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番外編・ミランサイド4

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 ――気がつくと、ミランは妙な感覚に一瞬戸惑った。

 浮いてる……?

「フェリクス殿?」

 ミランはフェリクスの腕の中にいた。彼女に抱えられ、浮遊魔法で移動している最中だった。

「気がつかれましたか、ミラン殿下」

「フェリクス殿、僕は……がむしゃらに剣を振りまくって、倒れたのか」

「ええ、そのまま気を失われてしまったんです。凄まじい勢いでしたから……殿下の剣は。このまま、王宮内へ、お運びします」

 フェリクスはゆっくりと降下して、地面数十センチのところを浮きながら、そう言った。ミランの目が覚めたので、高所恐怖症の彼に配慮したものと思われる。

 しかし、この体勢は……。

 ミランはフェリクスに抱えられているのだが、まるでお姫様抱っこである。この体勢のまま王宮内に入ったら、みんなの笑いものじゃないか?

「フェリクス殿、歩けるから、降ろしてくれ」

「すみません、揺れて気分悪くなっちゃいましたか。あ、私が汗まみれで気持ち悪いとか」

「違う違う違う! フェリクス殿、君だって僕に付き合って、くたくただろう、余計な魔力使わなくていいから」

「心配には及びません。殿下をお守りするのも、魔法師団としての使命ですから。それと、このフェリクス・ブライトナー、ミラン殿下の友人として、貴方を守ります」

 フェリクスはミランをしっかりと支え、前を向いたまま決然とそう言った。凛々しいその横顔は、まさに魔法師団団長。

 ええ? 僕、魔法師団とはいえ、女性に守られるのか……なんだか複雑な気分だなあ。

 そういえば、どうしてフェリクス殿は男装しているんだろう。そこまでして、魔法師団にいる理由って、なんだ?

 ミランはふと疑問に思った。答えは「給料三割増と今後の就職に有利だから」なのだが、ミランは別の理由だと思った。

 魔法学校でフェリクス殿をスカウトしたのは、リステアード兄上。まさか、兄上の期待に応えるため?

 惚れ薬作りを頼んだときは「今まで誰も好きになったことがない」と言っていたけれど、あれは嘘で。

 本当は、フェリクス殿は、リステアード兄上のことを……。

「着きました。ミラン殿下。私室までお運びしましょうか」

 ミランが見当違いの推理をしているうちに、王宮内ホールにたどり着いていた。入り口を守っている男性兵士が微笑ましく見つめている。女性兵士は美男子二人がくっついてる状態に色めき立った。

「ご苦労だった、フェリクス殿。私はもう大丈夫だ」

 兵士の手前、毅然とした態度で、わざとらしく咳払いまでして、ミランはフェリクスのお姫様抱っこから降りた。平衡感覚をすぐに取り戻せず、よろけて転びそうになる。

 フェリクスが、笑いをこらえているのが、ミランには分かった。

「何がおかしいのさ、フェリクス殿」

「すみません、殿下がとても凛々しくあらせられるので。あ、これ上着です。汗をちゃんと拭いて、水分補給して下さいね」

「君もね! また風邪を引くなよ」

 上着を受け取ると、片手を上げて、ミランはフェリクスに、また明日、と言った。フェリクスが微笑みながら敬礼する。

 うん。彼女は魔法師団団長で、僕の友人だ。大切な友人だ。誰を思っていようと、それは変わらない。それでいいんだ。今まで通り、それで。

 ミランは、私室に向かいながら、そんなふうに思って、満足したのだった。



 番外編・ミランサイド おわり。
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