48 / 123
転生勇者と魔剣編
第四十三話 綻び(1)
しおりを挟む
ミノタウロス討伐及びアトラスの杭回収任務は、予定通り二日後に行われた。
予定通り、アレンを呼び戻し、勇者パーティは充分に準備と静養を行い出発した。
移動は予定通り、最寄りの停泊地までワイバーンで向かい、後は鉱山まで山道を歩くというコースになっていた。
そうして今は山道を歩いていた。現在のところトラブルやアクシデントは一切なく、予定通りに運んでいた。
そう、全てが予定通りに滞りなく進んでいた。
たった一つを除いてだが。
「――ちょっと、レッド」
「――何だよ」
行進中、マータに小声で話しかけられたレッドは、内容が想像ついて嫌になりながらも、同じく小声で応じた。
「なんであいつら付いて来てるのよ。聞いてないんだけどあたし」
「……奇遇だな、俺もだ」
チラと後ろの方を見やる。
そこには、勇者パーティの他に五人ほど、鎧姿の男たちがいた。
全員がロイと同じ――そう、近衛騎士団の鎧を着ていた。
そして、その一番前に陣取っているのは、スケイプ・G・クリティアス。
そう。今回のミノタウロス討伐任務には、何故か彼ら近衛騎士団が同行していた。
「――だいぶ無理言って、同行を許可させたらしい。俺だって出発の朝聞かされた時は仰天したよ。近衛騎士団の団長も悪いけど頼むって言ってたけどさ」
さあ出発だとワイバーンの停泊地に向かった、レッドたちの前にスケイプたちがいた時は、開いた口が塞がらなかったものだ。同行させろなんて言った時は耳を疑った。同じくこちらを待っていた団長であるガーズから、事情を耳打ちされて仕方なく了承したのだった。
「んなこと言っても、あんな奴ら連れてきたら迷惑よ。入り口のところで待機してもらったら?」
「――それであいつらが納得するとは思えないけどね」
マータの懸念も充分理解できる。
ただでさえ上級の魔物相手。しかも場所は鉱山という狭く閉じられた穴の中。
そんな奴相手に、そんな逃げ場も無く身動きが取り辛い場所で、連携どころか実力も分からない奴らと一緒に戦うなど無謀どころか愚行だった。足を引っ張るだけでなく、最悪無駄な横槍のせいでパーティを全滅させかけない。そんな懸念もあった。
レッドとしても無論送り返したかったものの、彼らを戒める立場である団長自身から頼まれれば断りようが無かった。
「――ま、今回は回収任務もあるし、荷物持ちとして使えばいいんじゃないの? 団長さんもそう言ってたよ」
「そりゃ、そうだけどね……」
マータもそう答えた。
そう、今回も任務は単なる魔物討伐ではなく、魔道具アトラスの杭の回収も含まれていた。
このアトラスの杭は三メートル以上ある高さだけでなく、かなり重たい代物だそうで、一人や二人で運べるレベルではないという。
ラヴォワの魔術で浮かせるかアイテムボックスに入れるかというアイディアも考えられたが、ラヴォワ曰くアトラスの杭のように魔力を阻害させる効果を持つ魔道具は、魔術が効きづらかったりアイテムボックスに入らないことがあるという。
どうしたものかと頭を悩ませていたところ、来たのがアレンとその取り巻き――ではなく、近衛騎士団の方々だった。
「しょうがないから、戦闘では邪魔にならない――いや、なるべく安全な場所にかくまう形で下がらせるようにしよう。出張ってきたら……ロイに押さえつけてもらうか」
結局、そんな結論しか出せなかった。机上の空論と分かっていたものの、追い出せない以上そうするしかない。
「あーやだやだ。ったく、迷惑なお坊ちゃんよねえ。近衛騎士団なんか入ってダラダラして、あげく目立ちたいからってこんなとこまで押し入ってきて。遊びたいなら場所選んで欲しいわ」
「……そうだな」
マータの愚痴に、レッドは一瞬癇に障る物があったが、口出しせずそのままにしていた。
――昔はあんな奴じゃなかったんだけどな。
プライドが高く身分差別が激しい部分はあったが、周囲を見返してやりたいという気持ちで剣に励んでいたのは本物だった。
しかし、そんな彼の希望も夢も、そしてプライドもレッドが無残にも砕いてしまった。
では、今の彼に残されている物はなんなのだろう?
――どうして、近衛騎士団なんか入ったんだ――?
そう考える事も増えてきていた。
あの一件から騎士の夢も剣も捨てるというのなら、理解できる。剣の腕なんか上がっても意味が無いと悟ってしまうのは当然と思う。
だが彼は、コネを使い強引に近衛騎士団に入ってしまった。
遊び惚けているという話だから、本気で騎士として戦ったり国を守るだの民を守るだの考えてはおるまい。
では、どうして近衛騎士団に入団する必要があったのか?
そしてもう一つ。スケイプはどうして魔物使い(ビーストテイマー)の資格など取得したのか。
テイマーとはなろうとしてなれるものではない。生まれ持った才能が必要になる。
しかし逆に、才能があれば簡単になれるわけでもない。きちんとした教育と訓練を経て、ようやくなれるものなのだ。
レッドと交流があった頃は、そんなテイマーの資格の勉強などしている様子は無かった。あの一件の後から勉強したのだとすれば、わずか数か月で取得したことになる。相当な苦労と努力があったはずだ。
ひたむきに剣の道を歩んできた男だ、目的の為にあらゆる努力を惜しまない心はあるだろう。
だがどうして、それで目指すのがテイマーだったのか? そこが一切不明だった。
実はテイマーは、世間一般では大した資格ではないと言われている。
一番の理由は、そもそも才能でなれるなれないが決まるため絶対数が少なすぎるせいだが、他にも使役(テイム)出来る魔物には制限がある、というのも大きい。
テイマーといっても、あらゆる魔物を自在に使役できるわけではない。所詮魔力で操っているだけに過ぎないので、その魔力で縛れる以上の魔物には全く効かないのだ。そしてその操れる魔物の限度にも、個人差がある。低級のスライム程度しか使役できないテイマーなど珍しくも何ともない。これも使えないと言われる一因だ。
中級のグリフォンを使役出来るのだから、そんな無能ではないのだろうが、かと言って自慢するようなものかと言われればノーだ。テイマーが一度に使役可能な魔物の量も限度がある。流石に何十匹も扱えはしないだろうから、戦闘で役に立つとは思い難い。
自分を冷遇する世間の奴らを見返すのが目的のはずのスケイプが、そんな大して使えもしないテイマーなどという資格を手にしたのか? 皆目見当がつかなかった。
「――ま、これ以上考えても仕方ないか……」
「おや、こんな時に悩み事とはずいぶん余裕ですな勇者様は」
頭をポリポリ掻いていたら、不意にからかわれた。後ろを見ると、やはり相手はスケイプだった。
「……いえいえ、別に悩み事など無いですよ」
こんがらがっていた頭が、今度はふつふつと沸きあがってきた。こっちはテメエの事で悩んでいるのに、なんでその当人にからかわれなきゃいかんと言いたくなった。
「ほう、悩み事が無い? これは驚いた。勇者様の非常に気楽なようで」
「……だから、別に勇者様でなくて構わないと言っているでしょう第四王子様」
「ああ、そうでしたね。ではレッド様とでもしましょうか」
こちらとしては争っても仕方ないため早々と話を切りたいのに、向こうはまだ嘲笑の手を止めようとしない。自分の何が気に入らないかは知らないが、自分が何が気に入らないかはレッドにも分かった。その不遜な態度である。
行進の歩みを止め、本格的にケンカしようとスケイプに向き直る。
「それと、気楽ではないですねえ。世界中あちらこちらと回されて大変ですよ。どこの軍隊の方も苦労してますから助っ人に散々呼び出されまして……ああ、そんなお忙しい軍隊で、日がな遊び惚けている方もいるそうで。羨ましい限りですな」
「なんだと……!」
案の定怒り出した。プライドが高過ぎるのは分かるが、挑発に乗りやすいのはお前の馬鹿さの証だと言ってやりたかった。
「貴様、どの口で言っているんだ!」
「口の位置ぐらい見りゃわかるだろ、頭どころか目も悪いのかテメエは!」
とうとう怒りが頂点に達した二人は掴み合いになる。スケイプは取り巻きの近衛騎士団が、レッドはアレンが止めようとする。ちなみに他の勇者パーティたちはくだらないと思ったか我関せずを貫いている。
「止めてくださいって、落ち着いてレッド様――!」
「止めるなアレン、こいつは一発殴らないと終わるような奴じゃ……」
「待ってくださいっ!!」
抱きついていたアレンが一際大きな声を張り上げる。その叫びに、レッドもスケイプもビクッと固まった。
「――アレン?」
抱きついたままのアレンは、こちらを向いていなかった。
全身の毛を逆立て、先ほどまで進んでいた方角を見ている。つまり、目的地の鉱山がある方角だ。
「アレン、どうした?」
明らかに様子がおかしいアレンに聞いてみると、アレンは振り返らずにそのまま「……レッド様」と言ってきた。
「向こうから……血の匂いがします」
「っ!?」
皆が息を呑む。レッドたちには血の匂いなど全然感じないが、アレンは犬族特有の鼻で嗅ぎ取ったのだろう。
レッドが「ラヴォワ!」と指示を出すと、彼女は言われるまま索敵魔術を展開した。
彼女の周辺を覆うように青白い魔力の輝きが生まれ、それが輪になって周囲へ広がった。光の輪が皆の体をすり抜け、一瞬でいずこかへ消えてしまう。
消えてすぐ、ラヴォワの驚愕に目を見開いた。
「そんな……今まで何も感じなかったのに……」
「ラヴォワ、何処だ!?」
そう聞くと、ラヴォワは一つの方角へ指を伸ばした。
間違いなく、鉱山のある方だった。
「馬鹿な……あそこは今近衛騎士団で固めているんだぞ!?」
スケイプの言う通りだった。今鉱山は閉鎖されているが、ミノタウロスが出現した時などに備えて監視役の兵及び結界魔術を使える魔術師を配備していたはずだった。もしものことがあれば連絡が来る手筈となっている。
それが何の連絡もなく襲われているなどあり得ないことだった。
「おい、とにかく行くぞ!」
レッドに急かされ、全員が走って鉱山へ急行した。
予定通り、アレンを呼び戻し、勇者パーティは充分に準備と静養を行い出発した。
移動は予定通り、最寄りの停泊地までワイバーンで向かい、後は鉱山まで山道を歩くというコースになっていた。
そうして今は山道を歩いていた。現在のところトラブルやアクシデントは一切なく、予定通りに運んでいた。
そう、全てが予定通りに滞りなく進んでいた。
たった一つを除いてだが。
「――ちょっと、レッド」
「――何だよ」
行進中、マータに小声で話しかけられたレッドは、内容が想像ついて嫌になりながらも、同じく小声で応じた。
「なんであいつら付いて来てるのよ。聞いてないんだけどあたし」
「……奇遇だな、俺もだ」
チラと後ろの方を見やる。
そこには、勇者パーティの他に五人ほど、鎧姿の男たちがいた。
全員がロイと同じ――そう、近衛騎士団の鎧を着ていた。
そして、その一番前に陣取っているのは、スケイプ・G・クリティアス。
そう。今回のミノタウロス討伐任務には、何故か彼ら近衛騎士団が同行していた。
「――だいぶ無理言って、同行を許可させたらしい。俺だって出発の朝聞かされた時は仰天したよ。近衛騎士団の団長も悪いけど頼むって言ってたけどさ」
さあ出発だとワイバーンの停泊地に向かった、レッドたちの前にスケイプたちがいた時は、開いた口が塞がらなかったものだ。同行させろなんて言った時は耳を疑った。同じくこちらを待っていた団長であるガーズから、事情を耳打ちされて仕方なく了承したのだった。
「んなこと言っても、あんな奴ら連れてきたら迷惑よ。入り口のところで待機してもらったら?」
「――それであいつらが納得するとは思えないけどね」
マータの懸念も充分理解できる。
ただでさえ上級の魔物相手。しかも場所は鉱山という狭く閉じられた穴の中。
そんな奴相手に、そんな逃げ場も無く身動きが取り辛い場所で、連携どころか実力も分からない奴らと一緒に戦うなど無謀どころか愚行だった。足を引っ張るだけでなく、最悪無駄な横槍のせいでパーティを全滅させかけない。そんな懸念もあった。
レッドとしても無論送り返したかったものの、彼らを戒める立場である団長自身から頼まれれば断りようが無かった。
「――ま、今回は回収任務もあるし、荷物持ちとして使えばいいんじゃないの? 団長さんもそう言ってたよ」
「そりゃ、そうだけどね……」
マータもそう答えた。
そう、今回も任務は単なる魔物討伐ではなく、魔道具アトラスの杭の回収も含まれていた。
このアトラスの杭は三メートル以上ある高さだけでなく、かなり重たい代物だそうで、一人や二人で運べるレベルではないという。
ラヴォワの魔術で浮かせるかアイテムボックスに入れるかというアイディアも考えられたが、ラヴォワ曰くアトラスの杭のように魔力を阻害させる効果を持つ魔道具は、魔術が効きづらかったりアイテムボックスに入らないことがあるという。
どうしたものかと頭を悩ませていたところ、来たのがアレンとその取り巻き――ではなく、近衛騎士団の方々だった。
「しょうがないから、戦闘では邪魔にならない――いや、なるべく安全な場所にかくまう形で下がらせるようにしよう。出張ってきたら……ロイに押さえつけてもらうか」
結局、そんな結論しか出せなかった。机上の空論と分かっていたものの、追い出せない以上そうするしかない。
「あーやだやだ。ったく、迷惑なお坊ちゃんよねえ。近衛騎士団なんか入ってダラダラして、あげく目立ちたいからってこんなとこまで押し入ってきて。遊びたいなら場所選んで欲しいわ」
「……そうだな」
マータの愚痴に、レッドは一瞬癇に障る物があったが、口出しせずそのままにしていた。
――昔はあんな奴じゃなかったんだけどな。
プライドが高く身分差別が激しい部分はあったが、周囲を見返してやりたいという気持ちで剣に励んでいたのは本物だった。
しかし、そんな彼の希望も夢も、そしてプライドもレッドが無残にも砕いてしまった。
では、今の彼に残されている物はなんなのだろう?
――どうして、近衛騎士団なんか入ったんだ――?
そう考える事も増えてきていた。
あの一件から騎士の夢も剣も捨てるというのなら、理解できる。剣の腕なんか上がっても意味が無いと悟ってしまうのは当然と思う。
だが彼は、コネを使い強引に近衛騎士団に入ってしまった。
遊び惚けているという話だから、本気で騎士として戦ったり国を守るだの民を守るだの考えてはおるまい。
では、どうして近衛騎士団に入団する必要があったのか?
そしてもう一つ。スケイプはどうして魔物使い(ビーストテイマー)の資格など取得したのか。
テイマーとはなろうとしてなれるものではない。生まれ持った才能が必要になる。
しかし逆に、才能があれば簡単になれるわけでもない。きちんとした教育と訓練を経て、ようやくなれるものなのだ。
レッドと交流があった頃は、そんなテイマーの資格の勉強などしている様子は無かった。あの一件の後から勉強したのだとすれば、わずか数か月で取得したことになる。相当な苦労と努力があったはずだ。
ひたむきに剣の道を歩んできた男だ、目的の為にあらゆる努力を惜しまない心はあるだろう。
だがどうして、それで目指すのがテイマーだったのか? そこが一切不明だった。
実はテイマーは、世間一般では大した資格ではないと言われている。
一番の理由は、そもそも才能でなれるなれないが決まるため絶対数が少なすぎるせいだが、他にも使役(テイム)出来る魔物には制限がある、というのも大きい。
テイマーといっても、あらゆる魔物を自在に使役できるわけではない。所詮魔力で操っているだけに過ぎないので、その魔力で縛れる以上の魔物には全く効かないのだ。そしてその操れる魔物の限度にも、個人差がある。低級のスライム程度しか使役できないテイマーなど珍しくも何ともない。これも使えないと言われる一因だ。
中級のグリフォンを使役出来るのだから、そんな無能ではないのだろうが、かと言って自慢するようなものかと言われればノーだ。テイマーが一度に使役可能な魔物の量も限度がある。流石に何十匹も扱えはしないだろうから、戦闘で役に立つとは思い難い。
自分を冷遇する世間の奴らを見返すのが目的のはずのスケイプが、そんな大して使えもしないテイマーなどという資格を手にしたのか? 皆目見当がつかなかった。
「――ま、これ以上考えても仕方ないか……」
「おや、こんな時に悩み事とはずいぶん余裕ですな勇者様は」
頭をポリポリ掻いていたら、不意にからかわれた。後ろを見ると、やはり相手はスケイプだった。
「……いえいえ、別に悩み事など無いですよ」
こんがらがっていた頭が、今度はふつふつと沸きあがってきた。こっちはテメエの事で悩んでいるのに、なんでその当人にからかわれなきゃいかんと言いたくなった。
「ほう、悩み事が無い? これは驚いた。勇者様の非常に気楽なようで」
「……だから、別に勇者様でなくて構わないと言っているでしょう第四王子様」
「ああ、そうでしたね。ではレッド様とでもしましょうか」
こちらとしては争っても仕方ないため早々と話を切りたいのに、向こうはまだ嘲笑の手を止めようとしない。自分の何が気に入らないかは知らないが、自分が何が気に入らないかはレッドにも分かった。その不遜な態度である。
行進の歩みを止め、本格的にケンカしようとスケイプに向き直る。
「それと、気楽ではないですねえ。世界中あちらこちらと回されて大変ですよ。どこの軍隊の方も苦労してますから助っ人に散々呼び出されまして……ああ、そんなお忙しい軍隊で、日がな遊び惚けている方もいるそうで。羨ましい限りですな」
「なんだと……!」
案の定怒り出した。プライドが高過ぎるのは分かるが、挑発に乗りやすいのはお前の馬鹿さの証だと言ってやりたかった。
「貴様、どの口で言っているんだ!」
「口の位置ぐらい見りゃわかるだろ、頭どころか目も悪いのかテメエは!」
とうとう怒りが頂点に達した二人は掴み合いになる。スケイプは取り巻きの近衛騎士団が、レッドはアレンが止めようとする。ちなみに他の勇者パーティたちはくだらないと思ったか我関せずを貫いている。
「止めてくださいって、落ち着いてレッド様――!」
「止めるなアレン、こいつは一発殴らないと終わるような奴じゃ……」
「待ってくださいっ!!」
抱きついていたアレンが一際大きな声を張り上げる。その叫びに、レッドもスケイプもビクッと固まった。
「――アレン?」
抱きついたままのアレンは、こちらを向いていなかった。
全身の毛を逆立て、先ほどまで進んでいた方角を見ている。つまり、目的地の鉱山がある方角だ。
「アレン、どうした?」
明らかに様子がおかしいアレンに聞いてみると、アレンは振り返らずにそのまま「……レッド様」と言ってきた。
「向こうから……血の匂いがします」
「っ!?」
皆が息を呑む。レッドたちには血の匂いなど全然感じないが、アレンは犬族特有の鼻で嗅ぎ取ったのだろう。
レッドが「ラヴォワ!」と指示を出すと、彼女は言われるまま索敵魔術を展開した。
彼女の周辺を覆うように青白い魔力の輝きが生まれ、それが輪になって周囲へ広がった。光の輪が皆の体をすり抜け、一瞬でいずこかへ消えてしまう。
消えてすぐ、ラヴォワの驚愕に目を見開いた。
「そんな……今まで何も感じなかったのに……」
「ラヴォワ、何処だ!?」
そう聞くと、ラヴォワは一つの方角へ指を伸ばした。
間違いなく、鉱山のある方だった。
「馬鹿な……あそこは今近衛騎士団で固めているんだぞ!?」
スケイプの言う通りだった。今鉱山は閉鎖されているが、ミノタウロスが出現した時などに備えて監視役の兵及び結界魔術を使える魔術師を配備していたはずだった。もしものことがあれば連絡が来る手筈となっている。
それが何の連絡もなく襲われているなどあり得ないことだった。
「おい、とにかく行くぞ!」
レッドに急かされ、全員が走って鉱山へ急行した。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説


少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる