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「君だって、薬作りに協力したじゃないか!」

「殿下が使い込みの件で脅してきたから仕方なくですよ! こっちだって職を失いたくないんです!」

 暗がりの中、ミランが自分を睨んでいるのがフェリクスには分かった。両の拳を握り、言い返す言葉を考えているようだった。
 やがて、ミランは絞り出すような声で言った。

「そんなこと、僕だって分かってる……分かってるさ。だけど、マルガレーテへの想いがどうにもならないんだよ。それくらい、僕は彼女が好きなんだ。あいにく僕は、好きだから、自分は引いて、相手の幸せを望むみたいな高尚で御大層なこと、できない……。真面目な君と違ってね!」

「ま、真面目は関係ないでしょう!」

「真面目だろ、休暇中に魔法師団の制服なんか着ちゃって、他に服持ってないの?」

「持ってますよ、って何の話ですか! 話そらさないで下さい!」

「そらしてないさ! 僕は君と違って、好きな人を簡単に諦められないって話だよ!」

 か、簡単に諦める……!?

 人の気も知らないで。私が、どんな想いで。

 どんな想いで、貴方を。

 ひどい……、ひどい。

 ひどい……。

「……フェリクス殿?」

 フェリクスが突然黙ったので、ミランが不信がるような声を出した。やがて、

「……少し感情的になったよ。ちょっと座ろうか……」

 フェリクスに近づき、促すように肩を叩こうとして、その手を止めた。

「な、泣いてるのか?」

 ミランは大げさなほど驚いて、あたふたした。

「ど、どうしたんだ……?」

 焦っているというよりも、困惑の声だった。
 それはそうだろう。
 ミランはフェリクスを男だと思っている。
 しかも、クールで名が通っている、魔法師団の団長だ。
 その彼が、暗がりでも分かるほどに、ぼろぼろ涙をこぼしているんだから。

「ほ、他に服を持ってないなんて言いすぎたよ……ご、ごめん」

 ミランは動揺してとんちんかんなことを言った。

「いえ、殿下、何でもないんです。どうか、気にしないで……」

 一番困惑していたのはフェリクス自身だった。
 ミランに言われるまで、自分で泣いていることに気がつかなかった。
 ミランの言葉が、こんなにも自分に突き刺さるなんて、思わなかった。

「とにかく、座ろう」

 フェリクスとミランは簡素なベッドに並んで腰かけた。はじめて薔薇を取りに来たとき、この上でミランの顔の治癒を、フェリクスがしたのだ。

「雨、少し弱くなってきたかな……」

 だいぶ間があったのち、ミランが、気詰まりな雰囲気を取り繕うように言った。

「そうみたいですね」

 フェリクスも、いつもの冷静な声で答えた。泣いたせいか、少し頭がぼうっとしていた。
 再び沈黙が降りたが、しばらくして唐突に、ミランが言った。

「フェリクス殿、聞いてくれ。僕は、マルガレーテとの婚約を解消するよ」

「そうですか……って、ええ!?」

 フェリクスは驚いて、隣に座る、ミランを振り返った。ミランは、膝の上に固めた拳を、じっと、見つめていた。
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