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 フェリクスはしまった、と思った。
 今魔法師団のジャケットを脱いでしまっている。しかも休暇中だったから、いつもは胸を潰すために身につけているベストを外してしまっていた。
 フェリクスのささやかな胸が、抱きついたミランの頬に、当たったようだ。
 ミランは身を引いて、硬直している。
 ややあって、口を開いた。

「フェリクス殿、君は……女性なのか……?」

「え……ええと……」

 どうしよう。

 まさか、こんな形でばれてしまうなんて。
 どうしよう……。

 フェリクスはただ黙ったまま、俯いた。ミランも動かず沈黙したままだった。
 小降りになった雨だけが、知らぬ素振りでさらさらと、音を立てていた。
 黙ってる時点で肯定したも同然じゃないかと思いつつも逡巡していると、ミランが突然「ひらめいた!」とでも言うように叫んだ。

「まさか、本名は、フェリシア・ローデンバルト?」

「えっ。な、なんでそれを!」

「そうなんだね」

「あーー!!」

 フェリクスは頭を抱えた。私のばかーー!!

「マルガレーテが二日前、貧血で倒れているところを、ある女性に助けてもらったんだ。マルガレーテによると、長身で、青い目に金髪の……魔力を持った女性だそうだ。僕はそれよりマルガレーテが心配だったから、『へー』としか思ってなかった」

 ミランが一つ一つ答え合わせをするかのように、フェリクスの目や、髪を見つめる。

「なぜ、私の名前がフェリシア・ローデンバルトだと?」

 フェリクスは観念して、ミランに問うた。

「その女性は立ち去るとき、投函前の、封をした手紙を落として行ったんだよ。たしか、差出人の名が、フェリシア・ローデンバルトだった。ここに来る前、団長室で、同じデザインの封筒を君が使っていたから、一瞬、おやと思ったんだけど、あのときはマルガレーテのこと優先で気に留めなかった」

「殿下は本当にいつもいつも、マルガレーテ様のことで、頭がいっぱいなんですね……」

「よくよく思い返したら、ユリアン兄上は君をフェリシアと呼んでいたじゃないか! ユリアン兄上は、君が女性だと、知っていたのか」

「はい……、実は、そうです……」

「じゃあ、君をスカウトした、リステアード兄上も?」

「ご存じでした」

「な、なんで僕にだけ黙っていたんだ! そうと知っていれば、僕は……」

「申し訳ありません。なんとなく、言いだせなくなってしまって」

 怒涛の如く推理を披露するミランの前に、フェリクスは降参するしかなかった。

「なんてことだ! 僕は君が男性だと思っていたから、マルガレーテのことだって打ち明けて、惚れ薬作りだって頼んだっていうのに。とんだ間抜けじゃないか!」

 ミランの声は明らかに非難の声を帯びている。

「すみません、だますようなことをして」

 フェリクスは改めてミランに謝罪した。ミランに責められるのはとても心が痛いけれど、精一杯、毅然とした態度を装った。絶対に、弱弱しい態度は見せまいと思った。

 ミランはそんなフェリクスを前に、再び黙ってしまった。 
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