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猛特訓 4
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フェリクス殿、今助けに行くぞ!
ミランは険しい面持ちで、王宮の廊下を練習場に向かって早歩きしていた。本当は走りたかったけれど、侍従に「殿下、廊下は走ってはなりません」と注意されたので、仕方がなく、早歩きだ。
リステアード兄上……王太子という立場を利用して、フェリクス殿に無理難題を突き付け、いじめてるんじゃないだろうな。
それに、リステアード兄上は女性に手が早くて有名だった……考えすぎかもしれないけれど、フェリクス殿と、三時間も、二人っきりなんて……考えすぎじゃないかもしれない、フェリクス殿の身が、危ない……!
「フェリクス殿!」
ミランは練習場の扉をばあん、と開けた。だだっ広い練習場に、たたずむフェリクスが「ミラン殿下?」とこちらを振り向いた。その青い目に、涙が浮かんでいた。
なんと、フェリクス殿が、泣いてる……!?
ミランは大股でフェリクスに近寄った。
「フェリクス殿、何があった? このバカ王太子に何かされたのか!?」
フェリクスの横でうずくまっていたリステアードを、ミランは睨みつけた。リステアードは額を押さえながら立ち上がると、
「早とちりするんじゃない、愚かな弟よ。どこをどう見ればそうなるんだ。フェリクス君、君、石頭すぎだよ」
涙目になってうめいた。
「すみません、リステアード殿下。けど、石頭はお互い様ですよ。私も結構、痛かったです」
フェリクスの額も赤くなっていた。ミランはすっかり混乱し、フェリクスとリステアードを交互に見ながら叫んだ。
「どういうことだ? フェリクス殿、リステアード兄上に襲われそうになったんじゃないのか?」
「馬鹿言うな、ミラン。俺はもう婚約者がいる身、ナンパは出来ない……じゃなかった、俺は公私混同はしない主義だ、見くびるなよ」
リステアードは怒っているというより、呆れた口調だった。
「ミラン殿下、私は熱心なリステアード殿下のご指導を受けていただけです。そうしたらリステアード殿下が転んで倒れちゃって、私、死んじゃったかもと思ってお顔を覗き込んだら、リステアード殿下が目を覚まして、起き上がって、額をお互いぶつけた、というわけです」
フェリクスは律義にこれまでの経緯を丁寧に語った。それを聞いたミランは、
「そ、そうだったのか。フェリクス殿が兄貴にビシバシしごかれてると思って、僕は心配で、つい」
弁解するようにしどろもどろになった。そんなミランを見て、フェリクスはふっと笑った。
「だから貴族学校の制服のまま、急いでここへ来てくれたんですか、ミラン殿下」
「あたりまえだよ。僕は……その、マネージャーだからね」
そんな二人のやりとりを見ていたリステア―ドは幾分つまらなそうに、
「マネージャーにしてはずいぶん焦ってたな。仮に俺がフェリクス君を口説いたってお前に何の関係がある」
と、汗が滴る黒髪をかきあげた。
「な、なんだよ、僕には関係ないけど、兄上は正式な婚約者がいるんだから、口説くのはダメだろ」
言いながらミランは動揺していた。そういえば、どうして僕はこんなに焦ったんだろう。フェリクス殿の身に、何かあったらと思うと、いてもたってもいられなった。
リステアード兄上と二人っきりというのが、気に入らなかった。だって、フェリクス殿は、もしかしたら、リステアード兄上のことを……。
ミランはちらりとフェリクスの方を見た。フェリクスは頭を打ったという、リステアードのことを心配していた。
ミランは険しい面持ちで、王宮の廊下を練習場に向かって早歩きしていた。本当は走りたかったけれど、侍従に「殿下、廊下は走ってはなりません」と注意されたので、仕方がなく、早歩きだ。
リステアード兄上……王太子という立場を利用して、フェリクス殿に無理難題を突き付け、いじめてるんじゃないだろうな。
それに、リステアード兄上は女性に手が早くて有名だった……考えすぎかもしれないけれど、フェリクス殿と、三時間も、二人っきりなんて……考えすぎじゃないかもしれない、フェリクス殿の身が、危ない……!
「フェリクス殿!」
ミランは練習場の扉をばあん、と開けた。だだっ広い練習場に、たたずむフェリクスが「ミラン殿下?」とこちらを振り向いた。その青い目に、涙が浮かんでいた。
なんと、フェリクス殿が、泣いてる……!?
ミランは大股でフェリクスに近寄った。
「フェリクス殿、何があった? このバカ王太子に何かされたのか!?」
フェリクスの横でうずくまっていたリステアードを、ミランは睨みつけた。リステアードは額を押さえながら立ち上がると、
「早とちりするんじゃない、愚かな弟よ。どこをどう見ればそうなるんだ。フェリクス君、君、石頭すぎだよ」
涙目になってうめいた。
「すみません、リステアード殿下。けど、石頭はお互い様ですよ。私も結構、痛かったです」
フェリクスの額も赤くなっていた。ミランはすっかり混乱し、フェリクスとリステアードを交互に見ながら叫んだ。
「どういうことだ? フェリクス殿、リステアード兄上に襲われそうになったんじゃないのか?」
「馬鹿言うな、ミラン。俺はもう婚約者がいる身、ナンパは出来ない……じゃなかった、俺は公私混同はしない主義だ、見くびるなよ」
リステアードは怒っているというより、呆れた口調だった。
「ミラン殿下、私は熱心なリステアード殿下のご指導を受けていただけです。そうしたらリステアード殿下が転んで倒れちゃって、私、死んじゃったかもと思ってお顔を覗き込んだら、リステアード殿下が目を覚まして、起き上がって、額をお互いぶつけた、というわけです」
フェリクスは律義にこれまでの経緯を丁寧に語った。それを聞いたミランは、
「そ、そうだったのか。フェリクス殿が兄貴にビシバシしごかれてると思って、僕は心配で、つい」
弁解するようにしどろもどろになった。そんなミランを見て、フェリクスはふっと笑った。
「だから貴族学校の制服のまま、急いでここへ来てくれたんですか、ミラン殿下」
「あたりまえだよ。僕は……その、マネージャーだからね」
そんな二人のやりとりを見ていたリステア―ドは幾分つまらなそうに、
「マネージャーにしてはずいぶん焦ってたな。仮に俺がフェリクス君を口説いたってお前に何の関係がある」
と、汗が滴る黒髪をかきあげた。
「な、なんだよ、僕には関係ないけど、兄上は正式な婚約者がいるんだから、口説くのはダメだろ」
言いながらミランは動揺していた。そういえば、どうして僕はこんなに焦ったんだろう。フェリクス殿の身に、何かあったらと思うと、いてもたってもいられなった。
リステアード兄上と二人っきりというのが、気に入らなかった。だって、フェリクス殿は、もしかしたら、リステアード兄上のことを……。
ミランはちらりとフェリクスの方を見た。フェリクスは頭を打ったという、リステアードのことを心配していた。
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