UQ(アーカム・クエスト)

心桜鶉

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第二章 1.双極の秘跡

25話 人生はチョコレートの味

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  朝の清々しい空気が、体育館全体を包み込んでいる。体操服に着替えて、体育館のフロアに立つと、なぜだかとても高揚感を感じられた。しかし、私の心はどこか落ち着かなかった。目の前にある体育の授業とは全く関係ない理由からだ。それは、私が旭川ヒナと関わるための一歩を踏み出すという決意をしてからだった。私一人では現状、何もできていないのも事実だが、その時してしまった決意は今でも後悔の気持ちが少しあった。
 椎名の提案を受け入れてからその後どのように進展しているのか、どのように進んでしまうのかその未来を知るすべは私にはない。
 椎名が、「俺に任せろ」と言ってからすでに三日が立っている。まだ三日、とも言えるが私にはとても気がかりだった。廊下でヒナとすれ違うことは度々あったが、私はまだ一切関わっていないので顔を合わせることが無いのは当たり前だが、すれ違う度、変化の無いヒナの対応をみると、椎名が何かしてしまったのでは無いかと思ってしまう。
 これではまるで、恋した乙女みたいじゃないの、と自身に毒づいていると男女別々のところで着替えを終えた男子たちが体育館に集まってきた。ぞろぞろと列に並び始める中、椎名が私の近くを通る。何か報告があるのかなと、一人期待をするも、椎名は私のほうを見るとすれ違いざまにウィンクをしてそのまま、列に加わっていった。

 「何なのよ、もう……」

 「どうしたの詩絵、難しい顔して?」

 横からゆかりが顔を覗く。

 「いや、何でも無いよ。そろそろ列に並ぼう」

 私は慌ててごまかした。隠すのは良くないが、この話題をゆかりにはしたくない。話しにくい内容というのもあるが、それよりも確信は持てていないが、私自身もまだはっきりとしていない少し危険な匂い――不安要素があるため、友人をあまり巻き込みたくない。
 椎名にはヒナに関して変な噂が立たれているのような気がするが、これはヒナに近づくためだ。周りに言いふらされると困るが逆に勘違いされていたほうが、アーカロイドのことが知られる可能性が低くなるので今は我慢するしかない。
 体育の授業はスムーズに始まった。最初の準備体操だけ男女一緒にやるが、準備体操が終わると体育館にネットで仕切りを作り、分かれる。
 今日は男子はバスケ、女子はバレーをやることになっている。バレーをやるにあたり、私はある準備をした。
 前日に女子プロバレーの試合の動画を観てきたのだ。
  私はふとあることを思いついたのだった。もしかしたらと――。
 私がはじめてアーカロイドの試運転で遠隔でプリンターを操作して印刷をことや、外で視界撮影をしたときもそうだ。ボタン操作などは一切していない。
 あのとき、構図やピントなどを調整しこの場面を切り取りたい、という意識がカメラのシャッターボタンを押したときと同様に視界撮影に繋がった。
 その経験を踏まえ、私はある仮説を立てた。ある程度強いイメージがあれば、そのとおりにアーカロイドの体も動かせるのではないか。
 この仮説がどのような結果に繋がるかまだわからないが、試す価値はある。そう思い、試合の動画をいくつか観てきた。
 私はある程度、体は動かせるほうだが運動が得意というわけではないので、いつもより調子が良い程度に周りにはみえるだろう。……これはアーカロイドの性能を試す情報収集であり、決してズルではない。
 
 「じゃあ、そろそろ試合を始めるぞ」

 先生の合図をもとに、赤色のビブスを着たチームと青色のビブスを着たチームに別れ、それぞれコートに入る。
 同じ青チームのゆかりとともに位置についた。
 高校の体育ではしっかりとポジションを決めて本格的に試合をすることもあるが、私の学年は人数も多いことから授業の前半は特にポジションは決めずに自由にゲームを行うことになった。
 だが、面白いことに自然と運動神経が高い子を中心に大まかなポジションに分かれていく。
 経験者や積極的にボールに触れたい人はネット中央側に寄り、バレーのポジションで言うミドルブロッカーの役割を担う。
 ゆかりはあまり前の方に行きたくない様子で、後ろの方でディフェンスに徹するようだ。彼女は運動神経は良いほうなのでリベロを任せることはできるだろう。
 私はネットの左側に位置した。試合に夢中になると、ボールを追い偏りがちになってしまうので周りをみながらディフェンスとオフェンスの両方を担おう。左側で空いたスペースを埋めるように立ち回ればブロックでこぼれたボールやチャンスが有れば得点とかも狙いにいけるはず……。
 味方メンバーの位置を頭の中でイメージしつつ、位置情報を視界内に表示させ、常にモニタリングをする。
 
 「詩絵、頑張ろうね」

 後方からゆかりが私に声をかける。私は親指を立て、サムズアップで応えた。

 「ピイィィィ――ッ」
 
 先生がホイッスルを鳴らした。サーブは相手チームから。バックライン位置からサーブを打つため、ボールが高く上げられた。
 
 さぁ、試合ゲーム開始だ。
 
 
 
 
 
 
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