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転生勇者と魔剣編
第六十三話 与えられし剣(3)
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「がっ……はっ……!」
予想だにしない方角からの強烈な衝撃に、思わず意識が途切れそうになってしまう。タックルされたらしいのは分かったが、何者がそれをしたのかは不明なまま飛ばされた。
地面に何度か打ち付けられ転がされた後、なんとか起き上がり自分にぶつかってきた相手を見やる。
「…………」
「ろ、ロイ?」
今さっきまで一緒に戦っていたはずなのに、随分顔を合わせていない気がする。そんな風に、レッドは同じパーティの仲間を見てしまう。
そして、そんな仲間であるはずの男の顔も、今まで見たことも無いような顔だった。
「…………」
真っ赤に染まった顔中に青筋を走らせ、目も怒りの炎で燃えている。奴の体から、熱気が溢れ出しているように錯覚してしまう。
怒り狂っていたレッドが、思わず押されてしまうほどの気迫を込めて、目の前の元仲間に憎悪を滾らせていた。
「ロイ、お前……!」
「レッド……貴様あぁっ!!」
背中に抱えていたアックスを手に取り、ロイが激走してきた。巨体に似合わぬ速さと力強さに、一瞬飲まれて対応が遅れてしまう。
「っしまっ……!」
「だああああああああああっ!!」
やむを得ず、大型アックスのひと振りを、正面から受け止める形となった。
しかし、これがまずかった。
ガキィン、という轟音が場に響き渡る。
「ぐっ……あっ……!」
両手でなんとか防いだものの、腕から強烈過ぎる衝撃が流れてレッドに激痛を与えた。
――重っ……!!
当たり前ではある。白き鎧の時はともかく、小柄な体格のアレンと違い、レッドよりずっと大柄の筋肉ダルマ、しかも得物も聖剣よりずっと重い大型アックス。正面から受け止めて、まだ体が残っている方がマシなくらいである。
だが、それだけではない。単なる得物の差で、レッドが膝をつきかけたわけではない。
単なる、腕の差である。
ただの力押しではなく、その力をアックスに乗せ、その重量を寸分の無駄も無く渾身の一撃として打ち込む。この腕があるからこそ、副団長にもなれたのだろうと改めて感じることが出来た。
しかし、感心してもいられない。何とかアックスから抜けねば潰れて死んでしまう。今にも押し負けそうな腕を必死に止めながら、ロイに向かって叫ぶ。
「おい……ロイっ! お前まであんな与太信じてるのか!? 何言われたか知らんが、おかしいとは思わないのかよ! お前は利用されてるだけなんだよ、あいつに……!」
「黙れぇっ!!」
レッドの説得は、ロイの怒声に消え去ってしまう。憤怒の感情に支配されたロイは、何の言葉も聞いていなかった。
「よくも……よくも騙してくれたな、裏切り者があぁっ!!」
そうだこいつは馬鹿だった、と臍を嚙む。聞かされた内容を鵜呑みにして、考えちゃいないようだと、少し呆れてしまう。
なんとか説得したいが、ここまで頭に血が上っては黙って話を聞いたりしまい。仕方がない、とやり方を変えることにした。
「――しゃーないな」
と呟くと、ロイのアックスを止めていた巨大剣を、支えていた左手を離した。
必然、巨大剣は斜めに傾く形となる。
「なっ……!」
全力で押し込まれていたアックスは、その傾きに応じて巨大剣の刀身を流れるように滑ってしまう。当然、力任せに押し込んでいたロイの方もバランスを崩した。
結果、ロイはアックの刃を地面に突き刺してしまった。
「うりゃあっ!!」
呆気にとられたロイの顔面に、巨大剣を打ち込む。ただし剣の腹で殴るだけだったが。
「ぐおっ!?」
殴られたロイは鼻から血を出して、そのまま後方へぶっ倒れる。あの筋肉ダルマのことだからこの程度で大した怪我にもならないだろうから、殴った勢いのまま走って距離を取る。
しかし、そこでレッド自身足をもつれさせ転びそうになる。
「――っ! ちぃっ!」
なんとか両足に活を入れ転倒自体は防いだが、そんな安心などは出来なかった。
先ほどと同様の現象に、レッドは自らの身に何が起きているか理解したからだ。
――限界か。
巨大剣を握っている手は痺れて上手く握れず、足もふらついている。心臓の鼓動も呼吸も、乱れっぱなしだ。
考えてみればごくごく普通の事である。今夜はベヒモス封印、そしてスケイプとの一騎打ち、おまけに白き鎧を纏ったアレンとの連戦。聖剣の回復も使えない今、ここまで体が持っていた方が不思議なくらいで、正直いつ倒れてもおかしくないだろう。
周囲を見ると、先ほどまでは遠目で観戦するだけだった近衛兵たちが集まってきた。こちらを拘束する気か、あるいはなかなか仕留められない勇者アレンに業を煮やしたか。どちらか知らないが、少なくとも逃がしてくれそうには無かった。
「――だが、負けられるか!」
残り猶予は無い、そう判断したレッドは、アレンに向かい巨大剣を突き出したまま襲い掛かった。
「おおおおおおおぉっ!!」
「な、なにっ!?」
勝てない、逃げられない。
ならばせめて、こいつに一発キツいのを喰らわせてやる。そんな、一種のヤケクソ気味の発想で狙いを定めた。
まさか、自分の方に向かってくるとは思わなかったのだろう。一瞬判断が遅れたアレンは、慌てて迎撃の構えを取ろうとするが、そんな隙を与えず突き刺してやろうと、レッドは残る力をふり絞って駆ける。
そしてその刃が、白き鎧の胸部に突き刺さろうとした、その時、
「――ごめんなさいね」
という声を発して、影が二人の間に割って入った。
「――っ!?」
まさかそんな瞬間に飛びこまれると思っていなかったレッドは、驚きのあまり反応が鈍ってしまった。
その影は、アレンの胸に巨大剣が襲う数刻前に、レッドの首目掛けてナイフを振り抜いた。
「くっ……!」
なんとか首を逸らして避けたが、完全には躱せず首を少し切られてしまう。鋭い痛みがレッドに走る。
「づぅ……!」
そのせいで、アレンへの突きの力が削がれてしまい、結果左腕に付けられた白き鎧の盾で防がれた。弾かれたレッドは、バックステップで一旦離れる。
そして、突然割り込んだ赤毛の影は、いつものように悪戯っぽい笑みでこちらを笑いかける。
「あらあら、そんなフラフラで避けられちゃった。あたしの腕も鈍ったものね」
「――マータ」
左手で首の傷跡を押さえながら、レッドは彼女を睨みつける。ついほんの少し前までの仲間を切ったというのに、彼女は例の如く軽かった。
「……ま、もう終わりだけどね」
「なに……? 貴様、何を……!?」
彼女のからかうような笑いに眉をひそめた瞬間、レッドの視界がぐらりと揺れる。
その上、手足の言うことがさらに効かなくなり、プルプルと震えて呼吸も難しくなってしまった。
――毒か!!
レッドは自分の失態を悟った。
マータはあれでも、毒物に関してはスペシャリストである。先ほど首筋を切ったナイフに、毒物が塗られていたのだろう。致死性の猛毒ではないようだが、こちらの動きを止める痺れ薬程度の効果はあるらしい。
「く、くそっ……!」
悪態をつきつつなんとか動こうとするが、視界がぐらつきちゃんと立つことすら難しい。こんな自分をニヤつきながら見ている目の前の女を呪いたくなった。
しかし、その瞬間地面からいくつもの縄が飛び出して、レッドの体に絡みついた。
「な、なに!?」
よく見るとそれは縄ではなく、木の蔓だった。
プラントウィップ。木の蔓を操り相手を拘束する魔術。かつてミノタウロスとの戦いでレッドはそれを見た。
そして、その魔術を使ったのが誰であるかもちゃんと覚えていた。
完全に体が縛り付けられてしまい、唯一まともに動かせる首と目を辺りに彷徨わせると、その犯人がいた。
ラヴォワが、地面に杖を突き刺してプラントウィップを発動させていたのだ。
「ラヴォワ……テメエもかっ!」
「レッド……大人しく捕まって!」
ラヴォワは叫ぶが、揺らいだ視界では表情までは読めない。しかし、またしてもの裏切りにレッドは怒りに震えた。
「――終わりですよ。レッド様」
そこに、今更ながらレッド様などと呼んでくるアレンが、白き鎧を身に着けたまま寄ってくる。動けないレッドを今度こそ捕縛するつもりだろう。ゆっくりと余裕そうに歩いてくる姿が、非常に腹立たしかった。
「素直に従ってください。罪を認め、反省するというのであれば、寛大な処置もあり得るでしょう」
「……はっ」
鼻で笑ってやる。そんな甘ったるいばかりの甘言を鵜呑みにするとは、お花畑にも程があると言ってやりたかった。
そんなレッドの、この期に及んでまだ反抗的な態度を取るのが許せなかったらしく、アレンは聖剣を手にし、彼にとっての最後通告を出した。
「――もう、終わりにしましょう」
そのセリフに、レッドはまた既視感を覚えた。
どこかで聞いたような、どこかで言われたような、そんな頭の隅に引っかかるような感覚を抱いた。
そんなレッドの心境に気付くことは無く、アレンはレッドに対して聖剣を高く振り上げる。
「ここで終わらせるんです。それが、かつて仲間だった――勇者だった貴方に対する、それが僕の出来る唯一の敬意です――!」
「――!!」
思い出した。
この台詞。この言葉。
多少の差異はあれど、覚えている。
この言葉は――
かつて、前回の時に、アレンが怪物化したレッドを殺した時の台詞だった。
「――笑わせるな」
今まさに聖剣がレッドを斬り裂こうとした時、レッドはそう呟いた。
その時、レッドから少しずつ漏れだしていた黒い靄が、一気に爆ぜるように噴出した。
「なっ……!?」
アレンは驚愕し、思わず飛びずさってしまった。
「こんな、こんなところで――死ねるかあぁっ!!」
レッドの絶叫と共に黒い靄は周囲を埋めるほどに溢れ出し、その力が動けなかったレッドの体から自由を取り戻させ、巨大剣で自らを縛っていた蔓を斬り裂いてしまう。
「そんな……っ!?」
ラヴォワの驚きなど、気にする余裕はない。周囲の蔓を全部一薙ぎで払うと、そのまま白き鎧へ駆ける。
「あああああああああああっ!!」
黒い靄の力をふり絞って、アレン目掛けて巨大剣を振り下ろす。肩口から、袈裟懸けに下ろされた剣は、
バキッ、という鈍い音を鳴らして、中心辺りから折れてしまう。
「え――?」
呆気にとられたその瞬間、レッドの顔は飛び出してきた左手に鷲掴みにされる。
予想だにしない方角からの強烈な衝撃に、思わず意識が途切れそうになってしまう。タックルされたらしいのは分かったが、何者がそれをしたのかは不明なまま飛ばされた。
地面に何度か打ち付けられ転がされた後、なんとか起き上がり自分にぶつかってきた相手を見やる。
「…………」
「ろ、ロイ?」
今さっきまで一緒に戦っていたはずなのに、随分顔を合わせていない気がする。そんな風に、レッドは同じパーティの仲間を見てしまう。
そして、そんな仲間であるはずの男の顔も、今まで見たことも無いような顔だった。
「…………」
真っ赤に染まった顔中に青筋を走らせ、目も怒りの炎で燃えている。奴の体から、熱気が溢れ出しているように錯覚してしまう。
怒り狂っていたレッドが、思わず押されてしまうほどの気迫を込めて、目の前の元仲間に憎悪を滾らせていた。
「ロイ、お前……!」
「レッド……貴様あぁっ!!」
背中に抱えていたアックスを手に取り、ロイが激走してきた。巨体に似合わぬ速さと力強さに、一瞬飲まれて対応が遅れてしまう。
「っしまっ……!」
「だああああああああああっ!!」
やむを得ず、大型アックスのひと振りを、正面から受け止める形となった。
しかし、これがまずかった。
ガキィン、という轟音が場に響き渡る。
「ぐっ……あっ……!」
両手でなんとか防いだものの、腕から強烈過ぎる衝撃が流れてレッドに激痛を与えた。
――重っ……!!
当たり前ではある。白き鎧の時はともかく、小柄な体格のアレンと違い、レッドよりずっと大柄の筋肉ダルマ、しかも得物も聖剣よりずっと重い大型アックス。正面から受け止めて、まだ体が残っている方がマシなくらいである。
だが、それだけではない。単なる得物の差で、レッドが膝をつきかけたわけではない。
単なる、腕の差である。
ただの力押しではなく、その力をアックスに乗せ、その重量を寸分の無駄も無く渾身の一撃として打ち込む。この腕があるからこそ、副団長にもなれたのだろうと改めて感じることが出来た。
しかし、感心してもいられない。何とかアックスから抜けねば潰れて死んでしまう。今にも押し負けそうな腕を必死に止めながら、ロイに向かって叫ぶ。
「おい……ロイっ! お前まであんな与太信じてるのか!? 何言われたか知らんが、おかしいとは思わないのかよ! お前は利用されてるだけなんだよ、あいつに……!」
「黙れぇっ!!」
レッドの説得は、ロイの怒声に消え去ってしまう。憤怒の感情に支配されたロイは、何の言葉も聞いていなかった。
「よくも……よくも騙してくれたな、裏切り者があぁっ!!」
そうだこいつは馬鹿だった、と臍を嚙む。聞かされた内容を鵜呑みにして、考えちゃいないようだと、少し呆れてしまう。
なんとか説得したいが、ここまで頭に血が上っては黙って話を聞いたりしまい。仕方がない、とやり方を変えることにした。
「――しゃーないな」
と呟くと、ロイのアックスを止めていた巨大剣を、支えていた左手を離した。
必然、巨大剣は斜めに傾く形となる。
「なっ……!」
全力で押し込まれていたアックスは、その傾きに応じて巨大剣の刀身を流れるように滑ってしまう。当然、力任せに押し込んでいたロイの方もバランスを崩した。
結果、ロイはアックの刃を地面に突き刺してしまった。
「うりゃあっ!!」
呆気にとられたロイの顔面に、巨大剣を打ち込む。ただし剣の腹で殴るだけだったが。
「ぐおっ!?」
殴られたロイは鼻から血を出して、そのまま後方へぶっ倒れる。あの筋肉ダルマのことだからこの程度で大した怪我にもならないだろうから、殴った勢いのまま走って距離を取る。
しかし、そこでレッド自身足をもつれさせ転びそうになる。
「――っ! ちぃっ!」
なんとか両足に活を入れ転倒自体は防いだが、そんな安心などは出来なかった。
先ほどと同様の現象に、レッドは自らの身に何が起きているか理解したからだ。
――限界か。
巨大剣を握っている手は痺れて上手く握れず、足もふらついている。心臓の鼓動も呼吸も、乱れっぱなしだ。
考えてみればごくごく普通の事である。今夜はベヒモス封印、そしてスケイプとの一騎打ち、おまけに白き鎧を纏ったアレンとの連戦。聖剣の回復も使えない今、ここまで体が持っていた方が不思議なくらいで、正直いつ倒れてもおかしくないだろう。
周囲を見ると、先ほどまでは遠目で観戦するだけだった近衛兵たちが集まってきた。こちらを拘束する気か、あるいはなかなか仕留められない勇者アレンに業を煮やしたか。どちらか知らないが、少なくとも逃がしてくれそうには無かった。
「――だが、負けられるか!」
残り猶予は無い、そう判断したレッドは、アレンに向かい巨大剣を突き出したまま襲い掛かった。
「おおおおおおおぉっ!!」
「な、なにっ!?」
勝てない、逃げられない。
ならばせめて、こいつに一発キツいのを喰らわせてやる。そんな、一種のヤケクソ気味の発想で狙いを定めた。
まさか、自分の方に向かってくるとは思わなかったのだろう。一瞬判断が遅れたアレンは、慌てて迎撃の構えを取ろうとするが、そんな隙を与えず突き刺してやろうと、レッドは残る力をふり絞って駆ける。
そしてその刃が、白き鎧の胸部に突き刺さろうとした、その時、
「――ごめんなさいね」
という声を発して、影が二人の間に割って入った。
「――っ!?」
まさかそんな瞬間に飛びこまれると思っていなかったレッドは、驚きのあまり反応が鈍ってしまった。
その影は、アレンの胸に巨大剣が襲う数刻前に、レッドの首目掛けてナイフを振り抜いた。
「くっ……!」
なんとか首を逸らして避けたが、完全には躱せず首を少し切られてしまう。鋭い痛みがレッドに走る。
「づぅ……!」
そのせいで、アレンへの突きの力が削がれてしまい、結果左腕に付けられた白き鎧の盾で防がれた。弾かれたレッドは、バックステップで一旦離れる。
そして、突然割り込んだ赤毛の影は、いつものように悪戯っぽい笑みでこちらを笑いかける。
「あらあら、そんなフラフラで避けられちゃった。あたしの腕も鈍ったものね」
「――マータ」
左手で首の傷跡を押さえながら、レッドは彼女を睨みつける。ついほんの少し前までの仲間を切ったというのに、彼女は例の如く軽かった。
「……ま、もう終わりだけどね」
「なに……? 貴様、何を……!?」
彼女のからかうような笑いに眉をひそめた瞬間、レッドの視界がぐらりと揺れる。
その上、手足の言うことがさらに効かなくなり、プルプルと震えて呼吸も難しくなってしまった。
――毒か!!
レッドは自分の失態を悟った。
マータはあれでも、毒物に関してはスペシャリストである。先ほど首筋を切ったナイフに、毒物が塗られていたのだろう。致死性の猛毒ではないようだが、こちらの動きを止める痺れ薬程度の効果はあるらしい。
「く、くそっ……!」
悪態をつきつつなんとか動こうとするが、視界がぐらつきちゃんと立つことすら難しい。こんな自分をニヤつきながら見ている目の前の女を呪いたくなった。
しかし、その瞬間地面からいくつもの縄が飛び出して、レッドの体に絡みついた。
「な、なに!?」
よく見るとそれは縄ではなく、木の蔓だった。
プラントウィップ。木の蔓を操り相手を拘束する魔術。かつてミノタウロスとの戦いでレッドはそれを見た。
そして、その魔術を使ったのが誰であるかもちゃんと覚えていた。
完全に体が縛り付けられてしまい、唯一まともに動かせる首と目を辺りに彷徨わせると、その犯人がいた。
ラヴォワが、地面に杖を突き刺してプラントウィップを発動させていたのだ。
「ラヴォワ……テメエもかっ!」
「レッド……大人しく捕まって!」
ラヴォワは叫ぶが、揺らいだ視界では表情までは読めない。しかし、またしてもの裏切りにレッドは怒りに震えた。
「――終わりですよ。レッド様」
そこに、今更ながらレッド様などと呼んでくるアレンが、白き鎧を身に着けたまま寄ってくる。動けないレッドを今度こそ捕縛するつもりだろう。ゆっくりと余裕そうに歩いてくる姿が、非常に腹立たしかった。
「素直に従ってください。罪を認め、反省するというのであれば、寛大な処置もあり得るでしょう」
「……はっ」
鼻で笑ってやる。そんな甘ったるいばかりの甘言を鵜呑みにするとは、お花畑にも程があると言ってやりたかった。
そんなレッドの、この期に及んでまだ反抗的な態度を取るのが許せなかったらしく、アレンは聖剣を手にし、彼にとっての最後通告を出した。
「――もう、終わりにしましょう」
そのセリフに、レッドはまた既視感を覚えた。
どこかで聞いたような、どこかで言われたような、そんな頭の隅に引っかかるような感覚を抱いた。
そんなレッドの心境に気付くことは無く、アレンはレッドに対して聖剣を高く振り上げる。
「ここで終わらせるんです。それが、かつて仲間だった――勇者だった貴方に対する、それが僕の出来る唯一の敬意です――!」
「――!!」
思い出した。
この台詞。この言葉。
多少の差異はあれど、覚えている。
この言葉は――
かつて、前回の時に、アレンが怪物化したレッドを殺した時の台詞だった。
「――笑わせるな」
今まさに聖剣がレッドを斬り裂こうとした時、レッドはそう呟いた。
その時、レッドから少しずつ漏れだしていた黒い靄が、一気に爆ぜるように噴出した。
「なっ……!?」
アレンは驚愕し、思わず飛びずさってしまった。
「こんな、こんなところで――死ねるかあぁっ!!」
レッドの絶叫と共に黒い靄は周囲を埋めるほどに溢れ出し、その力が動けなかったレッドの体から自由を取り戻させ、巨大剣で自らを縛っていた蔓を斬り裂いてしまう。
「そんな……っ!?」
ラヴォワの驚きなど、気にする余裕はない。周囲の蔓を全部一薙ぎで払うと、そのまま白き鎧へ駆ける。
「あああああああああああっ!!」
黒い靄の力をふり絞って、アレン目掛けて巨大剣を振り下ろす。肩口から、袈裟懸けに下ろされた剣は、
バキッ、という鈍い音を鳴らして、中心辺りから折れてしまう。
「え――?」
呆気にとられたその瞬間、レッドの顔は飛び出してきた左手に鷲掴みにされる。
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