上 下
24 / 24

二人で一緒に

しおりを挟む
 その後、ジュリアは水の天馬で屋敷まで送ってもらった。
 黙って家を抜け出したジュリアに父親は激怒し、ジュリアを無期限の完全外出禁止にした。

 だが、それはジュリアにとって好都合だった。家族にお別れをする、いい機会だった。ジュリアは父親と母親、それといずれ家を継ぐ兄と話をした。

 父親と兄は女であるジュリアの話を聞こうともしなかった。それとなく思う相手がいることを告げてみたが、兄には「王太子から婚約破棄されたばかりだというのに、恥知らず」と罵られ、父親からは「お前の次の嫁ぎ先はすでに決まっている」と手を上げられてしまった。

 母親は父親と兄の顔色を窺うばかりで、ジュリアの味方になることはなかった。

 一週間後の、真夜中。

 約束の日は、新月の日だった。

 ジュリアの部屋の窓に、ミゲルが音もなく、現われた。

「ミゲル、魔力が戻ったのね」

「お静かに、ジュリア様。外に天馬を待機させています。あの、……本当に、よろしいのでしょうか」

 ミゲルはふわりとジュリアを抱きしめた。

「もうご家族には会えなくなりますよ。僕の方は、魔導師として王宮に仕えてから、家族とはもうずっと離れて暮らしていますから、大丈夫ですけど」

「いいの。ここに、未練はないわ。決めたの、貴方と一緒に行くって」

 ジュリアもミゲルを抱きしめ返した。彼の漆黒の髪が、闇夜に溶けているのが、彼の肩越しに見えた。

 ジュリアはほんの少しの荷物を持って、自室の窓から、ミゲルとともに、旅立った。

 月のない空に、揺らめく天馬が羽ばたく。


「ねえミゲル、あの後、王宮はどうなったの? シャルル殿下や、アンドロイドさんは」

 天馬の背中でジュリアはミゲルに聞いた。
 屋敷に閉じ込められていたジュリアに、外の情報は一切入って来なかったのだ。

「シャルル殿下はお元気ですよ。国王は相変わらずですけど、どうやら高い魔力を持ったシャルル殿下の働きかけで、国はいい方向へ動きそうです。実際、王の政治の在り方に不満を持っていた側近は多かったみたいですし。あ、僕は魔力が戻ったんで、こっそりアンドロイドを直しておきました。ジルベールはアンドロイドにいい意味で教育されてるみたいですよ。あの地下室で、よっぽど怖い目にあったんですね」

「ジルベール……なんだかもう遠い人という感じね。なんだったのかしら、あの人」

「ジュリア様」

 後ろに跨っていたミゲルが、突然ジュリアを後ろから抱きしめた。

「どうしたの、ミゲル」

「もうジルベールの名前を口に出さないで下さい! 僕は、僕はジュリア様の口からあの野郎の名前を聞きたくないです」

 ミゲルはジュリアの背中でいやいやをするように頭を振った。ジュリアは彼のその仕草に胸が高鳴った。

「わかったわ。ジルベ……あの野郎の名前は呼ばないわ。その代わり、わたくしからも一つお願いがあるのだけれど、いいかしら」

「な、何ですか」

「ジュリア様、じゃなくて、ジュリアって呼んでほしいの。敬語もやめて」

 ジュリアを抱く腕に力がこもった。

「うん……、ジュリ……ア、ジュリア、一緒に、どこまでも行こう」

 鼻声だった。

 もう、可愛いわ、可愛すぎる。この、子犬系魔導師!

『ジュリアよ、あるじに対して、事あるごとにきゅんとしているようだが、こう見えて主は結構あざとい……』

 水の天馬が何か言ったが、背中の上で抱き合う二人には、まるで届いていないのだった。


 二人はこれからどこに向かうのか。
 異国なのか、異世界23世紀の地球・日本なのか。それはまた、別のお話……。

(完) 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

スパークノークス

お気に入りに登録しました~

コーヒーブレイク
2021.09.19 コーヒーブレイク

どうもありがとうございます(*^^*)

解除
丸井団子之介
ネタバレ含む
コーヒーブレイク
2021.09.19 コーヒーブレイク

感想ありがとうございます! はい、この王太子はどうしようもないバカです(^▽^)/

今日で完結予定なので、お気に召しましたら最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた

東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
 「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」  その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。    「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」  リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。  宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。  「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」  まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。  その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。  まただ……。  リシェンヌは絶望の中で思う。  彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。 ※全八話 一週間ほどで完結します。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。