The Dark eater ~逆追放された勇者は、魔剣の力で闇を喰らいつくす~

紫静馬

文字の大きさ
上 下
113 / 123
闇の王国と光の魔物編

第十七話 偽りの動乱(1)

しおりを挟む

                                        
 突然の第二王子訪問のニュースから三日後。
 街は、人でごった返し、お祭り騒ぎとなっていた。

 ただでさえ盛況な街が、このときは街中大盛り上がり。大通りには屋台が並び、雑技団や大道芸人も山ほどそこらに溢れかえっている。美しい花が舞い散り、栄えたこの街を彩っている。

「――これで、客として来れたら楽しかったかもしれんが」
『嘘つけ。お祭りなんか嫌いなクセに』

 一人呟いたつもりが、ジンメにツッコミを入れられてしまった。

「いやだって……こんな鎧着けて、街の警備しなきゃいけないんじゃどんな楽しい光景もムカつくだけだろ」
『同感だけどさ、衛兵とか給仕とかどんな楽しいことでも楽しめない人はいくらでもいるんだから、んなこと愚痴ってたら怒られるよ?』

 そんな風に揶揄されてしまう。左手に正論言われるのは気に入らなかった。

  今レッドは、鎧一式を着込んで街の一角、港が見える大通りの傍で警備をしていた。本来なら衛兵の仕事ではあるが、何分人手不足なので自警団も呼ばれたのだ。ちなみに鎧も剣も支給されたもの。くれた相手は、件の武器商人ベティだった。

「はぁ……結局、ベティがどんな奴かすら分からなかったな。会うことも出来なかったし」
『忙しい相手だそうだからねえ。あるいは、避けられてるのかも』
「避けられてる? 俺個人に対してか? どうしてそんなことをする?」
『さあて、ね』

 また回答を明確に述べなかった。こういう匂わせたがる態度は嫌いである。

 実は今日まで、ベティに接触しようと色々回ったものの、会うことは叶わなかった。商人と言うことで街に滅多にいないというのは分かるが、あのクラーケン討伐作戦にも同行していたそうだし何処に居るのか居ないのか自警団でも分からないという。
 だったら、どんな奴か知りたかったのだが、誰に聞いても適当に話を濁らせるのみだった。最終的に、女であること以外不明のままで終わった。

「信用されてないんだろうなあ。ま、入ったばかりでいきなり異常な実力見せれば、当然と言えば当然か」
『ふうん、本当にそれだけかねえ?』
「うん? どういう意味だ?」
『いや、これはあくまで憶測だから、言わないでおいた方がいいかな』

 そう言ってまたシラを切ってしまう。こうなっては絶対喋らないため、レッドはため息をつくしかなかった。

「まあいい。それよりも、重大なのは魔物の方だな。そっちも手がかり一つ見付けられなかったし」

 そう。それがもう一つの懸念だった。

 元々レッドがこの街を訪れたのは、『光の魔物』がここに存在するという情報があったからだ。ギリーが話していたことから察するに、それは事実なのだろう。
 しかし、肝心の光の魔物が何処にいるのか、その隠し場所は掴めなかった。この街自体には存在しないようだが、かといって離れているとも思えないとはジンメの考えである。

『まあ、普通なら危険な魔物なんて離れて置きたいだろうけど、彼らにとってもあれは切り札だからね。あんまり距離を取って、別の奴に奪われるリスクは無視できないでしょ。自警団だって人手は少ないし、こんなヤバい仕事金で雇った傭兵や冒険者にやらせるとも思えないしね。ある程度離れていても、目が届く範囲に留めると思うよ』
「そんな離れていない範囲でも、お前には感知出来ないのか?」
『言いたかないけど、今の僕の感知は弱いからねえ。巧妙に魔力を隠蔽されれば、見付けるのは難しいかも。足下にでもあれば別だけど、街周辺完全にカバーするのは無理だね』
「頼りにならない奴」
『なんだと? 言っとくけど僕がこんな弱体化したのは誰のせいだと思って……』

 そう幾度目か知らない喧嘩をし始めたら、向こうから別の警備兵が歩いてきた。熊族の亜人であるザダだった。

「ようヘリング、異常は無いか?」
「ええ、今のところは別に」
「なら良かった。こういう祭りの時は馬鹿なこと考える奴も多いから、気をつけろよ」
「わかりました」

 そんな挨拶だけして、ザダは去って行く。
 その背に向かい、レッドは「へっ」と笑ってみせた。

「馬鹿なこと考える奴だと。自己紹介のつもりかね?」
『ま、あの手のタイプは自分が馬鹿なことしてるとは思わないもんさ』

 レッドとジンメの意見が珍しく一致する。

「しかし、それはともかくとして……」

 レッドは、警備兵として行儀良く立っていながら、辺りをキョロキョロする。

『なんだい、落ち着きも無く』
「いや、落ち着いてるさ。でもまあ、すごい活気だなと思ってな」
『はあ? 君王都で暮らした人間でしょ。この程度の祝祭なんて山ほど行ってるじゃない』
「違う違う。俺が驚いてるのは、たった三日でこんな祭りを開けたことさ」

 レッドはそう訂正させる。

 実際、三日前に第二王子が視察に来るということで、歓待の祭りを開くと言ったときは無理だろと思ったものだ。街一つの祭りをたった三日で起こすなど、不可能に決まっている。
 ところが、グレイグやギリーが積極的に活動したらしく、当日になってみればこの盛況ぶり。いくら経済力のあるソロンとはいえ、こんな大きな祭りをたった三日で開くなど恐ろしい力だった。

『まあ、だいぶ無理したろうけどね。アシュフォード領のみならず、近くの領地からも人や食材や商人に至るまで金使って輸送したんでしょ。ワイバーンもだいぶ使ったろうし、恐らくむちゃくちゃ金消費したと思うよ?』
「だろうな。それくらいしないと第二王子を招けないしな。しかし、そんな無茶させてまで王国は第二王子をどうして寄越したのか……あ、そう言えば」

 そこでレッドは、他にも分からないことがあるのを思い出した。

『うん? どうかしたかいレッド』
「いや、第二王子はどうやって来るのかと思ってな。ここまで馬車は三日は無理だし、いくらなんでもワイバーンで飛んだりはしないだろ」

 王都からこのソロンへは、馬車でも十日かかる。三日では無理だ。
 かといってワイバーンで来たりはしない。ワイバーンでもかなりの強行軍になるし、ワイバーンでの移動は基本的に無防備だ。魔物や賊に襲撃されるリスクを考えれば、第二王子を乗せて移動なんて危ない真似は出来まい。

 そう考えての疑問だったが、ジンメに心底呆れた声を出されてしまう。

『はあ? 呆れたもんだ、君も物を知らないねえ』
「なんだと? どういう意味だ?」
『そのままの意味だよ。馬車やワイバーンなんか使うかい。ここはソロンだよ?』
「ソロンだからどうだって言うんだ? 意味わからんぞ」
『やっぱり知らないんだね。君それでも公爵家の人間? 何がって……おや、来たね』

 そう言うと、ジンメは左手を動かして中空を指差した。

「は? 何が……」

 とまで言いかけてレッドは止まる。

 ジンメが示した先には、ソロンの港があった。
 今、そこに一隻の船が停泊しようとしていた。それ自体は、ソロンにおいて何も珍しいことでは無い。

 問題は、その大きさである。
 ひたすら、デカい。普通の輸送船の倍はあるかも知れない。幅も、巨大さに自信があるヴェルヌ川だからこそ良いが、下手な川では通れなくなるだろう。

 巨大さだけでは無い。普通の帆船には無い、派手な塗装がされていた。赤を基調とした派手な色合いは、船というよりは豪華な芸術作品のようであった。

 何より、その船のマストに、デカデカとアトール王国の紋章が描かれているのが遠く離れていても容易に分かった。

「……なんだありゃ」
『王室御用達の巨大船、フランシス号さ。王族が大きな集まりなどで移動するとき使う専用の船。知らなかったのかい?』
「……王都には港なんて無いからな」
『勿論、最寄りの港に停泊させてるのさ。こんなの王都に暮らす庶民だって知ってる奴は知ってるよ。やれやれ、王都と屋敷以外ほとんど出たこと無い引きこもりってのは常識というものが……あいだだだだだだだっ!』

 ここぞとばかりに笑いものにしてくるジンメを、思い切りつねってやった。結果的に自分も手を痛めるのだが、構いはしない。

「やれやれ……しかし、船でも時間はかかるだろ。風の影響もあるし、三日なんて短時間でたどり着けるのか?」
『いいや、あの船は単なる帆船じゃ無い。船体に魔石を埋め込んで、周囲の水の流れを操作して自ら動くことが出来る。大量の魔石と船体にある程度の規模が無いと流れに影響与えられないから、かなりの巨大船になる必要があるけどね。ただ、速度は段違いだよ』

 やはり王室御用達の巨大船、そこら辺の船よりはるかに優秀らしい。言い振りからして多分作ったのはこのジンメだと思うので、レッドは自慢気にしているこいつをスルーすることにした。

「――つまり、あの船に乗っているのは王族……多分、第二王子ってことだよな」
『当たり前だよ。王族無しにあの船は動かせないもん』
「なんで、そんな物まで持ち出してわざわざ来たんだ?」
『――知らない』

 と、投げやりな返答をされた。

 確かに、そんな王室の誇りと言えるような特別な船を、ただの視察程度で持ち出すとは思えなかった。
 まるで、何かに使うように。あるいは使ってくださいと言わんばかりに。
 何者かの思惑を、確かに感じた。

「――第二王子、乗ってるかな。見に行きたいところだが……」
『警備兵が部署離れちゃまずいでしょ。パレードの時間まで我慢しな』

 警備兵を引き受けたのは疑われないためだったが、病欠とか言って逃げるべきだったかなと今更ながら後悔した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...