上 下
7 / 56
第一章 さようなら日本、こんにちは異世界

第7話 それは勢いよく回り出す

しおりを挟む
『ふふふ、いい感じに動き出したみたいね。なら、そろそろこちらも動かそうかしら。うふふ、楽しんでくれるといいわね』

 田村 政美たむら まさみは直樹が校舎から飛び降りた後に駆けつけてきた教師達から、今日は帰れと言われたので、家に帰り部屋着に着替えるとベッドの上に横になり、さっき撮ったばかりの直樹の映像をスマホで確認する。

「うっわぁ~思ったよりグロ! こんなの人に見せられないよね~ふふふ、でも本当に飛び降りるなんてバカだよね~しかもご丁寧に何度も約束を守れと言ってくるなんて。約束なんて知ったこっちゃないし。それに卒業した後の中学のことまで知らないわよ」

 自宅に帰ってしばらくしてから、学校の教師から一週間ほど休校になると連絡を受けた政美はどうやってこの一週間を過ごそうかと考えていたら、彼氏であり、一緒に直樹を虐めていた『高橋 隆一たかはし りゅういち』から電話が入る。

「あ、もっし~どうしたの? もう、淋しくなった?」
『バカ! それどころじゃないだろ! 何故、あんなのを流したんだ!』
「え? 何? なんのこと?」
『惚けるなよ! あの映像はお前しか撮ってないだろ! だから、お前以外にネットに流せるわけないだろうが! いいな、お前のせいだからな! 俺は知らないからな!』
「え、ちょ、ちょっと待ってよ。隆一!」

 隆一は言いたいことだけ言って、通話を終わらせた。政美は通話が切れたスマホの画面を見ながら、隆一は何を言っているんだろうと首を傾げるが、隆一は肝心のことを何も言わなかったので政美には結局何がネットに流されたのか分からないままだったが、スマホの画面がアプリの通知を知らせるバナーで埋めつくされる。

「え? こんな一杯の通知なんて……どういうことなの?」

 政美は通知で埋め尽くされたスマホを手に取ると、その内の一つのアプリを開くと未読のメッセージ件数が三桁に達していた。

「え、なんで……」

 不思議に思った政美だったが、さっき隆一が言った「なんでネットに流した!」と言った意味がここにきてなんとなく分かった。

 分かったが自分は流していないのだから、何かと勘違いしているのだろうと一つのアプリを開くと『鬼!』『人でなし!』『鬼畜、悪魔だな』と罵詈雑言のオンパレードだった。

「え? どゆこと?」

 中には同級生からのメッセージもあり、「あんたのせいで!」と書かれていた。

「え? 私、何もしていないのに……なんで、私が叩かれているの? あれ、これって……」

 一つのメッセージに『規律、または法律に反する映像がアップされたので運営の判断で削除しました』と表示されていた。

「え、なんで? 私、何もしてないよ。どういうことなの?」

 政美は嫌な予感がして動画投稿サイトの自分のアカウントを使い開こうとしたが、開けなかった。

「え、なんでなの? まさか……私のアカウントを使って……でも、どうやってやったっていうのよ。私のスマホはずっと私の手元にあったのに……」

 一体誰が政美のアカウントを乗っ取ったのかと考えていると、またスマホが着信を知らせて来たので、電話を取ると同級生からだった。

「あ、萌美~ちょうどよかった。ねえ、聞いてよ~もう最悪なことがあってさ~『最悪なのはこっちよ!』え?」
『あんた達のせいで私達全員が迷惑しているってことよ!』
「え、ま、待って、ね、待ってよ。隆一も萌美も何を言っているの?」
『はぁ? 何を言っているのって言いたいのはこっちよ! いい? 絶対に許さないからね。あんたもアイツみたいに死んじゃえ!』
「え……萌美? 萌美、ウソでしょ! ねえ、萌美!」

 既に通話を切られたスマホを握りしめ、政美は呆然としてしまう。隆一も萌美も私がしたことを許さないと言っているが、政美には何を言っているのかさっぱり分からない。

 一つだけ、もしかしたらと言えるのは、スマホの中に入っているあの映像だろうと。

 だけど、その映像は誰にも見せたことはないし、どこにもアップロードした覚えもない。だが、隆一はネットに流れていると言っているし、萌美については何に憤慨しているのかが全く分からない。

「どういうことなの?」

 政美は一体何が起きているのかが分からず思わず髪を掻き毟るが、そんなことをしても何も思い付かない。そうこうしている内に家の玄関が乱暴に開かれる音がしたので、誰か帰って来たのかと部屋から出て、階下の様子を見ると如何にも機嫌が悪いと分かる父親が乱暴に靴を脱ぎ散らかしリビングへとドスドスと音を立てながら向かうのが分かった。

「お父さんがこんな時間に帰ってくるなんて珍しいわね。あ! ひょっとしてアノ件で傷着いていると思われているのかな。だとしたら、部屋で大人しくしているのがいいわね」

 政美はソッと部屋に戻るとベッドに俯せに寝そべると同時に部屋の扉が乱暴に開かれる。

「政美!」
「お父さん、何! ノックくらいしてよ!」
『バシッ!』

「イタッ! 何よ! いくら機嫌が悪いからって娘に当たること無いじゃない!」
「誰のせいでこうなったと思っているんだ!」
『バシッ!』

 不機嫌そうな父親がズカズカと部屋に入って来るなり、ベッドの上で寝そべっていた政美を起こすと、その左頬を父親は思いっ切り右手で張ったのだ。

 だが、政美はいきなり父親に殴られたとしか思っておらず、殴られたことに文句を言うと父親は更にもう一度政美の頬を張り倒すのだった。

「なんで、私ばかり……」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...