
「そ、そんなぁ~」
「と、言いたいとことですが、その後の報告でワイバーンが落下したと聞いています」
「あ?」

 冒険者ギルドの受付で騒いでいた一人の冒険者は頭に疑問符を一杯に浮かべている。

「どういうことだ?」
「ですから、ワイバーンが発見されましたが、発見されたのとほぼ同時にワイバーンが落下していったと聞いています」
「場所は?」
「はい?」
「だから、その落ちた場所はどこだって聞いているんだよ!」
「あ~それなら、大体の場所が……ここキュサイと領都の中間辺りではないかと聞いています」
「中間か。なら、ここから馬車で三日くらいだな。なら、今から急げばなんとか「止めといたほうがいいぞ」……へ? 誰だ! 俺の稼ぎを邪魔……するのは……アンタか」
「おう、『金色の翼』のマルクだ。俺のことを知っているのか?」
「ああ……」

 さっきまで急いでワイバーンの素材を回収に行かないとと騒いでいた男性は『金色の翼』のリーダーであるマルクから「止めとけ」と言われ戸惑う。

「なあ、その訳を聞かせてもらえないか」
「そうだな。何の理由も言わずにいきなり『止めろ』と言われても納得は出来ないか」
「ああ、聞かせてくれ」
「実はな……」

 マルクはこの町に来る途中でゴブリンの群れに襲われ、護衛対象の依頼人を守る為にとは言え、奴隷が乗った馬車を囮にしてなんとか町に辿り着いたことを話す。

「なんだよ。止めろと言うからどんなことかと思えば、ゴブリンかよ。マルクも噂だけだったみたいだな」
「まあ、俺達のパーティは三人だからな。例えゴブリンと言えど護衛対象を守りながらは少し無理だと思ったからな」
「でも、ゴブリン相手に逃げるってのはどうなのよ」

 冒険者の男はマルクに対しイヤらしい笑みを浮かべながらマルクを挑発するように言うと、マルクはそれを受け流しフンと鼻で笑う。

「そのゴブリンの群れにゴブリンメイジが少なくとも三体はいたな」
「メイジ……」
「それにゴブリンジェネラル級のが一体いたな」
「ジェネラルだと……」
「そうだ。それでも行く気なら俺は止めないが、少なくともお仲間は二桁はいた方がいいと思うぞ。お前さんのパーティは何人だ?」
「……四人だ」
「なら、その五倍だな。頑張ってな。さてと、ニコラ聞いていたよな」
「はい。聞いてましたよ」

 マルクは冒険ギルドの受付嬢ニコラに懐から出した依頼書を渡す。

「さっきの話はこの護衛依頼の時の話だ。だから、ゴブリンの数はもう少し増えているかもしれないな」
「そうなんですね。マルクさんの報告なら間違いはないでしょう」
「後な、それ絡みなんだが……」
「あまりいい話ではなさそうですね」
「ああ、そうだ。この依頼者がな。ちょっと難ありでな」
「どうしましたか?」

 マルクはニコラに対し、奴隷商人のカスからゴブリンの討伐依頼か、そこに囚われているであろう奴隷達の奪還依頼を出すかもと話す。そして、さっきも話したように少人数のパーティでなんとか出来るとは思えないことから、カスが来た時にはその辺りも含めてちゃんと値段交渉と依頼達成の条件を決めるようにと忠告した。

「なるほど。確かにマルクさんの言うようにちょっとした使いっ走りの様な感覚で出せる依頼ではないですね。分かりました。留意しておきます。ありがとうございました」
「いや、いいってことよ。本当なら俺達が尻拭いしてもいいんだが……パーティが小さいからな」
「そうですね。せめて三倍はいた方がいいでしょうね」
「ああ、それでもギリだろうがな」

 これで領都からの調査部隊が派遣され、キュサイからは命知らずな冒険者がワイバーンの素材を狙ってくることになるが、子供達と一緒に果実を採っているナキはまだ知らない。

『ここは女神通信で号外を出すべきよね。ね、そう思わない?』
『どうぞ、ご勝手に』
『もう、ノリが悪いわね』
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