上 下
41 / 51
第二章 大家族になりました

第二十一話 家族では入れなかったのよ

しおりを挟む
アビーが家に向かうと学校へ行く時にはあった行列が消えていた。
「あれ? 行列がなくなっている……どうしたんだろう?」

不思議に思いながらもアビーが家の近くまで来ると、今度はほかほかとした感じの人達とすれ違う。

「ん? もしかして、お風呂に入れたのかな。でも、そんな早く出来るのかな?」
『ふふふ、アビー。私達のこと忘れてない?』
『そうよ。私達がいるのよ』
『そうなの。だから、ちょっとだけ手伝ったのよ』
『アレをちょっとだけと言うのか?』
『『『パティはいいから!』』』
『……おいらは止めたんだからな!』
ポポ達の話にアビーは少しだけ不安を覚える。
「まさかね……」

家が見えてくると、建設中の祖父母の家とは別に大きな建物が見える。
「うわぁ~本当に出来たんだ……凄い……」
「どうじゃ、アビー。なかなかのもんだろ」
「凄すぎて声も出ないか?」
「凄いよ! ドン爺! コー爺!」
「ふふふ、これもアビーのお陰だよ」
「そうだな。アビーが地面を掘れと言った時はどうなるかと思ったがな」
「それは、ワシも思ったが……不思議なことに掘った地面に流し込んだセメントは今日中には乾かないと思っていたんだがな」
「そう、日当たりが余程よかったのか、昼前には乾ききったんだ」
「へ、へぇ~」

祖父達の話を聞いて、ポポ達が何をしたのかを察したアビーだが、それを祖父達には正直に話すことは出来なかった。

「まあ、それでな。予定より早く浴槽の方が終わったんでな」
「後は、カーペン達と風呂に入りたい連中を手伝わせて、仕切りと囲いを作ったら、脱衣場を作って終わりだ。屋根は後だな」
「へ~それで、すれ違う人がほかほかした感じだったんだ」
「ああ。皆、気持ちよさそうだったぞ」
「そうだな。だが、これがずっと続くと思うとな……」
「それもそうだな。いっそのこと商売にした方がいいのかもしれんな」
「え~そんなことしたら、怒られない?」
「「う~ん……」」

アビーの言った「怒られる」に祖父達も唸ってしまう。
「それなんだよな~」
「そうだな。商売にするとなると、色々気を使うしもめるだろうな……」
「じゃあさ、他の人達と一緒にすればいいんじゃない?」
「「ん?」」
「だからね、僕達だけで温泉を管理しようとするから問題なんでしょ?」
「まあ……」
「そういうことになるかな」
「じゃあさ、カーペンさんとかお風呂に入りたい人達で掃除とかすればいいんじゃないのかな?」

アビーは地方によくあった共同浴場の仕組みを祖父達に話す。

「なるほどな」
「それなら、俺達の負担もないし、やっかみもないかもな」
「カーペン達と話してみるか」
「それがいいな」

祖父達がその場で話し込んでしまったので、アビーはそっと離れ家に入る。

「ただいま!」
「「「お帰り!」」」
「なんか凄いことになってたね!」
「見た?」
「うん! 外側だけだけどね」
「そうかい。まあ、ゴードンもやるもんだね」
「うちのコーディもなかなかだろ?」
「はいはい、お母さん達のお惚気はそこまで! アビー、手を洗ってきなさい」
「は~い」
「もう少し言わせてくれてもいいだろう」
「そうだよ。滅多に褒めることなんてないのにさ」
「はいはい。じゃあ、お父さん達が帰って来たら褒めてあげて下さい」
「「そりゃ、出来ないよ」」
「え?」
「だって……ねえ?」
「そうだよ。無理無理!」
母達の言葉にジュディは不思議に思ってしまう。

「どうして? さっきまで褒めてたように本人に言ってあげればいいじゃない」
「だから、ソレが無理なの!」
「そうそう、今更無理だよ」
「ナニヨソレ……」

母達のツンデレ振りにジュディが呆れていると玄関が開かれ、ゴードン達が入ってくる。
「「ただいま」」
「ほら、帰って来たわよ」

「い、いいから。さっきのはナイショね」
「いいわね」
ジュディに言い含めるように言うものだから、ゴードン達も不思議に思ってしまう。
「なんの話だ?」
「内緒話か? 長いこと夫婦なのにな」
「あなた達には関係ない話だから」
「そうよ。だから、気にしないの。いい? 気にしちゃダメよ」
「「……分かったよ」」

その後、マークが帰って来て夕食となり、アビーが学校での出来事を話す。
「あのね、メアリー達もお風呂に入りたいって言ってきたの」
「もう、子供達にまで知られているのかい?」
「ほら、そのメアリーのお父さんはお店を開いているから」
「ああ、父さん達の」
「そうよ。だから、そういった噂にも敏感なんでしょう」
「でも、入れるの?」
「「それは心配ない!」」
マークの疑問に対し祖父達が答える。

「へ~じゃあ、俺も入れるのかな」
「ああ、入れるぞ。だが、ワシ達と一緒だな」
「そうだな」
「え?」
「まだ、男湯と女湯しかないからな。家族風呂はまだ出来ていない」
「お楽しみは先だな」
「そ、そんなお楽しみだなんて……なあ」
「そ、そうよ。私達は家族で入れればいいなって思っただけだし……」
「楽しみだね。お父さん!」
マークはそう言うが、見た目でもガッカリしているのが丸わかりだ。でも、アビーに楽しみと言われなんとか持ち直す。

「そうだな」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ
ファンタジー
※高頻度で更新していく予定です。  普通の高校生、枷月葵《カサラギアオイ》。  日常を生きてきた彼は突如、異世界へと召喚された。  召喚されたのは、9人の高校生。  召喚した者──女神曰く、魔王を倒して欲しいとのこと。  そして、勇者の能力を鑑定させて欲しいとのことだった。  仲間たちが優秀な能力を発覚させる中、葵の能力は──<支配《ドミネイト》>。  テンプレ展開、と思いきや、能力が無能だと言われた枷月葵《カサラギアオイ》は勇者から追放を食らってしまう。  それを提案したのは…他でもない勇者たちだった。  勇者たちの提案により、生還者の居ないと言われる”死者の森”へと転移させられた葵。  そこで待ち構えていた強力な魔獣。  だが、格下にしか使えないと言われていた<支配《ドミネイト》>の能力は格上にも有効で──?  これは、一人の少年が、自分を裏切った世界に復讐を誓う物語。  小説家になろう様にも同様の内容のものを投稿しております。  面白いと思って頂けましたら、感想やお気に入り登録を貰えると嬉しいです。

見習い女神のお手伝いっ!-後払いの報酬だと思っていたチート転生が実は前払いでした-

三石アトラ
ファンタジー
ゲーム制作が趣味のサラリーマン水瀬悠久(みなせ ゆうき)は飛行機事故に巻き込まれて死んでしまい、天界で女神から転生を告げられる。 悠久はチートを要求するが、女神からの返答は 「ねえあなた……私の手伝いをしなさい」 見習い女神と判明したヴェルサロアを一人前の女神にするための手伝いを終え、やっとの思いで狐獣人のユリスとして転生したと思っていた悠久はそこでまだまだ手伝いが終わっていない事を知らされる。 しかも手伝わないと世界が滅びる上に見習いへ逆戻り!? 手伝い継続を了承したユリスはチートを駆使して新たな人生を満喫しながらもヴェルサロアを一人前にするために、そして世界を存続させるために様々な問題に立ち向かって行くのであった。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様でも連載中です。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

処理中です...