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闇の王国と光の魔物編
第十八話 偽りの動乱(2)
しおりを挟む「あー……疲れた」
レッドは装備品として貰った鎧を着たまま、街を一人ブラブラ歩いていた。
こんな姿のままだが、実は警備兵としての仕事からは解放されている。新任だし、せっかくだから祭りを楽しめと今日は終わらせてくれたのだ。
そのため、今は祭りの活気漂う夕暮れの街を闊歩しているというわけだった。
ただし、別に祭りを楽しむため歩いているわけではない。
「……どう思う?」
『多分、君を放逐したかったんじゃないかな。警備兵の奴ら、祭りの最中なのに明らかに減ってるもん。どこかへ集まってるよきっと』
「しかし……だとしたらむしろ俺を拘束するために警備の仕事続けさせるんじゃないか? どうして自由にしたりする?」
『さあ? 三日前から監視も消えてるし、意図不明だよね』
ジンメの言うとおり、三日前――正確には、マリオンが来てギリーとグレイグの密談を聞かせてから監視の目は消えていた。
レッドに対する疑いが晴れた……とは思えない。あれ以降は自警団として祭りの準備を手伝うくらいの仕事しかしていないが、その間に信用を勝ち得るような真似をしたわけではない。監視が緩む理由など皆無だろう。
考えられるのは、もはや怪しい人物一人監視している余裕が無い。これが正解と普通は思うが――どうにも違和感があった。
「あいつが――マリオンが指示したんじゃないかな?」
レッドには、そうとしか考えられなかった。
そもそも、三日前のあのとき、二人の密談を聞かせたことの理由すら不明なのだ。あれ以降、マリオンには会えてすらいない。祭りの開催で飛び回っているとのことだが、レッドは避けられているのだと確信していた。
あんな物を見せて、マリオンは何を企んでいるのか? 少しも思惑が読めなかった。
「……とにかく、今は消えた自警団の奴らを探さないとな。悪巧みしてるってんなら、見つけ出してとっちめる必要がある」
『おいおい、クーデターを防ごうってのかい?』
そう、揶揄するような声を聞いて、レッドはピタリと足を止めた。
「――なに? どういう意味だ?」
『どういう意味だはこっちの台詞さ。君、正義の味方のつもり? あくまで目的は、連中が確保している魔物の方でしょ?』
その台詞に、レッドは胸に刺さるものを感じてしまった。
「――別に間違ってないだろ。あいつらが魔物を確保しているのが事実なら、それを仕留める。それだけだ」
『クーデター起きる前にやる必要ないじゃん。ったく、お人好しにも程があるよ君』
いちいちこちらを煽ってくる。殴りたくなったが、自分の手が痛くなるだけなので今は止めておいた。
「お前、『光の魔物』は覚醒させると危険とか言ってなかったか? だったらあいつらが使う前に倒すべきだろ」
『おっと、それはそうだったね。でも僕、どうにも信じられないんだよなあ。新貴族派如きに光の魔物を与えるなんて計画、僕のシナリオには無かったもん』
「じゃあ、どんな計画だったんだ? ソロンでの勇者による討伐作戦は」
『――第四方面軍をクーデターに参加させるだった』
と、そんなことを初めて言い出すのでレッドは驚いてしまった。
「第四方面軍、だと?」
『そ。アシュフォード領主が第四方面軍と結託して軍事クーデターを発生させる予定だった。でも、現在この計画が実行されているとは思えないね』
「どうしてだ?」
『第四方面軍の軍団長を務めている、ウィルマン辺境伯がまだ生きてるんだもん』
ウィルマン辺境伯の名は聞いたことがあった。レッドがたまに行ったパーティでも、国境を守る武人として名が知れた有名人のはずだった。
そして、もう一つ思い出したことがある。
「でも、そいつって……」
『そ。もうゴリゴリの国粋主義者。アトール王国が唯一無二の国家だとか言って憚らないタイプ。そんな奴が、王室を倒すクーデターに加担するかい? だから現ウィルマン家当主には死んで貰って、野心の強い息子に継がせてクーデターを唆す予定だったの』
「軽々と暗殺計画を述べるなこの野郎」
『なによ、まだ指示も出してないんだからいいじゃん。根回し程度はしてたけど、ウィルマン辺境伯が死んだなんて話は聞かないからまだ暗殺してないよ。彼が生きている限り、第四方面軍が裏切るわけがない。第一、もしこの期に乗じて動くなら、第四方面軍が何らかの活動をしているはずさ。でも音沙汰無しじゃない』
つまり、今回の件で第四方面軍が関わっているとは思えないと言いたいようだ。確かに、ジンメの言い分はもっともである。
しかし、ならば尚のこと、新貴族派の連中がそれに変わる切り札を持っているとしか思えない。一軍団にも匹敵する力――やはり、伝説の魔物しか考えられなかった。
それと、レッドはジンメにもう一つ聞きたいことがあった。
「――ジンメ、お前がそんな計画企てたのは……」
と、質問しようとしたところ、
「てめえ、なんでこんなところにいやがる!」
なんて、罵声が後ろから飛んできた。
「――あん?」
振り返ってみると、そこにいたのは、
赤ら顔をした、酔っ払いだった。
(――誰だっけ)
(物覚えが悪いねえ君。ここに来た日に君が腕相撲でぶっ倒した奴だよ)
そう指摘されて思い出した。記憶にある限りだと、ドーソンとか呼ばれていた男だ。よく見ると、あの場にいた他の酔っ払いたちも同行している。
「――何かご用ですか?」
面倒なのに会っちゃったなあと思いつつ、レッドは一応真面目に尋ねてみる。
だが、酒が入った男の頭には不愉快な物にしか写らなかったらしい。
「ああん!? ご用だぁふざけやがって! てめえがなんでここにいるんだよ!」
「――見ての通り、祭りの警備ですよ。ここの自警団に入りまして」
はぁ? とうるさく騒ぐから、また暴れるかなと思い頭を抱えたくなったが、意外にも飛んできたのは罵声ではなく笑いだった。
「はっはっはっは! てめえが!? 自警団!? 嘘ついてんじゃねえぞこのガキがぁ!」
「……嘘じゃありませんよ。ほら、この鎧一式、剣も盾も自警団の人間にって貰ったんですから」
「ふん! どっかで盗んだに決まってる! 自警団の連中なら、あっちの方で集まってたぞ。だってのにお前がこんなところにいるわけ……!」
「……!?」
ドーソンの一言を聞いた途端、ドーソンの胸ぐらを掴んで地面に引き倒した。
「ぐわあぁ!?」と叫ぶ間もなく、レッドは魚向けになったドーソンの体に跨がると、腰に差してあった普通の剣を抜き、その首元へ突き立てた。
「ひ、ひぃぃ!」
ドーソンが怯えるが、そんな悲鳴は聞いていなかった。剣を首筋に触れさせながら、レッドは彼に質問をする。
「――どこだ?」
「は、はぁ?」
「何処にいる? 自警団の連中はどこに集まってるんだ?」
「え、ええと……」
「早く言えっ!」
首筋に立てた剣をより密着させ、ドーソンに冷たい金属の感触を味あわせると、怯えきった彼は泣くように答えた。
「む、向こうだ! 住宅地にある、赤い屋根の集会場! そこにぞろぞろ入っていった!」
「……どうも」
話を聞き終えたレッドはドーソンの体から降りると、急ぎ足で駆けていった。
***
目的の集会場は、案外早く見つけ出すことが出来た。
普段は何かしらの会合や地域の集まりにでも使っているのだろうその場所は、周辺の住宅地含めて空っぽになっていた。無論、大概の人間が祭りで出払っているからだ。
そんな閑散としているはずの場所に、唯一人がぞろぞろ集まっている場所がある。
レッドは、その赤い屋根の家へゆっくりと近づいていった。
「……ジンメ、監視はいるか?」
『いないね。ちょっと杜撰すぎるくらいだよ。新貴族派なんて言ってるが、素人どもの集まりなのかなぁ?』
「仮に第四方面軍が介入していないというのが本当なら、素人集団というのもあながち間違いじゃないかもな」
『馬鹿馬鹿しい、それでクーデターなんて成功すると……おっと、これ以上は近づくとまずいな』
集会場にもう少しでたどり着くというところで、ジンメに止められる。
「なんだ、ジンメ?」
『感知用の結界貼ってある。相手に魔術師いるね』
レッドには見えないが、ジンメには分かるらしい。多分、何者かがこちらを探ろうとする場合に備えて用意した物だろう。
「中にいるのは間違いないんだな?」
『具体的な数は不明だけど、数十人はいるね』
「ここからじゃ中が窺えない。せめて話している内容だけでも分からないか?」
『余裕だよ。この結界作ったの、大して腕の良い魔術師じゃないね。あるいはわざとか……まあいいや、ちょっと聞き耳立ててみよう』
すると、ジンメはレッドの左手を動かして前に突き出すと、手のひらからピンク色をした光の球を打ち出した。
光の球は、赤い屋根の家へ真っ直ぐ向かうと、壁にぶつかり消えてしまった。
「なんだ、今の?」
『盗聴用の特別な魔術さ。あの程度の結界なら気付くことなく盗み聞けるよ』
「そうやって誰かの秘め事を覗くのが趣味かお前」
『人を変態みたく言うな! ――おっと、聞こえてきたよ』
すると、今度は左手自体が淡いピンク色に発光していく。
光と同時に、何か人の話し声が聞こえてきた。
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