UQ(アーカム・クエスト)

心桜鶉

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第二章 1.双極の秘跡

24話 新生活

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「行ってきます」

 ヒナは元気よく玄関を飛び出した。だがヒナがいるのは自宅があるバイオフロンティア社の研究所ではない。ここは祖母の家だ。由緒ある、門の装飾や150平米ある土地に佇む木造の建物はいつ見ても劣らない。
 一時的に、祖母の家で暮らすことになった。暮らすと言ってもアーカロイドで、だが。
 生身のヒナ自身は、とある離島の研究施設にいた。ここは、旭川博士が所属する研究グループの支援機関が所有する島で、支援機関の資金援助を受け、そこでは様々な研究が行われている。
 旭川博士――お父さんはそこで働く研究仲間から連絡を受け、施設訪問のためヒナとともに離島に来ていた。
 一般的な感覚で引っ越しともいえる移動をするため、博士も自身の研究所を一時的に離れなければならない。
 このことは研究所のごく一部の人しか知らないが念のため、安全を考慮し、ヒナも他の学校に転入させることにした。
 お父さんからは他の研究でヒナにも手伝ってほしいと言われている。しかしヒナは日中、学校に行かなければならない。そのためそこの研究施設の一室を借り、アーカロイドで祖母――おばあちゃんの家から学校に行き、学校が終わってからおばあちゃんの家で接続を解除したら研究所の方で父の研究の手伝いをすることにした。
 ヒナが研究のため学校を転入した関係で、おばあちゃんの家から通うことになったとき、おばあちゃんは大変喜んでくれた。
 最初はヒナをみて、「歩けるようになって良かったね、治って良かったね」と泣いて喜んだが、ヒナが心を痛めつつも今はアーカロイドという機械に接続していることを話し、ネタバラシをしたらおばあちゃんは仰天し、しばらく気を失ってしまった。理解が追いつかなかったらしい。
 ヒナは食事の心配はいらないこと、夜は接続を切ってアーカロイドを保管したいから部屋を保管するための部屋を借りたいことを伝え、現在、二拠点生活でなんとか過ごすことができている。
 こうして今日もヒナはいつも通りの日常を送ることができているのはお父さんのおかげだ。お父さんから譲り受けたアーカロイドはみんなと同じように再び学校に行くきっかけをくれた。
 車椅子生活の時は、階段を上がれないため、一人エレベーターで階の移動をしていたし、荷物が多い時は友達に持ってもらったりと自分も気を使うし何より周りの人に気を使わせてしまうのが嫌だった。
 アーカロイドで学校に行きはじめてすでに二週間がたった。学校の中でもクラスの中でも特にかわったことはなく、ヒナがアーカロイド――アンドロイドロボットに自宅から接続して来ているなんて誰も思っていないし、疑いもしない。
 どれだけ精巧な作りになっていても、人と人そっくりのアンドロイドに違いがあるはずだ。もしかしたら、外見的な特徴ではなく、内面にあるのかもしれない。
 以前、お父さんから聞いた話によれば、アーカロイドに接続するためのリング状の機器、UDP(アーカムディスプレイ)で接続された意識は完全没入フルダイブにより、一度アーカロイドの頭部に移る。そこはアーカロイドに入力された感覚情報などの信号を受信する場所であり、全ての情報が集まり処理される場所。脳からの指令も処理され、指令に基づいてアーカロイドを動かす。これは脳波などを読み取りその命令でコンピューターを動かしたりするブレインマシンインターフェイスと同じ仕組みのようだ。
 アーカロイド側で集まった情報は再びヒナが装着しているUDPに送られる。こうしてヒナは実際にその場にいなくてもアーカロイドの感覚情報をもとに味覚以外の情報を得ることができる。ただ、まだ現実の匂いまでは分からないので人間で言う嗅覚は存在しないが、アーカロイド側のセンサーで検知した匂いをもとに、今どんな匂いがしているか、視覚情報に表示されるため、ヒナは匂いを理解することができる。
 場合によっては、人に害がある刺激臭を直接嗅がなくてよいので何かあったときに安心とも言える。
 こうして情報が処理されることでアーカロイドを使っていてもヒナの中に感情が生まれる。それこそ、「心」とは改めて考えるきっかけになるのかもしれない、とヒナは思った。

 授業が終わり、いつものように複数人の友達と話していると、スマホの着信がなった。スマホと同期しているため、受信したメッセージは自動的に視界上に表示される。送り先は同じクラスの橘愛海たちばな あみだった。
 メッセージを開く前に教室の中を覗くも、今は橘愛海はいないようだ。同じクラスならメッセージでよこさなくても……と思いつつも、友達にトイレに行ってくる、と断りを入れると実際にはトイレに行かないが、トイレ近くの階段横のフロアでメッセージを開いた。
 
 『今週の土曜日って空いてる?』
 
 橘愛海からのメッセージはこのような件名で始まっていた。
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