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二人で一緒に
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その後、ジュリアは水の天馬で屋敷まで送ってもらった。
黙って家を抜け出したジュリアに父親は激怒し、ジュリアを無期限の完全外出禁止にした。
だが、それはジュリアにとって好都合だった。家族にお別れをする、いい機会だった。ジュリアは父親と母親、それといずれ家を継ぐ兄と話をした。
父親と兄は女であるジュリアの話を聞こうともしなかった。それとなく思う相手がいることを告げてみたが、兄には「王太子から婚約破棄されたばかりだというのに、恥知らず」と罵られ、父親からは「お前の次の嫁ぎ先はすでに決まっている」と手を上げられてしまった。
母親は父親と兄の顔色を窺うばかりで、ジュリアの味方になることはなかった。
一週間後の、真夜中。
約束の日は、新月の日だった。
ジュリアの部屋の窓に、ミゲルが音もなく、現われた。
「ミゲル、魔力が戻ったのね」
「お静かに、ジュリア様。外に天馬を待機させています。あの、……本当に、よろしいのでしょうか」
ミゲルはふわりとジュリアを抱きしめた。
「もうご家族には会えなくなりますよ。僕の方は、魔導師として王宮に仕えてから、家族とはもうずっと離れて暮らしていますから、大丈夫ですけど」
「いいの。ここに、未練はないわ。決めたの、貴方と一緒に行くって」
ジュリアもミゲルを抱きしめ返した。彼の漆黒の髪が、闇夜に溶けているのが、彼の肩越しに見えた。
ジュリアはほんの少しの荷物を持って、自室の窓から、ミゲルとともに、旅立った。
月のない空に、揺らめく天馬が羽ばたく。
「ねえミゲル、あの後、王宮はどうなったの? シャルル殿下や、アンドロイドさんは」
天馬の背中でジュリアはミゲルに聞いた。
屋敷に閉じ込められていたジュリアに、外の情報は一切入って来なかったのだ。
「シャルル殿下はお元気ですよ。国王は相変わらずですけど、どうやら高い魔力を持ったシャルル殿下の働きかけで、国はいい方向へ動きそうです。実際、王の政治の在り方に不満を持っていた側近は多かったみたいですし。あ、僕は魔力が戻ったんで、こっそりアンドロイドを直しておきました。ジルベールはアンドロイドにいい意味で教育されてるみたいですよ。あの地下室で、よっぽど怖い目にあったんですね」
「ジルベール……なんだかもう遠い人という感じね。なんだったのかしら、あの人」
「ジュリア様」
後ろに跨っていたミゲルが、突然ジュリアを後ろから抱きしめた。
「どうしたの、ミゲル」
「もうジルベールの名前を口に出さないで下さい! 僕は、僕はジュリア様の口からあの野郎の名前を聞きたくないです」
ミゲルはジュリアの背中でいやいやをするように頭を振った。ジュリアは彼のその仕草に胸が高鳴った。
「わかったわ。ジルベ……あの野郎の名前は呼ばないわ。その代わり、わたくしからも一つお願いがあるのだけれど、いいかしら」
「な、何ですか」
「ジュリア様、じゃなくて、ジュリアって呼んでほしいの。敬語もやめて」
ジュリアを抱く腕に力がこもった。
「うん……、ジュリ……ア、ジュリア、一緒に、どこまでも行こう」
鼻声だった。
もう、可愛いわ、可愛すぎる。この、子犬系魔導師!
『ジュリアよ、主に対して、事あるごとにきゅんとしているようだが、こう見えて主は結構あざとい……』
水の天馬が何か言ったが、背中の上で抱き合う二人には、まるで届いていないのだった。
二人はこれからどこに向かうのか。
異国なのか、異世界23世紀の地球・日本なのか。それはまた、別のお話……。
(完)
黙って家を抜け出したジュリアに父親は激怒し、ジュリアを無期限の完全外出禁止にした。
だが、それはジュリアにとって好都合だった。家族にお別れをする、いい機会だった。ジュリアは父親と母親、それといずれ家を継ぐ兄と話をした。
父親と兄は女であるジュリアの話を聞こうともしなかった。それとなく思う相手がいることを告げてみたが、兄には「王太子から婚約破棄されたばかりだというのに、恥知らず」と罵られ、父親からは「お前の次の嫁ぎ先はすでに決まっている」と手を上げられてしまった。
母親は父親と兄の顔色を窺うばかりで、ジュリアの味方になることはなかった。
一週間後の、真夜中。
約束の日は、新月の日だった。
ジュリアの部屋の窓に、ミゲルが音もなく、現われた。
「ミゲル、魔力が戻ったのね」
「お静かに、ジュリア様。外に天馬を待機させています。あの、……本当に、よろしいのでしょうか」
ミゲルはふわりとジュリアを抱きしめた。
「もうご家族には会えなくなりますよ。僕の方は、魔導師として王宮に仕えてから、家族とはもうずっと離れて暮らしていますから、大丈夫ですけど」
「いいの。ここに、未練はないわ。決めたの、貴方と一緒に行くって」
ジュリアもミゲルを抱きしめ返した。彼の漆黒の髪が、闇夜に溶けているのが、彼の肩越しに見えた。
ジュリアはほんの少しの荷物を持って、自室の窓から、ミゲルとともに、旅立った。
月のない空に、揺らめく天馬が羽ばたく。
「ねえミゲル、あの後、王宮はどうなったの? シャルル殿下や、アンドロイドさんは」
天馬の背中でジュリアはミゲルに聞いた。
屋敷に閉じ込められていたジュリアに、外の情報は一切入って来なかったのだ。
「シャルル殿下はお元気ですよ。国王は相変わらずですけど、どうやら高い魔力を持ったシャルル殿下の働きかけで、国はいい方向へ動きそうです。実際、王の政治の在り方に不満を持っていた側近は多かったみたいですし。あ、僕は魔力が戻ったんで、こっそりアンドロイドを直しておきました。ジルベールはアンドロイドにいい意味で教育されてるみたいですよ。あの地下室で、よっぽど怖い目にあったんですね」
「ジルベール……なんだかもう遠い人という感じね。なんだったのかしら、あの人」
「ジュリア様」
後ろに跨っていたミゲルが、突然ジュリアを後ろから抱きしめた。
「どうしたの、ミゲル」
「もうジルベールの名前を口に出さないで下さい! 僕は、僕はジュリア様の口からあの野郎の名前を聞きたくないです」
ミゲルはジュリアの背中でいやいやをするように頭を振った。ジュリアは彼のその仕草に胸が高鳴った。
「わかったわ。ジルベ……あの野郎の名前は呼ばないわ。その代わり、わたくしからも一つお願いがあるのだけれど、いいかしら」
「な、何ですか」
「ジュリア様、じゃなくて、ジュリアって呼んでほしいの。敬語もやめて」
ジュリアを抱く腕に力がこもった。
「うん……、ジュリ……ア、ジュリア、一緒に、どこまでも行こう」
鼻声だった。
もう、可愛いわ、可愛すぎる。この、子犬系魔導師!
『ジュリアよ、主に対して、事あるごとにきゅんとしているようだが、こう見えて主は結構あざとい……』
水の天馬が何か言ったが、背中の上で抱き合う二人には、まるで届いていないのだった。
二人はこれからどこに向かうのか。
異国なのか、異世界23世紀の地球・日本なのか。それはまた、別のお話……。
(完)
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今日で完結予定なので、お気に召しましたら最後までお付き合いいただけると嬉しいです。