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フェリシアの弱点 後編
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どこへ行った?
ミランは部屋の中を見回した。すると、
「ブーン」
「ブーン」
「わあああああ、増えた! Gが2匹だ! フェリシア、ここを開けてくれ! 2匹で飛んでる!!」
ミランはパニックに陥った。酔いもとっくに醒めた。だがドアは固く閉ざされたままだ。
「開けることはできません。ミラン殿下、どうか王子の御雄姿を私に見せてください」
「そんなこと言って、僕がどうなってもいいのか? 一年前『死なないで、ミラン殿下』と言って僕に泣いてすがったのは嘘だったのか」
「そんな事実はありません。話を盛らないでください」
恋人は非情だった。
「フェリシア、君ちゃんと部屋の掃除しているのか?」
「私は掃除をきちんとしています。反論するようですが、ミラン殿下、ミラン殿下が酔ってお菓子をぼろぼろこぼすのが原因かと存じます」
「安全地帯にいるとずいぶん冷静じゃないかフェリシ……わああああ、こっちに向かってきた!」
「ごめんなさい、ミラン殿下。Gを倒してくれたらなんでも言うことを聞きますから」
「なんでも? 言ったな」
「ええ。王家に仕える魔法師団団長として、誓いましょう」
ミランに力がみなぎった。さっきの甘いムードの続きを存分にできる。あんなことやそんなこともできる。
よし、やってやる。
ワインボトルを構える。
ブーン、ブーン、ブーン。
「ぎゃああああ、3匹になった! どうなってるんだこの部屋はあああああ、無、無理だ、フェリシア、ドアを開けてくれ!」
ミランの叫びと同時にドアが開いた。
そこに立っているのは魔法師団の団員のひとりだった。
「すいません、おれのペットが虫かごから逃げちゃって。あー、やっぱここだ。バロン、ニーナ、フェリックス、こっちへおいで」
団員の呼びかけに3匹のGは犬のように従い、持っている虫かごに収まった。
信じられない光景だ、とミランは思った。
「ペットって、Gが?」
「はい、可愛いですよ。おれ虫を飼うのが趣味で」
驚愕の声のミランに対し、団員はにこにことして答えた。そういえば、もう真夜中だというのに、王宮のあちこちから悲鳴が上がっている。
「あと18匹、どこに行ったか探さなきゃ。こいつら、すばしっこくて、やんちゃなんです☆」
団員がそう言って舌をぺろっと出してウインクしたとき、それまで黙っていたフェリシア……いや、フェリクスが彼の胸倉をつかんだ。
「君はふざけているのか。フェリックスとはなんだ」
「え? あ、団長、いらっしゃったんですか。ナイトドレス姿もお綺麗ですね。えへへ、いいでしょフェリックス。団長みたいにクールだから、そう名付けたんです。ほら、こいつですよ、分かります?」
カサカサいってる虫かごをフェリクスの顔の前に突き出した。
「きゃあああああああああ」
王宮内にフェリクスの悲鳴がこだました。
「フェリシア!」
ミランは気絶して倒れるフェリクスを慌てて支えた。
♦♦♦
ミランはその日、気絶したフェリシアを案じて、団長室に泊まった。
次の日、目を覚ましたフェリシアは、まだやや錯乱状態だった。
「安心しなよフェリシア。残りのGは全部あの団員の呼びかけでちゃんと回収されたから」
「殿下……よかった……私、本当に、あれがだめで」
「誰にでも弱点はあるさ」
ミランは苦笑した。過ぎてしまえば笑い話だ。
「でも僕は勇敢にGと戦ったんだからご褒美をくれたっていいだろう?」
ミランはベッドで横になるフェリシアの頬を撫でた。
「戦ってましたっけ? それとミラン殿下はそろそろ貴族学校のお時間では」
フェリシアはとぼけた。わざとらしいな。クールなのもいいけど、少しは素直になってほしいね。
「学校に行っていいの? ご褒美はくれないの」
ミランはかがみこんでフェリシアの耳元で囁いた。
クールな恋人の頬に、赤みが差した。
「差し上げます。ミラン殿下、昨日の悪夢を消してください」
「くれないって言っても頂くよ」
いつもはクールで凛々しい僕のフェリシア。君の弱点はやっぱり僕だよね。僕の前ではとびきり魅力的な女性になるんだ。
うぬぼれていいよね。
柔らかく微笑む恋人に、ミランは優しくキスをした。
♦♦♦
その後、当たり前だが、王宮でGを飼うことは全面的に禁止された。21匹のGを飼っていた団員はショックを受け、可愛い彼らと離れることはできないと、魔法師団を早々に辞めていった。
ミランも、フェリクスも、王宮内の誰も彼を引き留めなかった。
皆、二度と戻ってきてほしくないと思った。
終わり。
ミランは部屋の中を見回した。すると、
「ブーン」
「ブーン」
「わあああああ、増えた! Gが2匹だ! フェリシア、ここを開けてくれ! 2匹で飛んでる!!」
ミランはパニックに陥った。酔いもとっくに醒めた。だがドアは固く閉ざされたままだ。
「開けることはできません。ミラン殿下、どうか王子の御雄姿を私に見せてください」
「そんなこと言って、僕がどうなってもいいのか? 一年前『死なないで、ミラン殿下』と言って僕に泣いてすがったのは嘘だったのか」
「そんな事実はありません。話を盛らないでください」
恋人は非情だった。
「フェリシア、君ちゃんと部屋の掃除しているのか?」
「私は掃除をきちんとしています。反論するようですが、ミラン殿下、ミラン殿下が酔ってお菓子をぼろぼろこぼすのが原因かと存じます」
「安全地帯にいるとずいぶん冷静じゃないかフェリシ……わああああ、こっちに向かってきた!」
「ごめんなさい、ミラン殿下。Gを倒してくれたらなんでも言うことを聞きますから」
「なんでも? 言ったな」
「ええ。王家に仕える魔法師団団長として、誓いましょう」
ミランに力がみなぎった。さっきの甘いムードの続きを存分にできる。あんなことやそんなこともできる。
よし、やってやる。
ワインボトルを構える。
ブーン、ブーン、ブーン。
「ぎゃああああ、3匹になった! どうなってるんだこの部屋はあああああ、無、無理だ、フェリシア、ドアを開けてくれ!」
ミランの叫びと同時にドアが開いた。
そこに立っているのは魔法師団の団員のひとりだった。
「すいません、おれのペットが虫かごから逃げちゃって。あー、やっぱここだ。バロン、ニーナ、フェリックス、こっちへおいで」
団員の呼びかけに3匹のGは犬のように従い、持っている虫かごに収まった。
信じられない光景だ、とミランは思った。
「ペットって、Gが?」
「はい、可愛いですよ。おれ虫を飼うのが趣味で」
驚愕の声のミランに対し、団員はにこにことして答えた。そういえば、もう真夜中だというのに、王宮のあちこちから悲鳴が上がっている。
「あと18匹、どこに行ったか探さなきゃ。こいつら、すばしっこくて、やんちゃなんです☆」
団員がそう言って舌をぺろっと出してウインクしたとき、それまで黙っていたフェリシア……いや、フェリクスが彼の胸倉をつかんだ。
「君はふざけているのか。フェリックスとはなんだ」
「え? あ、団長、いらっしゃったんですか。ナイトドレス姿もお綺麗ですね。えへへ、いいでしょフェリックス。団長みたいにクールだから、そう名付けたんです。ほら、こいつですよ、分かります?」
カサカサいってる虫かごをフェリクスの顔の前に突き出した。
「きゃあああああああああ」
王宮内にフェリクスの悲鳴がこだました。
「フェリシア!」
ミランは気絶して倒れるフェリクスを慌てて支えた。
♦♦♦
ミランはその日、気絶したフェリシアを案じて、団長室に泊まった。
次の日、目を覚ましたフェリシアは、まだやや錯乱状態だった。
「安心しなよフェリシア。残りのGは全部あの団員の呼びかけでちゃんと回収されたから」
「殿下……よかった……私、本当に、あれがだめで」
「誰にでも弱点はあるさ」
ミランは苦笑した。過ぎてしまえば笑い話だ。
「でも僕は勇敢にGと戦ったんだからご褒美をくれたっていいだろう?」
ミランはベッドで横になるフェリシアの頬を撫でた。
「戦ってましたっけ? それとミラン殿下はそろそろ貴族学校のお時間では」
フェリシアはとぼけた。わざとらしいな。クールなのもいいけど、少しは素直になってほしいね。
「学校に行っていいの? ご褒美はくれないの」
ミランはかがみこんでフェリシアの耳元で囁いた。
クールな恋人の頬に、赤みが差した。
「差し上げます。ミラン殿下、昨日の悪夢を消してください」
「くれないって言っても頂くよ」
いつもはクールで凛々しい僕のフェリシア。君の弱点はやっぱり僕だよね。僕の前ではとびきり魅力的な女性になるんだ。
うぬぼれていいよね。
柔らかく微笑む恋人に、ミランは優しくキスをした。
♦♦♦
その後、当たり前だが、王宮でGを飼うことは全面的に禁止された。21匹のGを飼っていた団員はショックを受け、可愛い彼らと離れることはできないと、魔法師団を早々に辞めていった。
ミランも、フェリクスも、王宮内の誰も彼を引き留めなかった。
皆、二度と戻ってきてほしくないと思った。
終わり。
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