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「は、はい」
年下とはいえ、王族であるミランの緊迫した雰囲気に逆らえず、彼は急いで部屋に鍵を掛けた。
「ノックもせずに、いきなり押しかけてすまなかった。君が、今年から魔法師団団長になったフェリクス殿だな。突然だが、君に折り入って頼みがある」
まだ少年の面影を残したミランは芝居がかった口調と動作で、懐から何かを出そうとした。部下の前で、なんとか一人前の王族ぶろうとしているその姿に彼は失笑しかけたが「重大な話」の手前、なんとかこらえた。
「いかにも、私が今年から魔法師団団長を務めさせていただいている、フェリクス・ブライトナーです。私などの顔を殿下がご存じとは、光栄です」
フェリクスは一部の隙もない引き締めた顔で、自己紹介した。
本当は微笑んだ方がいいのかもしれないが、フェリクスはそういうのがどうも苦手だった。
「ああ。君は王宮が発行する月刊誌で『新・魔法師団団長』として大きく取り上げられていたからな。本当に、写真どおりの美男子で、女性のように綺麗だ」
ミランのその言葉を、フェリクスは「はは……」と曖昧な乾いた笑いでさっと流す。
そんな彼の目の前で、ミランはもたもたしながらやっと「何か」を取り出した。
それは、古い書物だった。
本自体はさほど分厚くないが、表紙にはかすれた文字で、こう書かれていた。
「惚れ薬の作り方?」
フェリクスが思わず声に出すと、ミランは本をずいっとフェリクスに差し出し、こう言った。
「フェリクス殿、君に、これを作ってもらいたい!」
フェリクスは思いもよらない王子の「頼み」に、一時茫然とした。だがすぐに我に返り、
「私にこの本に書いてある惚れ薬を作れ、ということですか? 惚れ薬を?」
古びた本を受け取りながら、相対するミランに問うた。
「ちょ、ちょっとフェリクス殿! 声が大きいって! もっと部屋の奥に行こう。外に聞こえたら大変だ」
ミランは大股でフェリクスに近づくと、問答無用でフェリクスを奥の壁に追い詰めた。「壁ドン」みたいな体勢になっているが、明らかにミランの方が小柄でフェリクスを見上げる形になっており、あまり様になっていない。
声が大きいのはどっちだ、と思いながら、フェリクスは心の中で本日三回目のため息をついた。まさか、これが重大な話? 朝っぱらから嫌な予感でいっぱいだった。
ミランは何かを決心したような顔つきで、こう言った。
年下とはいえ、王族であるミランの緊迫した雰囲気に逆らえず、彼は急いで部屋に鍵を掛けた。
「ノックもせずに、いきなり押しかけてすまなかった。君が、今年から魔法師団団長になったフェリクス殿だな。突然だが、君に折り入って頼みがある」
まだ少年の面影を残したミランは芝居がかった口調と動作で、懐から何かを出そうとした。部下の前で、なんとか一人前の王族ぶろうとしているその姿に彼は失笑しかけたが「重大な話」の手前、なんとかこらえた。
「いかにも、私が今年から魔法師団団長を務めさせていただいている、フェリクス・ブライトナーです。私などの顔を殿下がご存じとは、光栄です」
フェリクスは一部の隙もない引き締めた顔で、自己紹介した。
本当は微笑んだ方がいいのかもしれないが、フェリクスはそういうのがどうも苦手だった。
「ああ。君は王宮が発行する月刊誌で『新・魔法師団団長』として大きく取り上げられていたからな。本当に、写真どおりの美男子で、女性のように綺麗だ」
ミランのその言葉を、フェリクスは「はは……」と曖昧な乾いた笑いでさっと流す。
そんな彼の目の前で、ミランはもたもたしながらやっと「何か」を取り出した。
それは、古い書物だった。
本自体はさほど分厚くないが、表紙にはかすれた文字で、こう書かれていた。
「惚れ薬の作り方?」
フェリクスが思わず声に出すと、ミランは本をずいっとフェリクスに差し出し、こう言った。
「フェリクス殿、君に、これを作ってもらいたい!」
フェリクスは思いもよらない王子の「頼み」に、一時茫然とした。だがすぐに我に返り、
「私にこの本に書いてある惚れ薬を作れ、ということですか? 惚れ薬を?」
古びた本を受け取りながら、相対するミランに問うた。
「ちょ、ちょっとフェリクス殿! 声が大きいって! もっと部屋の奥に行こう。外に聞こえたら大変だ」
ミランは大股でフェリクスに近づくと、問答無用でフェリクスを奥の壁に追い詰めた。「壁ドン」みたいな体勢になっているが、明らかにミランの方が小柄でフェリクスを見上げる形になっており、あまり様になっていない。
声が大きいのはどっちだ、と思いながら、フェリクスは心の中で本日三回目のため息をついた。まさか、これが重大な話? 朝っぱらから嫌な予感でいっぱいだった。
ミランは何かを決心したような顔つきで、こう言った。
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