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 フェリクスは疲弊し、ぼんやりする頭で思った。

 ミラン殿下は少し子供っぽいけれど、他人を思いやる心を持っている。なのに、なぜマルガレーテ嬢の心を惚れ薬などで操作しようとするのだろう。マルガレーテ嬢に悪いと思わないんだろうか。

 王宮の手前でフェリクスはミランと別れた。
 このあと、昼は貴族婦人とランチをしなければならない。フェリクスはさほど会話が得意ではないが、婦人たちは好き勝手にしゃべり倒すので、ただ「分かりますよ」と、うなずいていればよかった。
 どうして女というものはああも、おしゃべり好きなのだろう(自分も女だけど)。
 貴族学校でも、魔力が突如発現して転入した魔法学校でも、フェリクスは女として浮いていた。とくに、色恋の話にはついていけなかった。ただ勉強して、読書をして、ぼんやり窓の外を眺めたりしていた。成績も運動神経もよかったから、クラスメイトから頼られることは少なくなかったけれど、目立つ生徒ではなかった。

 貴族婦人たちとのランチを終え、自室に戻ったフェリクスはソファに横になった。

 誰かを好きになるとは、どういう感じなんだろう……。

「やったぞ、フェリクス殿!」

「わっ」

 フェリクスが目を開けると、すぐそこに端正な第三王子の顔があった。どうやらソファでうたた寝をしてしまったらしい。

「ミラン殿下。か、勝手に入って来ないで下さいよ、一応魔法師団団長室なんですよ」

 フェリクスはソファから立ち上がって、緩めた襟元を素早く直した。

「僕と君の仲で今更何を言っている! それより見てくれ」

 ミランは装飾が施された分厚い一冊の本を、テーブルに置いた。

「僕が手に入れた『王家に連なる者の愛の証』だ」

「『愛しのビアンカへ贈る言葉』……? って、ちょっと、こ、これ、もしかして、ユリアン殿下の日記じゃないですか」

 本のタイトルに、フェリクスは仰天した。

「まさか盗んできたんですか、ユリアン殿下の私室から」

「日記じゃないよ。愛のポエム集(笑)だ。兄上は今日、午後からビアンカ嬢と会う約束をしていたから、その前に時間を見計らって兄上の部屋を訪れたんだ。そうしたら案の定、ビアンカ嬢がやって来たと同時に鍵もかけずに部屋から転がるようにすっとんでいったから、その隙に借りた」

「借りたって……」

「兄上はビアンカ嬢と婚約するまで、毎日ビアンカ嬢への愛を詩に綴っていたんだ。これなら『王家に連なる者の愛の証』にぴったりだろう?」

「ポエム集……」

 フェリクスは顔をしかめた。

「ミラン殿下、恐れながら申し上げます。これは、褒められたことではありませんよ。意図的に、個人の部屋から私的なものを盗んでくるなんて」

 フェリクスも日記をつけているが、他人に読まれることを考えたら、ひどく不快だった。
 だから、フェリクスは至極まっとうなことをミランに言ったつもりだが、当のミランは苦笑しただけだった。

「フェリクス殿は、真面目だな」
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