2 / 4
第一章 はじめまして
第2話 正直に話してみた
しおりを挟む
「おい、サン! どうした?」
「え? サン……サンって僕のことなの?」
「そうだよ、サン!」
「サン……サン……あ!」
子供は目を覚ました時に目の前にいた父親が分からずに「誰なの?」と聞いてしまったが、父親から『サン』と呼ばれると、その名を自分で口にしてみると何かを思いだしたようだ。
「そうだ! 僕の名前はサン! で、おじさんは僕のお父さんで……名前は……」
「そうだ、その調子だ! 思い出せ! さあ、俺の名前は!」
「……」
「どうした! 何故、言わない!」
「ねえ、僕はずっとお父さんとしか呼んでないから、知らないや」
「そりゃ、ねえだろ。じゃあ、母さんは?」
「お母さんはマーサでしょ」
「なんでアイツの名前は言えて俺の名前は知らないんだよ!」
「だって、お父さんはいつもお母さんのこと『マーサ』って呼んでいるでしょ。お母さんはお父さんをあんたって呼ぶし」
「……まあ、そうだが。はぁ~」
サンは自分の手をジッと見る。そして、自分の父親と名乗る男を見る。
「うん、ドワーフだね」
「何を言っている。当たり前だろ」
「じゃあ、僕も?」
「そりゃ、そうだろ。おい、本当に大丈夫なんだろうな」
「うん、大丈夫だけど……」
「どうした? いや、その前にお前……本当にサンなのか?」
「え? そうなんでしょ。どうして?」
「どうしてって……お前こそどうした。俺のことは父ちゃんって呼んでいただろ。それに僕じゃなくて俺と言ってただろ。もしかして、中味が別の何かと入れ替わったのか?」
「あ~」
サンは父親が何を言いたいのかが分かったのだが、正直に話していいものかと悩む。特にサンの記憶では、この父親はすぐに手が出るから正直苦手だ。
ここで「実は日本人です」と言ったところで、信じてもらえるどころか「巫山戯るな」と鉄拳が飛んでくるのではと考えが過る。
「どうした?」
「ねえ、お母さんは?」
「ああ、そうだな。お前が起きたことを言っとかないとまた、どやされるな。お~い、マーサ!」
父親が扉を開け、そう叫べば奧の方から「なんだい! 忙しいって言ってるでしょ!」とドスドスと音を立てながらマーサが部屋に入ってくると「サン! 大丈夫かい?」とサンに抱き着く。
「ちょ、ちょっとお母さん、苦しいから……」
「あ、ごめんなさい。え? お母さん?」
「そうだ、マーサ。サンは『ガツン!』……だから痛いって……」
「あんたが殴るから! サン、大丈夫だからね。ちゃんとしたお医者さんに診てもらおうね」
「だ、だから苦しいって……」
サンはマーサの腕をタップして「苦しいから」と解放してもらう。
「ごめんなさいね。でも、ホントにどうしたの?」
「それを俺も聞こうとしていたんだよ。なあ、サンどうした?」
「あのね……」
「「なんだい?」」
「これから僕が言うことは変なことかも知れないけど、嘘じゃないからね。だから、怒らないで聞いて欲しいんだ」
「変なことって……あんた! やっぱりあんたが殴ったから!」
「……いや、だから。サン、お前からも言ってくれよ」
「でも、僕も痛かったし……」
「それは謝る。だから、ちゃんとお前の口から説明してくれ。頼む!」
「怒らないよね?」
「俺が? ないない。マーサじゃあるまいし『ガツン!』……だから痛いんだよ」
サンはマーサがいれば父親も怒らないだろうと思っていたが、父親以上に母親であるマーサの方がヤバいのではと思うが、ここまで来て話さないってのはもっとマズいことになるだろうというのは分かる。
「じゃあ、話すね。あのね……」
両親を前にサンはここではない世界……地球の日本で暮らしていたこと。そこでは会社勤めをしていたのは覚えているが肝心の名前やいつ、どうやって亡くなったのかが分からない。日本での暮らしや、そこで得た知識などは覚えているのに名前とか住所に親や家族のことなど個人情報と言えるものがまったく思い出せない。
「ニホン……マーサ、知っているか?」
「私が? この町からも出たことがない私が?」
「そうか。そうだったな……だが、ニホンジンってのはなんだ? お前はドワーフだろ? まさか、マ『ガツン!』……痛いよ」
「あんた、私の貞操を疑ったでしょ!」
「いや、だって……お前、サンが……」
サンが日本人だったことを話したことで、父親はまさかマーサがその日本人とナニしたから出来たのかとマーサを疑ってしまう。
「ハァ~あのね、あんたも知っているでしょ。私はあんたにずっと一緒にいて、どこに他の人が入り込めるってのよ!」
「そうだな……じゃあ、サンが言っているのは……」
「本当のことなんでしょうね。でも、そういうのってあるのかしら」
「あるんじゃねえのか」
「また、あんたはそんな……」
「でもよ。サンが言うんだからそうなんだろうよ」
マーサはサンが言ったことを全部信じることが出来ないのか、少し疑問に思っているようだが、父親の方は疑うこともなくサンが言っているんだからと信じているようだ。
だから、マーサは本当に自分の息子のサンなのかと確認する。
「ねえ、ホントにサンなのよね? 誰かと入れ替わった訳じゃないのよね」
「うん、僕はサンだよ。ちゃんと小さい頃からの記憶もあるよ」
「でもよぉその『僕』ってのがなぁ」
「そうね、『お母さん』ってのもね。ねえ、前の呼び方に戻せないの?」
「ン~多分、今は昔の個性が強く出ているからだと思う。もう少しすればいい感じになると思うんだけど。それまで我慢してもらえるかな」
「いい感じ? それってどういう意味なの?」
「えっと……」
「え? サン……サンって僕のことなの?」
「そうだよ、サン!」
「サン……サン……あ!」
子供は目を覚ました時に目の前にいた父親が分からずに「誰なの?」と聞いてしまったが、父親から『サン』と呼ばれると、その名を自分で口にしてみると何かを思いだしたようだ。
「そうだ! 僕の名前はサン! で、おじさんは僕のお父さんで……名前は……」
「そうだ、その調子だ! 思い出せ! さあ、俺の名前は!」
「……」
「どうした! 何故、言わない!」
「ねえ、僕はずっとお父さんとしか呼んでないから、知らないや」
「そりゃ、ねえだろ。じゃあ、母さんは?」
「お母さんはマーサでしょ」
「なんでアイツの名前は言えて俺の名前は知らないんだよ!」
「だって、お父さんはいつもお母さんのこと『マーサ』って呼んでいるでしょ。お母さんはお父さんをあんたって呼ぶし」
「……まあ、そうだが。はぁ~」
サンは自分の手をジッと見る。そして、自分の父親と名乗る男を見る。
「うん、ドワーフだね」
「何を言っている。当たり前だろ」
「じゃあ、僕も?」
「そりゃ、そうだろ。おい、本当に大丈夫なんだろうな」
「うん、大丈夫だけど……」
「どうした? いや、その前にお前……本当にサンなのか?」
「え? そうなんでしょ。どうして?」
「どうしてって……お前こそどうした。俺のことは父ちゃんって呼んでいただろ。それに僕じゃなくて俺と言ってただろ。もしかして、中味が別の何かと入れ替わったのか?」
「あ~」
サンは父親が何を言いたいのかが分かったのだが、正直に話していいものかと悩む。特にサンの記憶では、この父親はすぐに手が出るから正直苦手だ。
ここで「実は日本人です」と言ったところで、信じてもらえるどころか「巫山戯るな」と鉄拳が飛んでくるのではと考えが過る。
「どうした?」
「ねえ、お母さんは?」
「ああ、そうだな。お前が起きたことを言っとかないとまた、どやされるな。お~い、マーサ!」
父親が扉を開け、そう叫べば奧の方から「なんだい! 忙しいって言ってるでしょ!」とドスドスと音を立てながらマーサが部屋に入ってくると「サン! 大丈夫かい?」とサンに抱き着く。
「ちょ、ちょっとお母さん、苦しいから……」
「あ、ごめんなさい。え? お母さん?」
「そうだ、マーサ。サンは『ガツン!』……だから痛いって……」
「あんたが殴るから! サン、大丈夫だからね。ちゃんとしたお医者さんに診てもらおうね」
「だ、だから苦しいって……」
サンはマーサの腕をタップして「苦しいから」と解放してもらう。
「ごめんなさいね。でも、ホントにどうしたの?」
「それを俺も聞こうとしていたんだよ。なあ、サンどうした?」
「あのね……」
「「なんだい?」」
「これから僕が言うことは変なことかも知れないけど、嘘じゃないからね。だから、怒らないで聞いて欲しいんだ」
「変なことって……あんた! やっぱりあんたが殴ったから!」
「……いや、だから。サン、お前からも言ってくれよ」
「でも、僕も痛かったし……」
「それは謝る。だから、ちゃんとお前の口から説明してくれ。頼む!」
「怒らないよね?」
「俺が? ないない。マーサじゃあるまいし『ガツン!』……だから痛いんだよ」
サンはマーサがいれば父親も怒らないだろうと思っていたが、父親以上に母親であるマーサの方がヤバいのではと思うが、ここまで来て話さないってのはもっとマズいことになるだろうというのは分かる。
「じゃあ、話すね。あのね……」
両親を前にサンはここではない世界……地球の日本で暮らしていたこと。そこでは会社勤めをしていたのは覚えているが肝心の名前やいつ、どうやって亡くなったのかが分からない。日本での暮らしや、そこで得た知識などは覚えているのに名前とか住所に親や家族のことなど個人情報と言えるものがまったく思い出せない。
「ニホン……マーサ、知っているか?」
「私が? この町からも出たことがない私が?」
「そうか。そうだったな……だが、ニホンジンってのはなんだ? お前はドワーフだろ? まさか、マ『ガツン!』……痛いよ」
「あんた、私の貞操を疑ったでしょ!」
「いや、だって……お前、サンが……」
サンが日本人だったことを話したことで、父親はまさかマーサがその日本人とナニしたから出来たのかとマーサを疑ってしまう。
「ハァ~あのね、あんたも知っているでしょ。私はあんたにずっと一緒にいて、どこに他の人が入り込めるってのよ!」
「そうだな……じゃあ、サンが言っているのは……」
「本当のことなんでしょうね。でも、そういうのってあるのかしら」
「あるんじゃねえのか」
「また、あんたはそんな……」
「でもよ。サンが言うんだからそうなんだろうよ」
マーサはサンが言ったことを全部信じることが出来ないのか、少し疑問に思っているようだが、父親の方は疑うこともなくサンが言っているんだからと信じているようだ。
だから、マーサは本当に自分の息子のサンなのかと確認する。
「ねえ、ホントにサンなのよね? 誰かと入れ替わった訳じゃないのよね」
「うん、僕はサンだよ。ちゃんと小さい頃からの記憶もあるよ」
「でもよぉその『僕』ってのがなぁ」
「そうね、『お母さん』ってのもね。ねえ、前の呼び方に戻せないの?」
「ン~多分、今は昔の個性が強く出ているからだと思う。もう少しすればいい感じになると思うんだけど。それまで我慢してもらえるかな」
「いい感じ? それってどういう意味なの?」
「えっと……」
3
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた
こばやん2号
ファンタジー
とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。
気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。
しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。
そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。
※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

農民の少年は混沌竜と契約しました
アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた
少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された
これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる