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 ――カメラのフラッシュが眩しい。
 そう思っても、フェリクスは顔をしかめたり、背けたりせずに、カメラの方を向いていた。
 ちなみにカメラとは、レンズで捉えた被写体をそっくりそのまま写真という静止画にする、魔道具である。
 魔道具というのは魔力をエネルギーにして動く道具のことだ。エルドゥ王国だけでなく、この世界中に存在している。
 魔力はエネルギー源として、魔道具以外にも、この世界ではさまざまなことに活用されている。多くの人間は体内に魔力をほとんど持たないが、少数の人間は体内に魔力を持ち、様々な魔法を使える資質を持つ。
 その中でも高い魔力を持つエリート集団が「魔法師団」なのだ。
 エルドゥ王国に忠誠を誓い、いざというときには命をかけて、国のために戦い、国民を守る、屈強な男達で構成された誇り高き一団――。

 のはずが――。

「フェリクス様ー、こっち向いてー!!」

 フェリクスは声の方に向かって、軽く手を振った。途端にその方向から歓喜の悲鳴が上がる。
 午後のフェリクスの仕事。それは、他の団員達と、王宮が発行する女性向け月刊誌「魔法師団通信」の写真撮影をすることだった。
 王宮の中庭でその撮影は行われている。厳正な抽選のもと選ばれた、貴族女性のファンたちが、まわりをぐるりと取り囲み、それぞれが推しの団員に、黄色い声を投げかける。
 去年、男装して魔法師団入りしたときは、魔法師団のアイドル化した実態に驚かされたものだが、もう慣れた。
 それはフェリクスだけじゃない、みんなそうなのだ。新入団員は、その実態に、みんな染まっていく。
 学生だった頃、フェリクスは魔法師団の存在は知っていたものの、興味がなかったので、当時魔法師団団長だった今の王太子が女性たちにもてはやされてモテまくっていたのも知らなかった。
 まさか今自分がその「魔法師団団長」のポストにいるとは。

「フェリクス君、もっと自然に笑ってー。表紙なんだからー」

 カメラを向ける男性が、気さくな声で言った。フェリクスは言われたとおり、口の端を上げた。

「フェリクス君、それじゃガン飛ばしてるよー。もっと優し気に」

「うう……やってるんですけど」

 団長であるフェリクスは、これでちゃんと戦えるのかと思えるほど耽美的でフリルだらけな制服に、長ったらしいマントを付け、片膝ついてポーズを取らされていた。

「団長、スマイルスマイルー」

「日が暮れちゃいますよー」

 フェリクスのまわりを囲むようにして、同じくポーズを決める他の団員が、いつものことだと口々にからかう。
 アイドル活動には慣れたが、笑顔だけはフェリクスは苦手だった。自然に笑おうとすればするほど、妖怪じみた顔になる。

「キャーフェリクス様が困ってるー」

「フェリクス様は、クールだものねえ」

「助けて差し上げたいわー」

 だったら助けてよ、とフェリクスは写真撮影会場を取り囲むファンの女性たちの方を見た。すると、ずっと向こうに、つい三時間ほど前まで見てた顔があった。

 あ、あれは……ミラン殿下? 
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