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彗星が来ると聞いて(短い話です)

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「今、ちょうど彗星が見えるらしいね」

 夕刻、魔法師団団長室にやってきたミランが言った。

「え? そうなんですか」

 フェリシアは読んでいた本を閉じ、お茶の準備に取り掛かろうとした。

「知らなかった?」

「まったく知りませんでした」

「君は忙しいからな。貴族学校でその話がでたんだ。エルドゥ王国でも見えるらしい。見ごろは〇日△時……」

「まさに今日、この時間ですね」

「こうしちゃいられない! フェリシア、お茶はあとだ。見に行こう!」

 こうと決めたら行動が早いミランは団長室の扉をばーん、と開け、出て行った。

 そんなに彗星見たいんだ、とフェリシアはちょっと驚きながらも、ミランについて行った。
 着いた場所は、以前歌を歌う練習をした「ミランの秘密の場所」、王宮のはずれにある建物の屋上だ。

「方角は分かりますか、ミラン殿下」

「西南西だ」

 自信たっぷりのミラン。

「あ、あれじゃないか」

 フェリシアはミランが指さす方向を見た。日が落ちた空のやや低い位置に、長い尾を引いた彗星があった。
 フェリシアは肉眼で彗星を見たのははじめてだった。
 見たら見たでちょっとした感動がある。「彗星ってこういう感じなんですね」

「何か願い事をしたほうがいいのかなあ」

「流れ星じゃないですよ」

 言いながら、フェリシアは自室から持ってきたカーディガンを、ミランにかけた。

「ここは、少し肌寒いですね」

「ありがとう。君は寒くないの」

 ミランが肩を寄せてくる。

「この彗星は、未来永劫、ここに戻ってくることはないそうだ。見られるのは今回限り。そう思うとロマンチックじゃないか」

「そうですね。なんだか運命的なものを感じますね」

「僕と君のようにね」

「ミラン殿下……」



 もう彗星そっちのけでいちゃつくフェリシアとミランだった。




 終わり。 
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