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可愛いからって、迂闊に心を許しちゃいけない

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 その笑い方も、ジュリアは覚えていた。

 いじめっ子の男の子たちが去ったあと、ジュリアは自らのドレスを引き裂き、ミゲル少年にキズの手当をしてやった。
 ミゲルは手当てしてもらった箇所をじっと見つめたあと、

「お礼に、水の馬を見せてあげるね」

 と言って、湖に近寄り、なにかの呪文を唱え始めたのだった。呪文が終わると、ミゲルはしゃがんで湖の水を両手ですくい、ジュリアの顔の前に掲げた。

「ほら」

 そこには、水が集まってできた、小さな天馬ペガサスがいた。小さいが、頭に角と、胴体に一対の翼を持っている。

「わあ」

 ジュリアはその滑らかな水の馬に見とれた。見る角度によって翼が七色に光り、とても綺麗だった。

「助けてくれて、ありがとう。今はこんな小さな馬しか出せないけど、大人になったら、もっと大きな馬を出せるくらいの魔導師になるよ。……き、君のために……いや、何でもない、助けてくれて、本当に、ありがとう」

 そう言って、ミゲルは今みたいに笑ったのだ。それこそ、しっぽを振った子犬みたいに。七年経っても変わっていない……そう思うと、自然とジュリアに笑みがこぼれた。


 ――が、そこではっとした。

 この魔導師が「アンドロイド」とやらを召喚して、わたくしは婚約破棄されるはめになったのではなかったのか。わたくしの一生を台無しにしたのではなかったか。

 彼は一体なぜ、そんなことを……?

 ジュリアはほころびかけた口を引き結ぶと、ミゲル魔導師から距離を取った。

「ジュ、ジュリア様……?」

 ジュリアの行動にミゲルは戸惑いの表情を浮かべた。

「貴方がわたくしと昔出会っていて、わたくしに感謝の気持ちをいだいていることは、分かりました。ならなぜ、わたくしの婚約の邪魔を貴方はしたの? あのアンドロイドを召喚したのは、貴方なのよね? 一級魔導師さん」

 そう、しかも彼は魔導師の中でも優秀な、一級魔導師なのだ。女性が地位のある職業に就くことはこの国ではほぼないので、ジュリアは魔導師がどういうふうになるものなのかは知らないが、一級魔導師というのがとてつもない魔力を持ち、すごい魔法を使える、ということは知っていた。

 わたくしの頭の中に話しかけてきたのも、空中に浮いたのも、ここまで一瞬で飛んできたのも全部、彼の魔法なのだわ。すべての魔導師が使えるわけではない、高度な魔法。

 迂闊だった。目の前の魔導師は全然強そうに見えないけれど、むしろ守ってあげたくなるようなオーラを発しているけれど、実際は、何をしてくるのか分からないのよ。昔飼っていた犬みたいに可愛いからって、心を許すところだった。あぶないあぶない。

 ジュリアは身構え、

「答えて頂戴。貴方はなぜ、私の婚約の邪魔をしたの?」

 隙を見せないようにしっかりと、ミゲルを見据えた。ミゲルはそんなジュリアの態度に困ったように頭を掻くと、幾分決心したように口を開いた。

「実は、ジュリア様に二人きりでお話したいことがあるとは、それなのです。ジュリア様、ジルベール王太子は……ジュリア様が思っているような方ではありません。彼はただの軽薄な、女好きです」

「な、なんですって?」

 ジュリアは絶句した。
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