57 / 65
フェリシアって男装するのに抵抗なかったの? (完)
しおりを挟む
「フェリシアってさ、男装するのに抵抗なかったの?」
魔法師団団長室で、ミランがそんなことを聞いた。予定のパフォーマンスが終わり、今は休憩時間だ。このあと団員たちは抽選で選ばれたファンとお茶する予定である。
「どうしたんですか、いきなり」
髪や服装を整えながら、フェリシアは青い目を丸くした。
「ふと思ったんだよ。貴族女性が男のフリをするのって、結構大変じゃないかなと思って」
ミランはマネージャーとして、この後の予定を確認しながら言った。
「実は私、男装するの初めてじゃないんですよ」
「え? そうなの?」
「まだ貴族学校に通っていたころ、男装してカフェで働いていたことがありまして」
「な、なんで!?」
「バイトの募集が男性だけだったんです。オーナーも男装してみたら? そのほうが女性の集客が見込めそうだ、って言ってくれて、それで」
「それで!? 男装したの?」
「はい。ご存じの通り、うちは貧乏で、そこのカフェ、給料がよかったんですよ。だから男装することにしました。あまり喋らなくていいと言われたので、お客には最後までバレませんでした」
「クラスメイトとかにもバレなかったのか?」
「学校からは離れた所でしたから……学校近くの『メイドカフェ』にも応募したんですけど、面接の段階でやんわり断られてしまって」
「だろうね……いや、失礼」
「いいえ。適材適所というやつです。今こうしてフェリクス・ブライトナーとしてやっていけているのも、男装カフェバイトのおかげです。自分で言うのもなんですけど、女性にきゃーきゃー言われるのも慣れてます」
それ本当に自分で言う? 君も結構変わってるね……ミランはそう思ったが、口には出さなかった。
めずらしく、愛しい恋人が自信満々な顔だったからだ。
男装してそういう自信に満ちた顔をすると、いっそう様になる。
男装の才能がフェリシアにはあったってことなのか……?
「殿下、奇妙なものを見る目で見ないで下さい」
唐突にフェリシアが言った。
その声は、ほんの少しだけ恥じらいを含んでいるようだった。
自分で言ってて恥ずかしくなったらしい。
「そろそろ時間です。レディーたちを待たせるわけにはいきません。参りましょうミラン殿下」
それもほんの一瞬で、フェリシアはすぐにフェリクスの顔に戻ってミランを促す。
フェリクスとフェリシアをすぐに切り替え、使い分ける器用さに、ミランはいつも驚かされていた。
君もレディーなんだけどね……。
今は王子ではなくマネージャーという立場のミランは、スタイリッシュ手帳を閉じ、たじたじと言った風に微笑むのだった。
フェリシアって男装するのに抵抗なかったの? 終わり
魔法師団団長室で、ミランがそんなことを聞いた。予定のパフォーマンスが終わり、今は休憩時間だ。このあと団員たちは抽選で選ばれたファンとお茶する予定である。
「どうしたんですか、いきなり」
髪や服装を整えながら、フェリシアは青い目を丸くした。
「ふと思ったんだよ。貴族女性が男のフリをするのって、結構大変じゃないかなと思って」
ミランはマネージャーとして、この後の予定を確認しながら言った。
「実は私、男装するの初めてじゃないんですよ」
「え? そうなの?」
「まだ貴族学校に通っていたころ、男装してカフェで働いていたことがありまして」
「な、なんで!?」
「バイトの募集が男性だけだったんです。オーナーも男装してみたら? そのほうが女性の集客が見込めそうだ、って言ってくれて、それで」
「それで!? 男装したの?」
「はい。ご存じの通り、うちは貧乏で、そこのカフェ、給料がよかったんですよ。だから男装することにしました。あまり喋らなくていいと言われたので、お客には最後までバレませんでした」
「クラスメイトとかにもバレなかったのか?」
「学校からは離れた所でしたから……学校近くの『メイドカフェ』にも応募したんですけど、面接の段階でやんわり断られてしまって」
「だろうね……いや、失礼」
「いいえ。適材適所というやつです。今こうしてフェリクス・ブライトナーとしてやっていけているのも、男装カフェバイトのおかげです。自分で言うのもなんですけど、女性にきゃーきゃー言われるのも慣れてます」
それ本当に自分で言う? 君も結構変わってるね……ミランはそう思ったが、口には出さなかった。
めずらしく、愛しい恋人が自信満々な顔だったからだ。
男装してそういう自信に満ちた顔をすると、いっそう様になる。
男装の才能がフェリシアにはあったってことなのか……?
「殿下、奇妙なものを見る目で見ないで下さい」
唐突にフェリシアが言った。
その声は、ほんの少しだけ恥じらいを含んでいるようだった。
自分で言ってて恥ずかしくなったらしい。
「そろそろ時間です。レディーたちを待たせるわけにはいきません。参りましょうミラン殿下」
それもほんの一瞬で、フェリシアはすぐにフェリクスの顔に戻ってミランを促す。
フェリクスとフェリシアをすぐに切り替え、使い分ける器用さに、ミランはいつも驚かされていた。
君もレディーなんだけどね……。
今は王子ではなくマネージャーという立場のミランは、スタイリッシュ手帳を閉じ、たじたじと言った風に微笑むのだった。
フェリシアって男装するのに抵抗なかったの? 終わり
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
【完結】ノーザンランドの白き獅子リーラ 〜捨てられた王女は人生逆転復活劇は起こしたくない〜
京極冨蘭
恋愛
【完結しました!】
敵国ゾーンに占領される前に隣国ノーザンランド帝国へ逃亡した少女は亡き祖父の意思を引き継ぎ立派な帝国騎士になる。しかし、少女の秘められた力を狙い敵国の魔の手が襲いかかる。
度重なる敵からの危機をくぐり抜け、いつしか傍で支えてくれたノーザンランド皇帝と恋に落ちる少女。
少女の幸せは長くは続かない、少女の力には秘密があったのだ。真実を知った少女は愛する人への想いは捨て、神から与えられだ天命を果たすために決意をする。
長編小説予定
第4章から戦闘シーンに入るため残虐シーンが増えます。
主人公の恋愛要素は第8章から動き出します。
第11章かはR15含みます、タイトル部に※をいれます。苦手な方は飛ばして下さいね。
関連作品
「騎士の家の子になった王女は義兄に愛されたい」リーリラ姫、リンダ姫とダリルが登場します。第12章関連の為数話追加しました。
高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます
花野りら
恋愛
花を愛する女子高生の高嶺真理絵は、貴族たちが通う学園物語である王道の乙女ゲーム『パルテール学園〜告白は伝説の花壇で〜』のモブである花屋の娘マリエンヌ・フローレンスになっていて、この世界が乙女ゲームであることに気づいた。
すると、なぜか攻略対象者の王太子ソレイユ・フルールはヒロインのルナスタシア・リュミエールをそっちのけでマリエンヌを溺愛するからさあ大変! 恋の経験のないマリエンヌは当惑するばかり。
さらに、他の攻略対象者たちもマリエンヌへの溺愛はとまらない。マリエンヌはありえないモテモテっぷりにシナリオの違和感を覚え原因を探っていく。そのなかで、神様見習いである花の妖精フェイと出会い、謎が一気に明解となる。
「ごめんねっ、死んでもないのに乙女ゲームのなかに入れちゃって……でもEDを迎えれば帰れるから安心して」
え? でも、ちょっと待ってよ……。
わたしと攻略対象者たちが恋に落ちると乙女ゲームがバグってEDを迎えられないじゃない。
それならばいっそ、嫌われてしまえばいい。
「わたし、悪役令嬢になろうかな……」
と思うマリエンヌ。
だが、恋は障壁が高いほと燃えあがるもの。
攻略対象者たちの溺愛は加熱して、わちゃわちゃ逆ハーレムになってしまう。
どうなってるの? この乙女ゲームどこかおかしいわね……。
困惑していたマリエンヌだったが真相をつきとめるため学園を調査していると、なんと妖精フェイの兄である神デューレが新任教師として登場していた! マリエンヌはついにぶちキレる!
「こんなのシナリオにはないんだけどぉぉぉぉ!」
恋愛経験なしの女子高生とイケメン攻略対象者たちとの学園生活がはじまる!
最後に、この物語を簡単にまとめると。
いくら天才美少女でも、恋をするとポンコツになってしまう、という学園ラブコメである。
貴重な男の中で一番優しいのは俺らしい
クローバー
恋愛
男女比率の違っているお話。
だが、その要素は多すぎず、普通の恋愛話が多目である。
主人公、心優しい25歳、松本修史は訳あって流れ星にお願い事をする。
願いは叶ったが、自分の想像とは斜め上を行った願いの叶い方だった。
かっこよくなって高校生に戻ったかと思いきや、妹がいたり世界の男女比がおかしくなっていた。
修史は時にあざとく、時に鈍感に楽しく学園生活を生きる。
時々下ネタぶっこみますが、許してください。
性的描写がいつしか出てきたとしても許してください。
少しシリアスからのハッピーエンドがあります。
一夫多妻の世界なので、恋人は7人ほど出来る予定です。
もしかしたら14人になるかもしれません。
作者の我慢の限界が来たら…R18的な行為もしてしまうかもしれません。←冗談です。
作者の休日は月曜日なので、月曜日更新が多くなります。
作者は貧乳とロリが好物なため、多少キャラに偏りがありますがご了承ください。
ひんぬー教、万歳!
Twitterで更新するとき言うので、フォローお願いいたします。
@clober0412
クローバー うたっこ
恋する乙女と守護の楯という神ゲーの穂村有里がトプ画です。
貴方様と私の計略
羽柴 玲
恋愛
貴方様からの突然の申し出。
私は戸惑いましたの。
でも、私のために利用させていただきますね?
これは、
知略家と言われるがとても抜けている侯爵令嬢と
とある辺境伯とが繰り広げる
計略というなの恋物語...
の予定笑
*****
R15は、保険になります。
作品の進み具合により、R指定は変更される可能性がありますので、
ご注意下さい。
小説家になろうへも投稿しています。
https://ncode.syosetu.com/n0699gm/
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる