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 フェリクスとミランの朝の訓練は、すぐに飽きるかもしれない、というフェリクスの予想に反して、二週間ほど続いた。
 軟弱王子だと思っていたミランは結構粘り強く、ハードな訓練に泣き言も言わなかった。もともと運動神経がいいのか、呑み込みが早いのか、貴族学校で習う剣術の腕もめきめき上達した。終いには、力でミランに押されてしまうので、フェリクスは魔法で腕力をカバーしなければならなかった。
 フェリクスとしては剣を振りながら突如「マルガレーテ!」と叫ぶのだけは何とかしてほしいところだったが、ミランなりの気合の入れ方らしい。

「これなら『惚れ薬』を使わなくても、マルガレーテ様はミラン殿下を惚れ直すかもしれませんね」

 フェリクスは木の幹に寄りかかるように座りながら言った。ミランに気づかれないよう魔力を使っているので、さすがに疲れが出る。

「フェリクス殿もそう思う? 『王家に認められた若い女の金の髪』が手に入らない以上、惚れ薬作りは中断してるからね。惚れ薬なしでマルガレーテが僕を好いてくれるなら、それに越したことないよ」

 ミランは元気いっぱいにまだ剣を振るっている。どうやら物事を都合よく考える癖が出て、マルガレーテの心をこれで掴めると思い込んでいるらしい。

「そうですね。『王家に伝わる真っ赤な薔薇』も枯れてしまいましたしね……」

 そうなのだ。二週間前、ミランが端正な顔を犠牲にして手に入れた一輪の薔薇は、ミランが大切に花瓶に差して毎日世話していたが、とうとう枯れてしまった。

「仕方ないさ。無計画で材料集めを始めた僕が悪かった。また取りに行けばいい。今度は蜂対策をして」

 ミランはフェリクスの隣に腰を下ろした。フェリクスははっとして、ミランに謝罪した。

「すみません、殿下より先に座ってしまって。それに、私は汗臭いかも」

「そんなこと気にしないでよ。僕だって汗臭いし。フェリクス殿も上を脱いだらいいのに」

 ミランはとっくに半袖になっていた。

「お気遣いありがとうございます。けれど、これは魔法師団の制服なので」

 別に暑くなっても制服を脱いではいけないなんていう決まりはないが、薄着になってはミランに女だということを気づかれてしまう。

「そうか」

 ミランは特に気にしたふうでもなく、目を閉じた。

 早朝の風が、吹き抜ける。心地いいな、とフェリクスは思った。

「……魔法師団の他の団員は、だれも訓練に来ないんだね」

 唐突にミランが言った。痛いところを突かれて、フェリクスは返答に困った。

「申し訳ありません。国にお仕えする魔法師団が、こんな体たらくで。団長として、不甲斐ないばかりです」

「ごめんごめん。嫌味じゃないんだよ。それに君のせいじゃない。魔法師団をアイドル師団にして国のPRに使っているのは王族側だからね。エルドゥ王国はもとより、世界が長年平和だから、こんなふうにもなるよ。リステアード兄上が魔法師団団長だった時代も、こんな感じだったし」
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