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 次の日。
 就任式のリハーサルで、ちょっとしたアクシデントが起きた。
 魔物を倒すところで張り切りすぎた団員の一人が転倒し、大ケガをしたのだ。

「まったく、格好つけることにこだわりすぎるから、こんなことになるんだぞ」

 治癒の魔法に優れているフェリクスは、転倒団員につきっきりでケガを治癒しながら、説教した。

「団長、魔法師団が格好つけなかったら、終わりですよ! 格好いいこと、それが魔法師団じゃないですか! ……ぎゃー!! 痛い痛い! 団長、もっとゆっくり優しく治癒して下さいよー!!」

 本来の魔法師団の存在意義はき違えている若い団員は、情けない叫び声を上げた。

 そんなこんなで、メインとなる魔物を倒すパフォーマンスの流れを急遽、変更しなくてはならなくなり、リハーサルの時間が押されて、フェリクスの独唱はいつのまにかカットされてしまった。
 本番一発勝負になってしまったわけである。

 そして、就任式当日。

 魔物を倒すパフォーマンスは見事に決まり、式に招待された貴族婦人たちは大いに喜んだ。
 リステアードが、フェリクスに団長バッジを授与する。彼がフェリクスの胸にバッジを付けてくれ、肩を叩いて、軽く抱擁する。再び貴族婦人たちが黄色い声を上げて、盛り上がる。打合せ通りの、ファンサービスシーンだ。
 そして終盤、フェリクスを第〇〇代目、魔法師団団長と王家が認めたことを、国王が宣言する。わきおこる拍手。その拍手の中、フェリクスは、意を決して「軍歌・エルドゥ王国と共に」を一人熱唱した。
 途端に水を打ったように静まるホール内。そじて、貴族婦人たちがざわめきはじめる。

「うそでしょう? あれがフェリクス様の歌声? カエルの鳴き声みたい」

「ひどーい、魔法師団全体のイメージが壊れたー。わたしファン止めるわ、なんか冷めた」

 魔道具の貿易商である女性が、喚きたてる。

「よくもこんなひどい歌を聞かせてくれたわね! エルドゥ王国との取引は取りやめよ! 二度と相手にしないわ」

 いつもは温厚な国王が、怒りの形相で立ち上がり、フェリクスに怒鳴る。

「フェリクス・ブライトナー! 貴様、エルドゥ王国によくも恥をかかせてくれたな! 貴様はクビだ! 追放だ!」

 そんな……あんなに練習したのに、ミラン殿下と頑張ったのに……。すみません、ミラン殿下。私のせいで、ごめんなさい、ごめんなさい……!

「……クス殿、フェリクス殿」

「うう……ごめん……ミラン殿下」

「フェリクス殿!」

「!」

 フェリクスが目を開けると、すぐそこに、ミランの心配そうな顔があった。

「ミ、ミラン殿下……?」

 魔法師団団長室の奥にある、ベッドルームだった。どうやらフェリクスは、就任式のリハーサルのあと、疲れてそのままベッドで眠ってしまっていたらしい。上掛けもかけずに仰向けの状態で、魔法師団の制服のまま。
 フェリクスは慌てて飛び起きた。ベッドルームにまでミランが入ってくるとは思わなかった。当のミランはちょっと申し訳なさそうに、

「君が疲れていたみたいだから、心配で、様子を見に来たんだ。歌も本番一発勝負になってしまったし、緊張してるんじゃないかと思って。そうしたら、部屋の奥からフェリクス殿のうめき声が聞こえてたんだ。君のプライベートルームに無断で入るのは、悪いと思ったけど、もしかしたら体調でも悪くなったのかと思って」

 と弁解した。

「ひどくうなされてたよ、フェリクス殿。大丈夫?」
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