美しき白銀を求めて〜憧れの人の隣に立つため、月影軍に入隊します!〜

マム

文字の大きさ
上 下
5 / 5
第一章

マーレ・ロバルト

しおりを挟む
マーレは、俺も入隊試験の参加者であると聞くやいなや、闘技場までの同行を快く引き受けてくれた。
いやぁ~助かった、これで試験に遅れずにすむ!!優しい人に出会えて本当に幸運だった。
改めて彼に感謝をしないとな。
俺はチラッと横に並ぶマーレを見つめた。

緑色の綺麗な髪色だ。瞳も黄色みかかった緑色であり、陽の光に輝いている。


(有色者ということは、マーレも貴族なのか?)


有色が示すものは、髪の色。マーレのような緑や赤といった珍しい色の髪を有色といい、これらは大国の王族や貴族の血筋によく出る特徴の一つ。
俺のような紺色や黒、茶色などの色は一般色であり、要は平民の特徴という訳だ。

俺の視線に気づいたマーレが、少し苦笑いをしながら頭をかいた。


「あー⋯この髪を見て気づいているとは思うけど、僕は一応貴族の次男坊なんだ。ロバルトっていう名前に聞き覚えはない?」


申し訳ない。
俺は貴族やら王族やらの事情に疎いのだ。
マルコじいちゃんから色々と教わった気がするが⋯⋯うん、覚えてないな。
そんな俺の様子を見てマーレは少し可笑しそうに笑った。


「その、知識不足でさ。なんかごめん」
「いいよいいよ、むしろその方が僕としては気楽で嬉しい。ロバルト家は三大公爵家の一つではあるんだけど、今じゃ名ばかりの貴族だからさ」


マーレいわくーー
ロバルト家は、建国時からこの国を支えてきた三大公爵家の一つである。
代々国王直属の魔道士として宮廷に仕えてきたが、その力は徐々に衰えていき、強い魔力を受け継いだ後継者が生まれなくなったという。
よって、ロバルト家は宮廷魔道士としての資格を剥奪。しかし、これまでの功績と国への忠誠心を尊重され、階級はそのまま引き継いでいるのだとか。
しかし、力のない公爵家など恐るに足りず。
周りの貴族からは没落貴族としてバカにされ、見下されているらしい。

なるほど、そんな複雑な事情があったとは知らなかった。
いやでも待てよ?ロバルト家には強い魔力を持った後継者がいないって話だよな?
けど、マーレがあの三人に放った波動は間違いなく高濃度な魔力だった。


「俺の気のせいだったら謝るが、マーレお前、その力⋯⋯」


俺の言葉にビクッと肩を震わせるマーレ。
ああ、どうやらあれは俺の気のせいではないらしい。


「はははっ、ルイスは凄いね。近くにいたあの3人ですら気づかなかったのに」


マーレは少し開き直った様子で俺を見た。
ん?なんだか嫌な予感がするようなーー


「うん、僕はロバルト家で数十年ぶりに生まれた魔力持ちなんだ。自分で言うのもなんだけど、結構その力が強くて。でもね、この事は他の貴族や王族方には秘密なんだよ」


⋯⋯はい!?
貴族だけじゃなくて王族にも秘密だって!!?
下手すれば、謀反で捕らえられてもおかしくは無い内容だ。


「え、えーっと、そんな大事なこと、俺に話しても良かったのか?」
「うーん、本当はダメなんだけど、ルイスにはもう気づかれちゃったし。それに、不思議と君に話しても大丈夫な気がして」


大丈夫じゃねーよ!!
急に大きなお荷物を背負わされた気分だ!
これは、ただの通りすがりの田舎者にする話では無い。
くそぉ、マーレには悪いが、あまり深入りするようなこと聞くんじゃなかったぜ。


「それに、月影軍に入ればそんなこと関係なくなるしね」
「そ、そうなのか?」
「うん!むしろ月影軍に入った方が、自由に僕の力を発揮出来るんだ。王宮に囚われることなくね」


マーレいわくーー
月影軍は、半独立した組織。
例え王であっても、過度な介入は許されない。
万が一マーレの力が明るみになったとしても、彼がその力を使って月影軍で貢献出来れば、王宮からのロバルト家に対する悪い影響はほぼないとされる。
ただ、これはあくまでも軍に入れたらの話だが。


「かなり危ない橋を渡ってるんだな、お前」
「へへ、まぁそうかもね」


こうやって笑ってはいるが、本人が一番分かっているのだろう。
マーレやロバルト家にどんな事情があるのか分からないが、彼は本気で月影軍を目指している。それに横槍を入れるようなことはするつもりは無い。


「あ、見えてきたよルイス!あれが試験会場でもある第一闘技場だよ!」


マーレの言葉に、俺は自然と視線を前に移した。
絵や写真で何度か目にした、闘技場。しかし、その大きさと迫力は実物を見ないと実感できなかっただろう。


「普段は一般の人も出入りしているんだけど、今回は特別。入隊試験のために月影軍が貸切にしたんだ」
「この建物を貸切だって!?」


さすが、国も認める月影軍。やることなすこと規模がちがいますわ。
しかし、驚いている暇などない。
ここに入れば、本格的に月影軍入隊試験が俺を待ち受けている。
そして、ずっと会いたかったあの人もあの中に⋯⋯。

7年前の火事からようやく、ここまで来た。
シスター、そしてみんな⋯⋯どうか俺を見守っていてくれ。

待ちに待った瞬間まで、あとほんの少しーーー



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね、お気に入り大歓迎です!!

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

処理中です...