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気持ちは分かる

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 ジルベールの案内で、王宮の西側の地下へと、ジュリアたちは向かっていた。巨大な水の馬が空中を駆け巡り、王宮内は一時騒然となった。

「何あれ!」

「み、水でできた天馬ペガサスよ!」

「きれーい」

「ぼーっと見てないで、俺を助けろ」とかジルベールが騒ぐんじゃないかと、ジュリアは思ったが、彼は天馬のたてがみに顔を必死にうずめていた。

「うう、こんなみっともない姿、皆に見せられない……」

 彼はボロボロになったバスローブ一枚の姿なのだ。

『ミゲル殿の気配がする。地下への階段……これだな』

 天馬はジュリアたちを乗せて、地下へと降りて行った。


 薄暗い階段を降りると、扉があった。扉の両隣には兵士が立っている。天馬は構わず扉に突っ込んだ。

「きゃあああああ」

「うわあああああ」

 さすがにジュリアもジルベールも悲鳴を上げた。扉は内側に吹き飛び、部屋の中があらわになった。

 そこには、両腕両脚を縛られ、天井から吊るされたミゲルと、大きな透明なケースを担いだシャルルが立っていた。

「ミゲル!」

 ジュリアはたまらず叫んだ。ひどい……、きっと残酷な拷問を受けたんだわ。

「う……ジュ、ジュリア様……?」

 そう声を震わせてこちらを向いたミゲルの顔は、一面涙に濡れていた。子供の様に怯え切って、目を真っ赤にはらしている。
 ジュリアは天馬から飛び降りると、ミゲルとシャルルの間に割って入るように立った。

「シャルル殿下! ミゲルにどんな酷いことをしたのですか。こんなに怯えて泣いて、とっても可愛……いや、可哀想じゃないですか!」

「誤解だ、ジュリア伯爵令嬢。私はまだ何もやっていない!」

 シャルルが慌てて透明なケースを脇に降ろす。その中には大量のトカゲがうごめいている。

「トカゲですね! ミゲルがトカゲ嫌いなのを知って、トカゲ責めにしたのですね。なんてむごい……」

「だからまだやってない! 何度も頭からぶちまけてやろうと振りかぶったが、その度にこの魔導師は無力な子犬のようにいやいやとかぶりを振り、泣き出すんだ。自分より年上の男がだぞ? その姿があまりにも哀れで、なんだか言いようのない罪悪感に駆られて、私としたことが、結局今まで何も……」

 シャルルはがくっと肩を落とす。

「その気持ち……分からなくもありませんわ。シャルル殿下」

 ジュリアも結局ミゲルの可愛さにときめいて、ここまで来てしまったのだから。
 ジュリアはミゲルと向き合った。

「助けに来ましたわ、ミゲル魔導師」

「ジュリア様……? まさかジュリア様が水の天馬に乗っていらっしゃるなんて。僕は天馬だけを呼び寄せたつもりだったのに」

「え!? そうなの?」

「そ、そうですよ、ジュリア様を危険な目になんて、合わせられませんよ」

「あんなにジュリアジュリア呼んでいたではないか!」

 シャルルが頭を抱えて叫んだ。

「あ、あれはトカゲが怖くてつい……」

 ミゲルが顔を赤くして、再び涙ぐんだ。ジュリアの心がきゅんとなる。

『ジュリアよ、あるじにときめいているところ悪いが、その場をどけ。主の拘束を解く』

 天馬が、ふわりとミゲルに近寄り、額の角でミゲルの手足を縛っているロープを切った。水でできているはずなのに、ロープはすぱりときれいに切れた。

 頭を抱えていたシャルルは、その光景にはっと我に返った。

「何勝手なことをやっているんだ! まだ話は終わっていない! ミゲル、貴様は兄上をたぶらかしたアンドロイドを元の世界に帰すんだ!」

「ア、アンドロイド? アンドロイドはもういい! 俺はあの女に腕を折られたんだぞ! あんな女は懲り懲りだ!」

 今までまったく存在感がなかったジルベールが叫んだ。彼は天馬から振り落とされ、床に尻もちをついていた。 
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