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両思い 10

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 フェリクスは必死に治癒魔法をミランにかけ続けた。自身の魔力が少なくなるにつれて、意識が遠くなり、視界が霞んでくる。だけど諦めなかった。

「死なないで、ミラン殿下。好きなんです、ミラン殿下」

 自分のことなんて、どうでもいい。ミランを助けたかった。

「お願い……」

「ねえ、フェリクス殿、今の言葉、本当?」

「え?」

「ミラン殿下が好きって」

「好きです。惚れ薬を一緒に作ったときから。私はずっと、ミラン殿下のことが……え」

 フェリクスは顔を上げた。すぐそばに、無傷のミランが立っていた。無駄に端正な顔も、そのままだ。

「ミラン殿下が、二人……?」

 フェリクスは二人のミランを見比べた。すると、地面に倒れていたミランから、尻尾がびょこんと飛び出ているのに気がついた。

「この尻尾ってまさか」

 フェリクスがそう言うや否や、ボロボロなミランはぼん、という音とともに、狸の姿になった。

「やっぱり狸型魔物……! 貴方が化けていたの? ミラン殿下に? どうして」

 狸に戻った子狸は、よろよろと立ち上がると、フェリクスに飛びついた。自分の顔を、フェリクスの頬にすり寄せる。

「もしかして、攻撃魔法から私を守ってくれようとしたの? ジャケットの中から見てた?」

 男の攻撃魔法は本当にたいしたことなかったようで、子狸に怪我はなかった。ただ、衝撃で一時的に気絶していただけらしい。
 子狸は魔法がうまく使えないので、あんな崩れた顔のミランになってしまったのだった。

「まったく、僕に化けるなら、もうちょっとうまく化けろよ。まあ、フェリクス殿を守ろうと走ったけど転んで間に合わなかった僕が言うことじゃないかもだけどさ」

 ミランはそう言うと、そのまま地面に膝をついて、フェリクスと視線を合わせた。
 彼のフードは外れており、整った顔には転んだ際の泥がついていた。
 フェリクスは固まった。

「ミラン殿下、あの、さっきのは……」

 どうしよう。ミラン殿下が死んじゃうと思って、あんなこと言っちゃったけど、ミラン殿下は迷惑だよね。ミラン殿下は今でもマルガレーテ嬢を想っているのに。
 どうやって誤魔化そうかとぐるぐる考えていると、ミランはフェリクスの眼鏡を右手で外した。そして、子狸を左手で抑えると、そのままフェリクスに口づけた。

 固まり続けるフェリクスの唇からようやく顔を離すと、ミランははっきりとした口調で、こう言った。

「僕も、好きだよ。君のことが。やっと、気づいた。僕はいつのまにか、君のことが好きになってたんだ」

 はしばみ色の瞳は、嘘をついていなかった。

「マ、マルガレーテ様は……」

「マルガレーテより、僕は君のことを多く考えるようになってた。本当だよ。君は、リステアード兄上が好きなんだと思って、ずっと、くやしかった」

「ち、違います! リステアード殿下なんて、どうでもいいんです! 私が好きなのは」

 フェリクスは、泣き出しそうになるのを必死にこらえた。声が震える。

「ずっと、ミラン殿下だけです」

 ミランがくしゃっと顔を歪めて、笑った。

 二人はもう一度、キスをした。



 魔力切れにより気を失って倒れたクレープ屋の店主は、完全に無視された。
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