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転生勇者と魔剣編
第六十四話 与えられし剣(4)
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「ぐがっ……!?」
「――レッド・H・カーティス」
アレンは、掴んだその手でレッドを持ち上げると、またしてもどこかで聞いたような口上を述べだした。
「貴方を許すわけにはいかない。亜人として、この世界に生きる一人の人間として。
――勇者として」
「ぐ、あ……っ」
宙ぶらりんになった体でなんとか抵抗しようと足をばたつかせるが、どうにかなるものではない。無意味な抵抗として周囲に笑いを提供しているだけだった。
その時、左手が強く発光する。まるで、夜闇を終わらせる朝焼けのように。
「――終わりだ、レッド」
「!!」
アレンの最後を告げる言葉が終わった瞬間、
白き鎧の左手は眩い爆発を起こし、レッドの体を吹き飛ばした。
「ぎゃあああああああああああぁぁっ!!」
吹き飛ばされ、その後地面に叩きつけられたレッドは、絶叫し激痛に悶えるように転がり続ける。掴んだ左手から生じた光は、爆発として彼の顔を焼いたのだ。
「づぅ、あ、あ……」
顔を焼かれた痛み苦悶の声を上げながら、なんとか開けた右目に、ある物が写った。
それは、近衛騎士団の鎧の胸当てだった。恐らく倒された兵のものだろうが、表面は近衛騎士団特有の銀色に光り照っていた。まるで、鏡のように。
「ぐぅ、づあっ……」
ふと、レッドはその胸当ての下へ這いずるように移動した。
気になったのだ。今の自分がどのような姿をしているかが。
そして、胸当てまで辿り着くことが出来た。幸いにも、その銀色の胸当ては十分すぎるほど鏡としての役目を果たせた。
つまり、今のレッドの顔をきちんと偽りなく見せることが出来たということである。
「――っ!!」
レッドは言葉を失う。
何の具合が良かったか、顔の前で光が爆ぜたにもかかわらず、顔の右半分は無事であった。少し汚れているくらいで焦げも無い。
けれども、もう半分の左側は酷い有様だった。
左半分は、ほとんど焼け爛れていた。左目も完全に潰れているらしく、目を開けることすらできない。金髪碧眼の美形として名を馳せた彼の顔は、もはや半分も失われてしまったのだ。
「なんで……なんで……」
しかしながら、レッドが言葉を失ったのには、顔の半分が焼け爛れたこと自体ではなかった。
この顔に、覚えがあったからだ。
今でも鮮明に覚えている、前回の記憶。
牢獄から脱走したその足で別邸に向かい、家族に見放され使用人たちに嬲り殺しにされ、しまいには煮えたぎった油をかけられ火達磨にされた。
その時、レッドの顔は左半分が焼け爛れ、左目が潰れてしまったのだ。
「どうして……どうして……!」
絶望しながら、レッドは繰り返す。
自分は変わろうとした。愚かで、無能で傲慢だった自分から。
自分は変わったと思った。他者を傷つけ、苦しめるしか能が無かった頃とは違うと。
自分は変えたかった。未来を、前回のような最後を迎えないように。
しかし、しかして、その結果が今、ここにある。多少の差異はあるとしても、
前回と変わらず誰からも見放され、傷つき破滅した自分が今、ここにいる。
――なんで……ここだけ変わらない……っ!!
レッドの内心には、もはや絶望しかなかった。もはや這いずる気力すらなく、その場にうつ伏せに倒れてしまう。
全てに失敗し、破滅の最後を迎えたことを悟った彼は、もはや何もかも無意味と気付き、そのまま意識を手放そうとした。
が、それは途中で阻まれてしまう。
「――ご苦労様でした。作戦に参加して頂いた全ての方々へ、感謝申し上げます」
消えかけた意識が、突然現れた声にパっと覚醒する。
残された僅かな力で声の方へ振り向くと、そこには思った通りの輩がいた。
「――我々も、非常に心苦しい限りです。まさか教会の中に金で信仰を捨てた裏切り者がいたとは、大変に、悲しい事です。
ですが、幸いなことに、神は我々を見捨てなかった。新たに選ばれし、いいえ、本当に選ばれし勇者を我々に示してくれていた。――アレン・ヴァルドよ」
「は、はいっ!」
呼ばれたアレンは、白き鎧姿のまま畏まる。勇者パーティが初めて揃った、あの儀礼の場の時を思い出す。
「その白き鎧こそが、真に聖剣に選ばれし者の証。その鎧を纏える者こそが、世界を救う真の勇者なのです。
その白き鎧は貴方の、いえ世界の為にある力。その正しき力を以て、世界を貴方が変えるのです。教皇猊下に代わって激励の言葉を贈りましょう。頼みましたよ」
「~~はいっ、枢機卿長様、わかりましたっ! 故郷のみんなのため――いいえ、この世界の人たち全てのため頑張りますっ!!」
感極まったらしく、力強く応じるアレン。
その相手は、ラルヴァ教の神官服、それも山吹色に染められたものを着た、目のところを布で覆うエルフだった。
――ゲイリー・ライトニング……っ!!
その顔を、憎悪を込めて睨みつける。
すると、その視線に気づいたのか、枢機卿長はレッドの方へ顔を動かした。
「…………」
「――っ!!」
一瞬、ほんの一瞬、こちらの無残な有様を視界に納めた枢機卿長は、
誰にも、レッド以外気付かないくらい、僅かに口元を緩ませた。
やはり――とレッドは確信する。
この男が、ゲイリー・ライトニング枢機卿長が、アレンに吹き込んだのだ。
レッドが偽勇者だと、アレンこそが真の勇者だと、唆したのだ。
奴こそが、この茶番劇の主催者だったのだ。
今すぐにでもその喉元に喰らいつき、引き千切ってやりたいくらいの憎悪がレッドに沸きあがった。
だが、もはや指一つ動くことができないレッドには、ただ枢機卿長を睨みつける事しか出来ない。
いや、出来ないはずだった。
――え?
その時、レッドは気付いた。
気付く筈の無いことに、気付いた。
枢機卿長の、その山吹色の神官服の更に下。
彼の服の中に、ひっそりと隠されているはずのものに。
輪の中に黒い剣をはめ込んだ形のアクセサリが、首飾りとして付いているのが見えたのだ。
「……はは、ははははは、ははははははははは……っ」
その場に、地の底から響くような暗く澱んだ笑い声が木霊する。
誰もがギョッとした。先ほど勇者の一撃で倒れ無様な姿を晒しているはずの罪人が、突如笑いだしたのだから当然だ。
そのままレッドは、もはや指先一つ動かせなかったはずの体を、ゆっくりと起き上がらせる。まるで死者が生き返ったような様に、皆が驚きを隠せない。
「――まさか、貴様に感謝する日が来るとはな、ゲイリー・ライトニング……」
いきなり呼ばれた枢機卿長は、意味が分からなかったろう。怪訝な表情を浮かべてしまう。
そんな彼を意に介さず、レッドは先ほどマータに切られた首元に手をやり血を拭うと、その血をポタポタと地面にある自らの影に注いだ。
そして、笑い声と同じく地の底から響くような声で、ゆっくりと紡ぐ。
「――古より闇から生まれ、光を染める邪なる剣よ――!」
そこで、枢機卿長が「な――!」と言葉を失うのが見えた。その姿に口角を歪めながら、レッドは続ける。
「今こそその真の姿を現し、世界を喰らう絶望と成れ――!」
周りは何を言っているのか皆目分からず、ただ飲まれて聞き入っているだけであった。
しかし、枢機卿長は顔を真っ青にして、駆け出していった。
「き、貴様、なんでその呪文知ってる!?」
傍の取り巻きを突き飛ばして走り出した枢機卿長は、なんとかレッドの詠唱を止めようとしたのだろう。
だが、ここで走り寄ったのはむしろ失敗。
「!? う、うわっ!?」
彼の首元にネックレスとして掛けられていたアクセサリが、山吹色の神官服の中で暴れ出し、首元を離れ飛び出してしまったのだ。
そしてそのネックレス、正確にはその先端に付いていたアクセサリは、レッドの右手へと吸い込まれるようにやって来た。
「そ、そんな、馬鹿な……!」
呆然とする枢機卿長に、周りの連中も異常事態だと察して、レッドを捕らえようと走る。
が、彼はそんなものには構わず、右手に収まった黒いアクセサリに念を込める。
瞬間、そのアクセサリは形を変え、一本の剣となる。
刃先から持ち手まで、黒一色――いや、一切の光すら反射しない、闇に染まっていた。
枢機卿長を除いて殆どの人間が何事が起こっているか分からず困惑している中、レッドは顔をぐにゃりと歓喜で歪めさせると、漆黒の剣を深々と己の影に刺し、叫ぶ。
「我が名は『パンドラ』! 世界を覆う漆黒の闇なりっ!!」
レッドが叫んだと同時に、影が一瞬揺らいだかと思うと、影の中から勢いよく何かが次々と飛び出してきた。
飛び出した物体たちは、レッドの頭上まで飛ぶと空中で静止した。
その物体は、剣と同じく、漆黒に染まった金属の塊に思えた。しかし、それは思い違いであった。
「あれは――!」
アレンは、自分の目を疑った。無理もない。
何しろ、目の前で先ほどの自分と全く同じ現象が起きているのだ。
飛び出した金属たちは、一つ一つ違った形をしていた。
兜、手甲、籠手、胸当て――それは間違いなく、全身鎧のパーツたちだった。
その全身鎧のパーツたちを空中に浮かべながら、レッドは高らかに叫ぶ。
「鎧――着っ!!」
その声と共に、空中に浮かんでいたパーツたちが、信じられない速度で落下していく。凄まじい砂埃と共にレッドに激突した、かに思われた。
しかして、砂埃が消えた先にあったのは潰れたレッドの肉片ではなく、異形の怪人だった。
その姿は、アレンの鎧姿が天使なら、翼を広げた悪魔と言うべきである。
全身を黒一色に染め上げ、部分部分を凶獣のたてがみのように尖られた様は、防御のための鎧というより、それ自体が相手を傷つけ痛めつけるための残虐性を持ち合わせていた。
禍々しいだの荒々しいだのという表現がふさわしい狂気の鎧は、悪魔以外の表現方法を人々に与えさせることは無い。
そう、それはアレンの鎧を白き鎧と言うのであれば、
まさに黒き鎧と言うべき、悪魔の姿をした魔剣と鎧だったのだ。
「――レッド・H・カーティス」
アレンは、掴んだその手でレッドを持ち上げると、またしてもどこかで聞いたような口上を述べだした。
「貴方を許すわけにはいかない。亜人として、この世界に生きる一人の人間として。
――勇者として」
「ぐ、あ……っ」
宙ぶらりんになった体でなんとか抵抗しようと足をばたつかせるが、どうにかなるものではない。無意味な抵抗として周囲に笑いを提供しているだけだった。
その時、左手が強く発光する。まるで、夜闇を終わらせる朝焼けのように。
「――終わりだ、レッド」
「!!」
アレンの最後を告げる言葉が終わった瞬間、
白き鎧の左手は眩い爆発を起こし、レッドの体を吹き飛ばした。
「ぎゃあああああああああああぁぁっ!!」
吹き飛ばされ、その後地面に叩きつけられたレッドは、絶叫し激痛に悶えるように転がり続ける。掴んだ左手から生じた光は、爆発として彼の顔を焼いたのだ。
「づぅ、あ、あ……」
顔を焼かれた痛み苦悶の声を上げながら、なんとか開けた右目に、ある物が写った。
それは、近衛騎士団の鎧の胸当てだった。恐らく倒された兵のものだろうが、表面は近衛騎士団特有の銀色に光り照っていた。まるで、鏡のように。
「ぐぅ、づあっ……」
ふと、レッドはその胸当ての下へ這いずるように移動した。
気になったのだ。今の自分がどのような姿をしているかが。
そして、胸当てまで辿り着くことが出来た。幸いにも、その銀色の胸当ては十分すぎるほど鏡としての役目を果たせた。
つまり、今のレッドの顔をきちんと偽りなく見せることが出来たということである。
「――っ!!」
レッドは言葉を失う。
何の具合が良かったか、顔の前で光が爆ぜたにもかかわらず、顔の右半分は無事であった。少し汚れているくらいで焦げも無い。
けれども、もう半分の左側は酷い有様だった。
左半分は、ほとんど焼け爛れていた。左目も完全に潰れているらしく、目を開けることすらできない。金髪碧眼の美形として名を馳せた彼の顔は、もはや半分も失われてしまったのだ。
「なんで……なんで……」
しかしながら、レッドが言葉を失ったのには、顔の半分が焼け爛れたこと自体ではなかった。
この顔に、覚えがあったからだ。
今でも鮮明に覚えている、前回の記憶。
牢獄から脱走したその足で別邸に向かい、家族に見放され使用人たちに嬲り殺しにされ、しまいには煮えたぎった油をかけられ火達磨にされた。
その時、レッドの顔は左半分が焼け爛れ、左目が潰れてしまったのだ。
「どうして……どうして……!」
絶望しながら、レッドは繰り返す。
自分は変わろうとした。愚かで、無能で傲慢だった自分から。
自分は変わったと思った。他者を傷つけ、苦しめるしか能が無かった頃とは違うと。
自分は変えたかった。未来を、前回のような最後を迎えないように。
しかし、しかして、その結果が今、ここにある。多少の差異はあるとしても、
前回と変わらず誰からも見放され、傷つき破滅した自分が今、ここにいる。
――なんで……ここだけ変わらない……っ!!
レッドの内心には、もはや絶望しかなかった。もはや這いずる気力すらなく、その場にうつ伏せに倒れてしまう。
全てに失敗し、破滅の最後を迎えたことを悟った彼は、もはや何もかも無意味と気付き、そのまま意識を手放そうとした。
が、それは途中で阻まれてしまう。
「――ご苦労様でした。作戦に参加して頂いた全ての方々へ、感謝申し上げます」
消えかけた意識が、突然現れた声にパっと覚醒する。
残された僅かな力で声の方へ振り向くと、そこには思った通りの輩がいた。
「――我々も、非常に心苦しい限りです。まさか教会の中に金で信仰を捨てた裏切り者がいたとは、大変に、悲しい事です。
ですが、幸いなことに、神は我々を見捨てなかった。新たに選ばれし、いいえ、本当に選ばれし勇者を我々に示してくれていた。――アレン・ヴァルドよ」
「は、はいっ!」
呼ばれたアレンは、白き鎧姿のまま畏まる。勇者パーティが初めて揃った、あの儀礼の場の時を思い出す。
「その白き鎧こそが、真に聖剣に選ばれし者の証。その鎧を纏える者こそが、世界を救う真の勇者なのです。
その白き鎧は貴方の、いえ世界の為にある力。その正しき力を以て、世界を貴方が変えるのです。教皇猊下に代わって激励の言葉を贈りましょう。頼みましたよ」
「~~はいっ、枢機卿長様、わかりましたっ! 故郷のみんなのため――いいえ、この世界の人たち全てのため頑張りますっ!!」
感極まったらしく、力強く応じるアレン。
その相手は、ラルヴァ教の神官服、それも山吹色に染められたものを着た、目のところを布で覆うエルフだった。
――ゲイリー・ライトニング……っ!!
その顔を、憎悪を込めて睨みつける。
すると、その視線に気づいたのか、枢機卿長はレッドの方へ顔を動かした。
「…………」
「――っ!!」
一瞬、ほんの一瞬、こちらの無残な有様を視界に納めた枢機卿長は、
誰にも、レッド以外気付かないくらい、僅かに口元を緩ませた。
やはり――とレッドは確信する。
この男が、ゲイリー・ライトニング枢機卿長が、アレンに吹き込んだのだ。
レッドが偽勇者だと、アレンこそが真の勇者だと、唆したのだ。
奴こそが、この茶番劇の主催者だったのだ。
今すぐにでもその喉元に喰らいつき、引き千切ってやりたいくらいの憎悪がレッドに沸きあがった。
だが、もはや指一つ動くことができないレッドには、ただ枢機卿長を睨みつける事しか出来ない。
いや、出来ないはずだった。
――え?
その時、レッドは気付いた。
気付く筈の無いことに、気付いた。
枢機卿長の、その山吹色の神官服の更に下。
彼の服の中に、ひっそりと隠されているはずのものに。
輪の中に黒い剣をはめ込んだ形のアクセサリが、首飾りとして付いているのが見えたのだ。
「……はは、ははははは、ははははははははは……っ」
その場に、地の底から響くような暗く澱んだ笑い声が木霊する。
誰もがギョッとした。先ほど勇者の一撃で倒れ無様な姿を晒しているはずの罪人が、突如笑いだしたのだから当然だ。
そのままレッドは、もはや指先一つ動かせなかったはずの体を、ゆっくりと起き上がらせる。まるで死者が生き返ったような様に、皆が驚きを隠せない。
「――まさか、貴様に感謝する日が来るとはな、ゲイリー・ライトニング……」
いきなり呼ばれた枢機卿長は、意味が分からなかったろう。怪訝な表情を浮かべてしまう。
そんな彼を意に介さず、レッドは先ほどマータに切られた首元に手をやり血を拭うと、その血をポタポタと地面にある自らの影に注いだ。
そして、笑い声と同じく地の底から響くような声で、ゆっくりと紡ぐ。
「――古より闇から生まれ、光を染める邪なる剣よ――!」
そこで、枢機卿長が「な――!」と言葉を失うのが見えた。その姿に口角を歪めながら、レッドは続ける。
「今こそその真の姿を現し、世界を喰らう絶望と成れ――!」
周りは何を言っているのか皆目分からず、ただ飲まれて聞き入っているだけであった。
しかし、枢機卿長は顔を真っ青にして、駆け出していった。
「き、貴様、なんでその呪文知ってる!?」
傍の取り巻きを突き飛ばして走り出した枢機卿長は、なんとかレッドの詠唱を止めようとしたのだろう。
だが、ここで走り寄ったのはむしろ失敗。
「!? う、うわっ!?」
彼の首元にネックレスとして掛けられていたアクセサリが、山吹色の神官服の中で暴れ出し、首元を離れ飛び出してしまったのだ。
そしてそのネックレス、正確にはその先端に付いていたアクセサリは、レッドの右手へと吸い込まれるようにやって来た。
「そ、そんな、馬鹿な……!」
呆然とする枢機卿長に、周りの連中も異常事態だと察して、レッドを捕らえようと走る。
が、彼はそんなものには構わず、右手に収まった黒いアクセサリに念を込める。
瞬間、そのアクセサリは形を変え、一本の剣となる。
刃先から持ち手まで、黒一色――いや、一切の光すら反射しない、闇に染まっていた。
枢機卿長を除いて殆どの人間が何事が起こっているか分からず困惑している中、レッドは顔をぐにゃりと歓喜で歪めさせると、漆黒の剣を深々と己の影に刺し、叫ぶ。
「我が名は『パンドラ』! 世界を覆う漆黒の闇なりっ!!」
レッドが叫んだと同時に、影が一瞬揺らいだかと思うと、影の中から勢いよく何かが次々と飛び出してきた。
飛び出した物体たちは、レッドの頭上まで飛ぶと空中で静止した。
その物体は、剣と同じく、漆黒に染まった金属の塊に思えた。しかし、それは思い違いであった。
「あれは――!」
アレンは、自分の目を疑った。無理もない。
何しろ、目の前で先ほどの自分と全く同じ現象が起きているのだ。
飛び出した金属たちは、一つ一つ違った形をしていた。
兜、手甲、籠手、胸当て――それは間違いなく、全身鎧のパーツたちだった。
その全身鎧のパーツたちを空中に浮かべながら、レッドは高らかに叫ぶ。
「鎧――着っ!!」
その声と共に、空中に浮かんでいたパーツたちが、信じられない速度で落下していく。凄まじい砂埃と共にレッドに激突した、かに思われた。
しかして、砂埃が消えた先にあったのは潰れたレッドの肉片ではなく、異形の怪人だった。
その姿は、アレンの鎧姿が天使なら、翼を広げた悪魔と言うべきである。
全身を黒一色に染め上げ、部分部分を凶獣のたてがみのように尖られた様は、防御のための鎧というより、それ自体が相手を傷つけ痛めつけるための残虐性を持ち合わせていた。
禍々しいだの荒々しいだのという表現がふさわしい狂気の鎧は、悪魔以外の表現方法を人々に与えさせることは無い。
そう、それはアレンの鎧を白き鎧と言うのであれば、
まさに黒き鎧と言うべき、悪魔の姿をした魔剣と鎧だったのだ。
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