UQ(アーカム・クエスト)

心桜鶉

文字の大きさ
上 下
6 / 40
第一章 1.アーカム技術

第6話 百聞は一見にしかず

しおりを挟む
「アーカム・ダイブ!」

 私はアーカロイドに接続するためのコマンドを唱えた。頭につけている機械がこのコマンドを認識し、私の意識をアーカロイドと接続する。
 コマンドを唱えなくても接続する方法はあるみたいだが、それだと自分が今どっちを操作しているか分からなくなるそうだ。そのため、このコマンドを唱えることで、人のときの感覚とロボットにいるときの感覚を区別するらしい。
 なにせ、動作するときの感覚、触覚はどういう理由か、人と全く変わらないようだから。

 一瞬、視界が真っ白になり、眩しくて目をつむるとすぐに暗闇になった。恐る恐る目を開けてみると、先ほどと変わらない、臨時の更衣室にした小部屋の風景がそこにあった。あれ、失敗したかな?と思い、あたりを見回してみるとすぐ横にもうひとりの私が寝ているではないか。ミルクベージュの髪色でショートボブの髪型をし、目のあたりに専用の接続機器のUDP(アーカムディスプレイ)をつけている少女は紛れもなく私自身だった。

「私だ……」

 自分自身が今、見ている現象に脳が追いつかなくて、そんなつまらない感想しかでてこない。いや、私と同じように初めて使った人はみんな同じ感想を言うだろう。断言できる。
 鏡などでは真正面しか見たことないのでこうして様々な角度から見られるのは新鮮だった。だけどまるで、死んだ自分を魂になって上から眺めているような感じもして少し嫌な構図だ……。

 だが、これで接続に成功したと言える。違和感がないのが不思議なくらいだ。確かにアーカロイドと人間の区別がつかなくなってしまうのも分からなくはない。
 小部屋を出ると、念の為ドアに鍵をかけた。アーカロイドを動かしているときは生身のほうが無防備なのには変わりない。このような安全面の配慮もアーカロイドを動かすためには重要なことだろう。アーカロイドを操作中はドアに施錠をするなど生身の自分自身を何かしらの形で保護する必要がある、と報告書に書くためにどこかにメモしておこう。えっとメモ用紙は……と思いながら三輪さんの机の上などあたりを見回した。すると――。

『※クイックメモに保存しました。以下:アーカロイドを操作中はドアに施錠をするなど生身の自分自身を何かしらの形で保護する必要がある。※メモした内容はお近くのネットワーク帯に接続されているプリンタで出力することも可能です』
 
「うおっ!そんな事もできるのか!」
 
 視界の左角にメッセージが表示された。これはシステムメッセージと言われるものだろう。アーカロイドの視界は人間の視界にほぼ近いが、AR(拡張現実)のようにデータとかが表示されるのか。

「詩絵ちゃん、どうかした?」

 私が急に出した大きな声に、驚いた三輪さんは心配そうに様子を伺ってきた。だが、そんな私を見て三輪さんは何も言ってこない。気づいてないのかな?

「あ、こっちの話です。そうだ。三輪さん、問題です。今の私はどっちでしょう?」

「え、どっちだろう……。上にジャケットを羽織っているといっても中に着ているインナーは同じだからなぁ」

 本当にわからないのか。三輪さんは、私があえて接続せず上にジャケットを羽織って出てきた、と思っているのかもしれない。可能性はあるな。それだったらすごい。

「正解はこっちです~」

 当てられなかったことが嬉しく少しウキウキな気分になり、大げさに私はプリンタの方へ向けて――ぱちんっ、と指を弾いた。
 するとプリンタが反応して先ほどメモした内容を印刷し始めた。三輪さんにはこの現象が魔法のようにみえるだろう。
 プリンタへの印刷指示は、プリンタの機器の方をみて対象の物を印刷しようと思うだけで良いみたいで、指を弾く必要はない。これは私の演出だ。

「おお!アーカロイド詩絵ちゃんだったか!すごいな、本当に分からなかった。じゃあ、接続はうまくいったみたいだね!どうだい?調子の方は?」

 三輪さんはプリンタから出力された紙と私をみて不思議そうな顔をしつつも目を輝かせていた。

「そうですね……とくに元の姿と感覚は驚くほど変わらないです。噂通り視界もクリアになっているという感じでしょうか。それに遠くを見ようとすると自動で補正がかかるなど様々な機能があるみたいです」

 私は両手を動かしてみたりしてみたが、特に関節のひっかりとかもない。本当に中は機械になっているのか疑問をもつレベルだ。もしかしたら中を開くと臓器だったりして……ヒエッ!考えただけで恐ろしいので私は今の考えを思考の外へ持っていった。

「早速テストしてみます。まず、有効範囲を知りたいので外を出歩いてみてもいいですか?」

 この新しい技術で外を歩いてみたい。私の中にひとつの好奇心が芽生えていた。
 
「良いよ、でも夢中になってあまり遠くにいかないようにね」

 三輪さんもそんな私のワクワクした顔を見て判断したのか、外出を許可してくれた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

【SF短編集】機械娘たちの憂鬱

ジャン・幸田
SF
 何らかの事情で人間の姿を捨て、ロボットのようにされた女の子の運命を描く作品集。  過去の作品のアーカイブになりますが、新作も追加していきます。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

処理中です...