37 / 94
37
しおりを挟む
フェリクスはすんでのところで横っ飛びになんとかかわす。
魔法でバリアが施してあるのは脱皮した皮の方だ。この蝶本体になら、攻撃魔法が効くはずだ。
そう考えてフェリクスは三度、魔力を高めた。――が。
「わ、わ、なんだこれ? どうなってんだ? おいフェリシア」
王族席に座っているはずの第二王子、ユリアンが、おろおろしながらホール中央に現われた。
「ちょ、ちょっとユリアン! なんでここにいるの。貴方はバリア内にいるはずじゃ」
めずらしく慌てた様子のフェリクスの前で、ユリアンはやや気まずそうに答える。
「腹痛くてトイレ行って戻ってきたら席にバリアみたいなのが張ってあって入れなかったんだよ。なあフェリシア、あのでかいちょうちょ何……」
「ユリアン!」
蝶がユリアンめがけて糸を吐き出した。フェリクスは咄嗟にユリアンを突き飛ばす。ユリアンは吹っ飛んだだけで済んだが、フェリクスは蝶の糸に体をぐるぐると捉えられてしまった。
それを見計らったように、蝶がフェリクスを捕らえたまま、空中へ羽ばたいた。ホール内に風が巻き起こる。
「くっ」
フェリクスが目を開けると、大きな蝶と空中で対峙していた。体に巻き付いた糸は頑丈で、ちょっとやそっとじゃ外れそうにない。
蝶はフェリクスを弄ぶかのように、羽ばたきながら、空中で旋回した。フェリクスもそれに合わせて右へ左へ振り子のように揺さぶられる。目を回さないように、フェリクスはきつく目を閉じた。
「キャー、フェリクス様が魔物に捕まっちゃった! 大丈夫なの?」
「本当にこれ、演技なのかしら」
観客たちは、さすがに心配しだした。
このままじゃ、まずい。
きっと私が邪魔でリステアード殿下や他の団員は攻撃魔法を放てないに違いない。ここは、私が何とかしなきゃ。
フェリクスがそう決心したとき、ふいに、体の力が抜けていくのを感じた。体内の魔力を高めようとしても、うまくいかない。
糸を通して、私の魔力を吸い取ってる?
フェリクスは愕然とした。
この魔物、魔力がエサなのかもしれない。自分の魔力を奪われては、反撃できない。
負けるもんか。
フェリクスは無理やり体内の魔力を高め、体をよじり、糸から逃れようとした。
すると、糸が、させまいとするように、フェリクスの首にも巻き付いた。
ギリギリと締め上げる。
「かはっ」
い、息が……。はやく逃げなきゃ、ここから。
フェリクスは糸を引きちぎろうと必死にもがいた。しかし、思った以上に力が入らない。
魔力を吸い取られ、体の力が不安定になっているのだ。
力が入らない。
魔力を出せない。
なんとかしないと、と気持ちばかりが焦る。
どうしたらいいの。このままじゃ、私は……。苦しい。苦しいよ。ああ、どうしよう、どうしたらいいの。
もう、駄目だ。
誰か。
たすけて、ミラン殿下……。
「フェリクス殿!」
フェリクスの耳に、少し子供っぽい、聞き覚えのある声が届いた。
この声は、ミラン殿下……?
フェリクスは薄目を開けて、なんとか声のする方を向いた。相変わらず蝶の魔物は羽ばたきながら空中を漂い、フェリクスを翻弄しているが、フェリクスの目はほんの一瞬、ライトブラウンの髪を持つ、小柄な王子の姿を捉えた。
魔法でバリアが施してあるのは脱皮した皮の方だ。この蝶本体になら、攻撃魔法が効くはずだ。
そう考えてフェリクスは三度、魔力を高めた。――が。
「わ、わ、なんだこれ? どうなってんだ? おいフェリシア」
王族席に座っているはずの第二王子、ユリアンが、おろおろしながらホール中央に現われた。
「ちょ、ちょっとユリアン! なんでここにいるの。貴方はバリア内にいるはずじゃ」
めずらしく慌てた様子のフェリクスの前で、ユリアンはやや気まずそうに答える。
「腹痛くてトイレ行って戻ってきたら席にバリアみたいなのが張ってあって入れなかったんだよ。なあフェリシア、あのでかいちょうちょ何……」
「ユリアン!」
蝶がユリアンめがけて糸を吐き出した。フェリクスは咄嗟にユリアンを突き飛ばす。ユリアンは吹っ飛んだだけで済んだが、フェリクスは蝶の糸に体をぐるぐると捉えられてしまった。
それを見計らったように、蝶がフェリクスを捕らえたまま、空中へ羽ばたいた。ホール内に風が巻き起こる。
「くっ」
フェリクスが目を開けると、大きな蝶と空中で対峙していた。体に巻き付いた糸は頑丈で、ちょっとやそっとじゃ外れそうにない。
蝶はフェリクスを弄ぶかのように、羽ばたきながら、空中で旋回した。フェリクスもそれに合わせて右へ左へ振り子のように揺さぶられる。目を回さないように、フェリクスはきつく目を閉じた。
「キャー、フェリクス様が魔物に捕まっちゃった! 大丈夫なの?」
「本当にこれ、演技なのかしら」
観客たちは、さすがに心配しだした。
このままじゃ、まずい。
きっと私が邪魔でリステアード殿下や他の団員は攻撃魔法を放てないに違いない。ここは、私が何とかしなきゃ。
フェリクスがそう決心したとき、ふいに、体の力が抜けていくのを感じた。体内の魔力を高めようとしても、うまくいかない。
糸を通して、私の魔力を吸い取ってる?
フェリクスは愕然とした。
この魔物、魔力がエサなのかもしれない。自分の魔力を奪われては、反撃できない。
負けるもんか。
フェリクスは無理やり体内の魔力を高め、体をよじり、糸から逃れようとした。
すると、糸が、させまいとするように、フェリクスの首にも巻き付いた。
ギリギリと締め上げる。
「かはっ」
い、息が……。はやく逃げなきゃ、ここから。
フェリクスは糸を引きちぎろうと必死にもがいた。しかし、思った以上に力が入らない。
魔力を吸い取られ、体の力が不安定になっているのだ。
力が入らない。
魔力を出せない。
なんとかしないと、と気持ちばかりが焦る。
どうしたらいいの。このままじゃ、私は……。苦しい。苦しいよ。ああ、どうしよう、どうしたらいいの。
もう、駄目だ。
誰か。
たすけて、ミラン殿下……。
「フェリクス殿!」
フェリクスの耳に、少し子供っぽい、聞き覚えのある声が届いた。
この声は、ミラン殿下……?
フェリクスは薄目を開けて、なんとか声のする方を向いた。相変わらず蝶の魔物は羽ばたきながら空中を漂い、フェリクスを翻弄しているが、フェリクスの目はほんの一瞬、ライトブラウンの髪を持つ、小柄な王子の姿を捉えた。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
【完結】ノーザンランドの白き獅子リーラ 〜捨てられた王女は人生逆転復活劇は起こしたくない〜
京極冨蘭
恋愛
【完結しました!】
敵国ゾーンに占領される前に隣国ノーザンランド帝国へ逃亡した少女は亡き祖父の意思を引き継ぎ立派な帝国騎士になる。しかし、少女の秘められた力を狙い敵国の魔の手が襲いかかる。
度重なる敵からの危機をくぐり抜け、いつしか傍で支えてくれたノーザンランド皇帝と恋に落ちる少女。
少女の幸せは長くは続かない、少女の力には秘密があったのだ。真実を知った少女は愛する人への想いは捨て、神から与えられだ天命を果たすために決意をする。
長編小説予定
第4章から戦闘シーンに入るため残虐シーンが増えます。
主人公の恋愛要素は第8章から動き出します。
第11章かはR15含みます、タイトル部に※をいれます。苦手な方は飛ばして下さいね。
関連作品
「騎士の家の子になった王女は義兄に愛されたい」リーリラ姫、リンダ姫とダリルが登場します。第12章関連の為数話追加しました。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる