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「そ、空からって? フェリクス殿?」
「行きますよー」
フェリクスは小柄なミランを抱えると、ふわりと浮いた。浮遊魔法だ。高度な魔法に分類されるが、フェリクスにとっては長時間使用しなければ、さほど難しい魔法ではなかった。そのまま一気に上昇する。
森の上から俯瞰する形で、薔薇が咲いているという場所を探した。王家に伝わる真っ赤な薔薇、というくらいだから、なにかしら目印があるんじゃないかと踏んだが、それらしきものは見当たらない。
フェリクスは、自分に痛いくらいしがみついているミランに聞いた。
「ミラン殿下、真っ赤な薔薇というのは、森のどのあたりに……」
「あわわわわわ……、た、高い……目が回る……もうだめだ」
ミランは目を回してパニックを起こしていた。
「殿下、薔薇ですよ、薔薇。真っ赤な薔薇」
「は? 立派な馬鹿?」
瞬間、しがみついているミランの力がふっと抜けた。そのままミランは森の中に落下していく。
「えっ? ミラン殿下?」
気絶した?
フェリクスは急いでミランのあとを追って、森の中にダイブした――。
「――殿下! ミラン殿下!」
「……う、うう……」
「ミラン殿下!」
「フェ……フェリクス殿……?」
幸いにもミランは木の枝に引っかかっており、大した怪我もなく、無事だった。フェリクスはミランを木の枝から慎重に下ろし、地面に寝かせ、治癒魔法で傷の手当てをした。
「大丈夫ですか、ミラン殿下」
「ああ。大丈夫だ」
ミランは自力で起き上がった。フェリクスは安堵した。王子を不注意で殺してしまったら失職どころでは済まない。
「申し訳ありませんミラン殿下。ミラン殿下は高所恐怖症なのですね」
「そ、そういうわけじゃないけど、あんな突然飛び上がるなんて思わなかったから」
ミランは赤くなって、恥ずかしそうに顔を伏せた。男の意地というものがあるらしい。
「本当に申し訳ありません。私の配慮が足りませんでした」
「も、もういいよ……。それより、僕らは運がいい。見てくれ、フェリクス殿」
フェリクスはミランが指さす方向を見た。そこには、真っ赤な薔薇が一面、咲き乱れていた。
底知れぬ生命力を感じる、燃える炎のような赤い薔薇だ。これが、二百年前から王家に伝わるという薔薇なのか――。
ぶんぶんぶんぶん。
「どうしたフェリクス殿、蜂の真似なんかして」
ぶんぶんぶんぶん。
「現実逃避しないでくださいよ、ミラン殿下」
薔薇を見ている場合じゃなかった。フェリクスとミランは薔薇を目の前にして、蜂の大群に囲まれていた。
「ミラン殿下、飛んで逃げますよ。これじゃあ薔薇に近づくのは無理です」
フェリクスはミランの腕をとった。ミランは思いがけない力でそれを振りほどいた。
「君だけ逃げろ。僕は、薔薇を取って帰る。あれがなきゃ、惚れ薬ができないんだろう?」
ミランは腰にさしてある剣を抜いた。いや、それ王子ファッションの一部で、おもちゃの剣でしょ、とフェリクスは突っ込みたかった。
「僕は逃げるわけにいかない! マルガレーテを振り向かせるためにも!」
「行きますよー」
フェリクスは小柄なミランを抱えると、ふわりと浮いた。浮遊魔法だ。高度な魔法に分類されるが、フェリクスにとっては長時間使用しなければ、さほど難しい魔法ではなかった。そのまま一気に上昇する。
森の上から俯瞰する形で、薔薇が咲いているという場所を探した。王家に伝わる真っ赤な薔薇、というくらいだから、なにかしら目印があるんじゃないかと踏んだが、それらしきものは見当たらない。
フェリクスは、自分に痛いくらいしがみついているミランに聞いた。
「ミラン殿下、真っ赤な薔薇というのは、森のどのあたりに……」
「あわわわわわ……、た、高い……目が回る……もうだめだ」
ミランは目を回してパニックを起こしていた。
「殿下、薔薇ですよ、薔薇。真っ赤な薔薇」
「は? 立派な馬鹿?」
瞬間、しがみついているミランの力がふっと抜けた。そのままミランは森の中に落下していく。
「えっ? ミラン殿下?」
気絶した?
フェリクスは急いでミランのあとを追って、森の中にダイブした――。
「――殿下! ミラン殿下!」
「……う、うう……」
「ミラン殿下!」
「フェ……フェリクス殿……?」
幸いにもミランは木の枝に引っかかっており、大した怪我もなく、無事だった。フェリクスはミランを木の枝から慎重に下ろし、地面に寝かせ、治癒魔法で傷の手当てをした。
「大丈夫ですか、ミラン殿下」
「ああ。大丈夫だ」
ミランは自力で起き上がった。フェリクスは安堵した。王子を不注意で殺してしまったら失職どころでは済まない。
「申し訳ありませんミラン殿下。ミラン殿下は高所恐怖症なのですね」
「そ、そういうわけじゃないけど、あんな突然飛び上がるなんて思わなかったから」
ミランは赤くなって、恥ずかしそうに顔を伏せた。男の意地というものがあるらしい。
「本当に申し訳ありません。私の配慮が足りませんでした」
「も、もういいよ……。それより、僕らは運がいい。見てくれ、フェリクス殿」
フェリクスはミランが指さす方向を見た。そこには、真っ赤な薔薇が一面、咲き乱れていた。
底知れぬ生命力を感じる、燃える炎のような赤い薔薇だ。これが、二百年前から王家に伝わるという薔薇なのか――。
ぶんぶんぶんぶん。
「どうしたフェリクス殿、蜂の真似なんかして」
ぶんぶんぶんぶん。
「現実逃避しないでくださいよ、ミラン殿下」
薔薇を見ている場合じゃなかった。フェリクスとミランは薔薇を目の前にして、蜂の大群に囲まれていた。
「ミラン殿下、飛んで逃げますよ。これじゃあ薔薇に近づくのは無理です」
フェリクスはミランの腕をとった。ミランは思いがけない力でそれを振りほどいた。
「君だけ逃げろ。僕は、薔薇を取って帰る。あれがなきゃ、惚れ薬ができないんだろう?」
ミランは腰にさしてある剣を抜いた。いや、それ王子ファッションの一部で、おもちゃの剣でしょ、とフェリクスは突っ込みたかった。
「僕は逃げるわけにいかない! マルガレーテを振り向かせるためにも!」
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