上 下
47 / 51
第三章 運動会なんだよ

第六話 思っていたのと違うのよ

しおりを挟む
「クソッ!」
「なんだ! あ、お前は!」

 ナダルが不機嫌そうに土を蹴っていると、そこを通りかかったケビンに土が掛かり、それがナダルだと気付いたケビンがナダルを睨み付ける。

「なんだよ! 狙ってやった訳じゃないかなら。そこにいたお前が悪い!」
「んだと!」
「よせ。ケビン」
「テッド……でも」
「いいから、止めとけ」
「……分かったよ」

 ケビンは納得いかなかったが、運動会の途中だったと思い出したのかテッドの言葉に素直に従う。

「ふん!」
「アイツ……」
「いいから、放っておけ」

 その場から去っているケビンとテッドの二人をナダルは面白く無さそうに見ていた。

「テッドはアイツを知っているの?」
「知らん。さっき知った程度だ」
「そうなんだ。でも、アイツはなんでアビーにあそこまでするんだろう」
「それなら、さっきメアリー達が集まってキャーキャー言ってたぞ」
「え? どゆこと?」
「さあな。俺に聞かれてもわからん。メアリーに聞けばいいだろ」
「メアリーに?」
「ああ、そうだ。どうした? 何かあるのか?」
「いや、あるのかって言われればあるんだろうけど……」
「どうした? 相談ならのるぞ」
「いや、いい」
「そうか」

 そのメアリー達はと言えば、テッドが言っていたように皆で集まりキャーキャーと盛り上がっていたが、当の本人のアビーはその輪の中に入れなかったりする。

「アビー」
「あ、ケビン。テッドも」
「盛り上がっているな」
「うん、そうなんだけどね……」

 アビーが尻下がりに沈みこむ様子を見て、テッドは「あ~」となんとなく納得してしまう。

「なんだ仲間に入れないのなら「止めとけ」テッド」
「いいから、俺の経験からいいことはないから止めとけ」
「でも、アビーが可哀想だろ」
「僕? 僕は平気だよ」
「なんでだよ。お前を仲間外れにしているんだろ?」
「ん~ちょっと違うかな」
「「違う?」」
「うん、なんか僕のことで盛り上がっているみたいだからね」
「そうか」
「分からない。なんでそれで平気なんだ?」
「「……」」

 一人何を言っているのか分からないという感じでケビン一人が憤慨しているが、当の本人のアビーとテッドが何も言わないのなら自分が出るのもおかしいかなと思いなんとなく納得するしかなかった。

「あ、アビー、それにケビンも! テッドもいたんだ」
「もういいの?」
「俺はついでか」
「話は終わったの?」

 アビーの話で盛り上がっていたメアリー達がアビーやケビンに気付き、声を掛ける。

「ね、アビー」
「なに?」
「あの子のことどう思うの?」
「あの子?」
「ほら、さっきの……アビーのことを思いっ切り意識していたでしょ?」
「ん?」
「もう、分からないの?」
「え?」

 メアリーの言葉にアビーだけではなくケビンもテッドも何を言っているのだろうという顔になり、聞いているメアリーが「ふぅ~」と短く嘆息すると「いい?」と言いながらアビー達に説明を始める。

「ほら、よく思い出してね。さっきアビーに突っかかって来た男の子がいたでしょ。覚えているわよね」
「「「あ~」」」
「で、どうなの?」
「「「どうなの?」」」
「え?」

 メアリーの言葉にアビー達もやっとメアリーが言っている子が誰なのかを理解したが、理解したところでメアリーが何を言いたいのかまでは理解していなかった。だから、メアリーに「どうなの」と聞かれたところで、何を言いたいのかを理解していないアビーはポカンとするしかなかった。

「だから、その子のことをどう思っているのかってことよ」
「え?」
「ムカつくヤツだな」
「そうだな」
「もう、ケビン達には聞いてないでしょ!」
「「ごめん」」

 メアリーに改めて聞かれたところで、アビーにはまだ分かっていないから、答えに困っていると横のケビン達が思いを口にしたところでメアリーに聞いてないからと怒られてしまう。

 だけど、アビーはやっぱり分からなかった。だけどと前世での院内学級でも似たようなことがあったような気がすると思い出す。

 確かあの時も仲良くなった男の子と話をしていたら、急に他の女の子が間に入ってきてアビーのことをドンと押され何が起きたのか分からなかったが、慌てた看護師に起こされ院内学級から連れ出されたので何が起きてどう収まったのかが分からないままだったのだ。だけどそれを今、起きていることに対しカチッと音がするくらいに当てはめることが出来たので、アビーはなんとなく今の状況を理解出来たのでメアリーに向かって「うん」と頷く。

 するとそれを見たメアリーはやっとアビーが理解してくれたのかと改めて聞いてくる。

「それでどうなの?」
「えっと、それをどうして僕に聞くの?」
「「「え?」」」

 アビーの反応にメアリーを始めとした女子達が今度はアビーの答えを理解するのに苦しむ。

「アビー、どうしたの?」
「え? だって、さっきの子は僕が他の子と仲良くしているのが面白くなくて僕に突っかかって来たんでしょ?」
「ん~合っているような微妙に違っているような。アビーはどうしてそう思ったの?」
「だって、その子は僕が邪魔だと思ったんでしょ?」
「「「え~!」」」

 アビーの答えに「どうして?」とその場にいた女子達が頭を抱え込んでしまった。

「テッド、これってどういうことなの?」
「俺が分かると思うか?」
「それもそうだね」
「納得されるのもイヤだな」

 ケビンとテッドの会話を隣で聞いていたアビーもメアリー達の様子が分からず不思議そうに見ているだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイテムボックスだけで異世界生活

shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。 あるのはアイテムボックスだけ……。 なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。 説明してくれる神も、女神もできてやしない。 よくあるファンタジーの世界の中で、 生きていくため、努力していく。 そしてついに気がつく主人公。 アイテムボックスってすごいんじゃね? お気楽に読めるハッピーファンタジーです。 よろしくお願いします。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...