The Dark eater ~逆追放された勇者は、魔剣の力で闇を喰らいつくす~

紫静馬

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転生勇者と魔剣編

第十八話 闇に染まる時(1)

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 村に火の手が上がっているのを見て走り出したレッドたちは、当然のことながらブルードラゴンに襲撃されたと思った。
 何故感知魔術に反応しなかったのかという疑問はあったが、他に考えようが無いからだ。

 しかし、村の様子が見える範囲まで近づいた時、何かおかしいことに気付く。

「……?」

 火の手は上がっているのに、今襲撃しているはずのブルードラゴンが影も形も雄たけび一つ聞こえてこない。こちらが目を離した時間はさほどでないはずだから、まさかもう帰ったとは思い難かった。

 ならば他の魔物が襲撃してきたのか、とも思ったが、村に到着するとそれも違うのが見て取れた。

「これは……」

 言葉を失うレッドの前には、惨状が広がっていた。

 燃え盛る家屋。そしてそこかしこに転がる、亜人たちの死体。
 しかし――確認してみると、どうも死体の様子が変なのだ。

 遺体にある傷が、獣に喰われたとかそんな類の傷ではない。第一、魔物に喰われたなら肉体が残り過ぎている。
 まるで――そう、剣で斬られたり槍で突かれたり、鈍器で殴られたような傷なのだ。

 道具を使って人間を襲う、ゴブリンやオークのような魔物も存在する。しかし連中とて目当ては人間の血肉なのだから、こんな殺した死体を放置しているなんてあり得ない。それ以前に、そんな低級の魔物がアレンが用意した結界を抜けられるはずがない。

 奇妙としか言いようが無いこの惨状。これは、まるで――

 とにかく、状況が分からないため、生存者を探すべくあちらこちらから炎が上がる村へ入っていく。しかし見つかるのは大概剣や槍、棍棒などの鈍器を持った死体だけだった。

「――ちょっと、こいつまだ生きてるわよっ!」

 すると、倒れていた亜人の一人に、袈裟懸けに斬られながらもかろうじて生きている男がいたことにマータが気付いた。慌てて皆で駆け寄る。どうも牛族の男らしいが、とにかくアレンが回復魔術で治癒し始めた。

「おい、この村で何が起こったんだ、教えてくれっ!」
「勇者様、ダメですよ治療を優先しないと……!」

 アレンの言い分も分かるが、レッドは逸る気持ちを抑えられず意識の無い亜人を揺さぶり起こす。

 すると、致命傷を負っていた亜人がゆっくりと目を開け始めた。

「おい、いったい何が起きたんだ! 魔物に襲われたのか!? それとも……!」
「……勇者様」

 そんな時に、ふとアレンに呼ばれた。アレンの方を見ると、回復魔術をしているはずの手が止まっており、正面を向いたまま目を見開いていた。

「アレン……いったい何を……」
「……あれ」

 震える指で、ゆっくりと前を指さした。
 アレンの指が示すものの先に振り返ると、レッドは戦慄する。

 一見するとそれは、三本の火柱に見えた。
 しかしそれは違った。燃えているのは、並んだ三本の木の柱だった。

 三本の柱には、何かが括り付けられていた。
 大きさと形は――そう、ちょうど成人の人間くらいの物が。

 いや――違った。くらいではない。それは間違いなく人間だった。
 人間が、柱に括られて火炙りにされているのだ。

「……反対派の連中が、村長たちと揉めだして……」

 すると、意識が戻った亜人が、息も絶え絶えだが絞り出すような声で話し始めた。

「……村長たちを、火炙りに……そうしたら賛成派の連中が武器を持って……反対派の連中と……」
「――くそっ!!」

 思わずそう吐き捨てた。

 内心分かっていたことではある。村の惨状を――ブルードラゴンや他の魔物に襲われたとかではなく、まるで互いに殺し合ったような有様を見た時から。

 アレンとラヴォワにかけさせた結界も感知も、村の外からの進入にしか反応しない。村の中で村人が互いに殺し合っているなんてものに、反応するはずがなかった。村長たちに渡したこちらへ連絡するための魔道具も、恐らく使う暇がなかったか叩き壊されでもしたのだろう。

 完全に油断しきっていた。あの場で連中をそのまま帰すべきではなかったのだ。まさか、この村の状況がこんなにも悪化していると思わなかった自分の判断ミスだとレッドは悔いた。

 すると、亜人の男が咳き込み始めた。元よりかなりの重体だったので、いよいよ危険になったらしい。
 絶句していたアレンもようやく正気に戻ったようで、男の胸に触り回復魔術を再開する。

「わかりました、もう喋らないでください! 今治療を……!」

 しかし、その手はガッと男につかみ取られた。
 戸惑うアレンに向けて、亜人の男だ。

「……貴様らだ」

 そう、憎しみに染まった瞳でアレンを睨みながら、

「貴様らさえ来なければ、こんな、ことには……」

 そう恨み事を呟いて、亜人の男は事切れた。

「…………」

 アレンは何も喋らなかった。死んだ男の握られたままの手を放そうともしなかった。助けられなかった悔しみや悲しみすら見られない。
 ただ、絶望したような表情で座り込むだけだった。

 すると、どこかから金属が激しくぶつかり合う音、怒声のような喧騒が聞こえてきた。

「……まだ、戦っている奴らがいるみたい……」
「――行こう」

 駆けつけようとするレッドだが、マータはそんな彼を止める。

「……どうする気よ」
「……知らん。とにかく行く」

 レッド自身、どうするのか考えていなかった。このまま行って、亜人たちをどうするのか、どうすべきか全く分からなかった。

 しかし――このまま放っておくか、あるいは逃げるか。
 その選択だけは、どうしても取れる気がしなかった。ただそれだけだった。

「……分かった。付いていこう。どうせ俺だけじゃこの火の中逃げれんしな」
「……村から逃げるのはいつでもできる……でもレッドの指示には従う」
「ありがとう。仮にもうダメだと判断すれば、すぐに逃げることにするが――」

 声をかけたアレンは、返事も立ちもしなかった。
 ただ今しがた亡くなった死体を見ているのか見ていないのか、虚ろな目をしているだけだ。

「いつまでボケっとしてんだ! とっとと起きろ!」

 レッドはアレンの胸倉を掴み上げ、頬を思い切りはたいた。
 叩かれたアレンは地面に尻もちをつけ、目を白黒させている。

「……選ばれた役目を果たすため来たんだろ。だったら現実逃避してんじゃない」
「――! ……はい」

 震えた声だが応えた。とりあえず正気には戻ったらしい。
 アレンの手を引き、レッドたち五人は走り出した。
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