43 / 65
占いの行方 6 (完)
しおりを挟む
「フェリクス殿ーー」
魔法師団訓練場にたどり着くと、ミランがフェリシアに向かって手を振った。
「今日はどうしたの? 君が何も言わず朝の自主練に顔を出さないなんて、心配したよ」
ミランの顔を見た途端、フェリシアの心はミランへの愛しさでいっぱいになった。
ミラン殿下、私お見合いなんてしませんからね。
占いなんて、吹き飛ばしてしまうから。
「すみません、ミラン殿下。急用が出来まして。ユリアン殿下夫妻がお見えになっていますよ」
「兄上と義姉上が? それじゃあ、挨拶してから学校に行こうかな。二人で魔道具の研究開発をやってるらしいけど、兄貴が魔道具なんて作れるのか? ポエム作ったほうがいいんじゃないか。まあ義姉上がいるから大丈夫だろうけど」
ユリアンに対してそんなことを言いつつも、ミランは嬉しそうだった。顔に出ている。
「フェリクス殿、君も、そろそろ実家に顔を見せたほうがいいんじゃないか。君は女性だし、ご両親は心配しているんじゃないの」
唐突に、ミランがそんなことを言った。
「はい。実は、そろそろ帰ろうかなと思っています」
「僕も一緒に行ってもいいかな」
フェリシアは虚を突かれて一瞬、言葉に詰まった。
「フェリシア」
「ミラン殿下、それって」
「君のご両親に、君と僕との関係をきちんと知らせておきたい。ずっと考えていたんだ。だっていずれ……」
フェリシアはミランの言葉の続きを聞く前に、彼を抱きしめた。
剣の稽古を終えたばかりの彼は、ぽかぽかとした、朝の空気の匂いがした。
「フェリクス殿、公私混同はしないんじゃないのか。他の団員が見てるよ」
「ミラン殿下、私は馬鹿でした」
フェリシアはミランから離れると、何かが吹っ切れたように笑った。
ミラン殿下はこんなに私を思ってくれているのに、私と来たら、本当に、馬鹿だ。
占いなんか信じない。あのおばあさんには、確かにちょっと不思議な力があるのかもしれないけれど、私はミラン殿下を信じてる。占いなんかよりも。
「ミラン殿下、今日はおひげを剃ってないんですか」
ミランを抱きしめたとき、フェリシアの頬にちくりとした感覚があった。
「ああ、今日はまだ……。剃ってから学校へ行くよ。実はさ、いずれは父上みたいに、髭を生やしてみたいと思っているんだ」
ミランは固い決心をする目をした。ミランは国民から「可愛い系第三王子」と呼ばれていることに日々、不満を募らせていた。いつかは国王のように、大人の男になりたいと思っている。
「そうなんですか。きっと、お似合いですよ」
フェリシアは一応そう言ったが、内心、ミランに髭は似合わないと思っていた。
今は似合わなくても、未来はどうか分からないけれど――。
占い師の老女は、保護された部屋で一人、それなりにくつろいでいた。膝に乗せた水晶玉には、先ほどの髭を生やした中年男性が映っている。
青い目のお嬢ちゃんは気がついていなかったみたいだね。
私はちゃんとあんたの将来の相手を映し出したんだよ……ただし今の姿とは言っていない。
水晶玉をちゃんとよく見れば、この中年男があの坊主だって、分かったはずなんだけどねえ。
生意気に、髭なんか生やしてるから、分からなかったのかね。まあ髪型も違うし、それなりに貫録が出ているから坊主だと気がつかないのも仕方ないのかも知れないね。
水晶玉の中の、髭を生やした男性の横に、金髪の中年女性が現われる。青い目の女性が男性に微笑むと、男性もはしばみ色の目を細めた。二人がキスをしようとすると、二つの小さな影がそれを遮る。男の子と女の子だ。二人は男性と女性にどことなく似ている。
とても幸せそうだ。
「おばあちゃん、営業許可を出すので、この書類にサインして下さい」
部屋に入って来た女性兵士に声を掛けられ、老女は水晶玉を懐にしまった。
「やれやれだね。これで営業再開できるってわけかい」
「はい。王都内ならどこでも。簡単な手続きをすれば、他の町や村でも大丈夫ですよ」
「そうかい。色々な場所を巡るのも悪くないね」
老女は女性兵士に手短に礼を言い、堂々とした振る舞い、しっかりした足取りで、王宮を後にした。
――私の占いはひとつの道筋……可能性を映したまで。
未来は変わる。
未来をつくるのはあんただよ、お嬢ちゃん。
あんたなら大丈夫だと思うけど、ま、しっかりやりな。
占いの行方 終わり。
魔法師団訓練場にたどり着くと、ミランがフェリシアに向かって手を振った。
「今日はどうしたの? 君が何も言わず朝の自主練に顔を出さないなんて、心配したよ」
ミランの顔を見た途端、フェリシアの心はミランへの愛しさでいっぱいになった。
ミラン殿下、私お見合いなんてしませんからね。
占いなんて、吹き飛ばしてしまうから。
「すみません、ミラン殿下。急用が出来まして。ユリアン殿下夫妻がお見えになっていますよ」
「兄上と義姉上が? それじゃあ、挨拶してから学校に行こうかな。二人で魔道具の研究開発をやってるらしいけど、兄貴が魔道具なんて作れるのか? ポエム作ったほうがいいんじゃないか。まあ義姉上がいるから大丈夫だろうけど」
ユリアンに対してそんなことを言いつつも、ミランは嬉しそうだった。顔に出ている。
「フェリクス殿、君も、そろそろ実家に顔を見せたほうがいいんじゃないか。君は女性だし、ご両親は心配しているんじゃないの」
唐突に、ミランがそんなことを言った。
「はい。実は、そろそろ帰ろうかなと思っています」
「僕も一緒に行ってもいいかな」
フェリシアは虚を突かれて一瞬、言葉に詰まった。
「フェリシア」
「ミラン殿下、それって」
「君のご両親に、君と僕との関係をきちんと知らせておきたい。ずっと考えていたんだ。だっていずれ……」
フェリシアはミランの言葉の続きを聞く前に、彼を抱きしめた。
剣の稽古を終えたばかりの彼は、ぽかぽかとした、朝の空気の匂いがした。
「フェリクス殿、公私混同はしないんじゃないのか。他の団員が見てるよ」
「ミラン殿下、私は馬鹿でした」
フェリシアはミランから離れると、何かが吹っ切れたように笑った。
ミラン殿下はこんなに私を思ってくれているのに、私と来たら、本当に、馬鹿だ。
占いなんか信じない。あのおばあさんには、確かにちょっと不思議な力があるのかもしれないけれど、私はミラン殿下を信じてる。占いなんかよりも。
「ミラン殿下、今日はおひげを剃ってないんですか」
ミランを抱きしめたとき、フェリシアの頬にちくりとした感覚があった。
「ああ、今日はまだ……。剃ってから学校へ行くよ。実はさ、いずれは父上みたいに、髭を生やしてみたいと思っているんだ」
ミランは固い決心をする目をした。ミランは国民から「可愛い系第三王子」と呼ばれていることに日々、不満を募らせていた。いつかは国王のように、大人の男になりたいと思っている。
「そうなんですか。きっと、お似合いですよ」
フェリシアは一応そう言ったが、内心、ミランに髭は似合わないと思っていた。
今は似合わなくても、未来はどうか分からないけれど――。
占い師の老女は、保護された部屋で一人、それなりにくつろいでいた。膝に乗せた水晶玉には、先ほどの髭を生やした中年男性が映っている。
青い目のお嬢ちゃんは気がついていなかったみたいだね。
私はちゃんとあんたの将来の相手を映し出したんだよ……ただし今の姿とは言っていない。
水晶玉をちゃんとよく見れば、この中年男があの坊主だって、分かったはずなんだけどねえ。
生意気に、髭なんか生やしてるから、分からなかったのかね。まあ髪型も違うし、それなりに貫録が出ているから坊主だと気がつかないのも仕方ないのかも知れないね。
水晶玉の中の、髭を生やした男性の横に、金髪の中年女性が現われる。青い目の女性が男性に微笑むと、男性もはしばみ色の目を細めた。二人がキスをしようとすると、二つの小さな影がそれを遮る。男の子と女の子だ。二人は男性と女性にどことなく似ている。
とても幸せそうだ。
「おばあちゃん、営業許可を出すので、この書類にサインして下さい」
部屋に入って来た女性兵士に声を掛けられ、老女は水晶玉を懐にしまった。
「やれやれだね。これで営業再開できるってわけかい」
「はい。王都内ならどこでも。簡単な手続きをすれば、他の町や村でも大丈夫ですよ」
「そうかい。色々な場所を巡るのも悪くないね」
老女は女性兵士に手短に礼を言い、堂々とした振る舞い、しっかりした足取りで、王宮を後にした。
――私の占いはひとつの道筋……可能性を映したまで。
未来は変わる。
未来をつくるのはあんただよ、お嬢ちゃん。
あんたなら大丈夫だと思うけど、ま、しっかりやりな。
占いの行方 終わり。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
私、悪役令嬢に転生してしまいました!?~王子様?攻略対象?私は推し一筋です!~
アリス・ホームズ
恋愛
ある日、池で溺れてしまい前世の記憶を思い出した私、アリスティア・ロッテンシュタイン。
前世の記憶によると、私のいる世界は乙女ゲーム~異世界から来た聖女は王子さまに溺愛される~の世界だっだ!?しかも、私は聖女にいろいろないじめをして王子に処刑される悪役令嬢、、、。
ぶっちゃけそんなのどうでもいい。だって私には前世からの最推し「ルーク」(モブ)がいるのだから!!
これは、アリスティアが最推しルーク様に猛アタックするお話。
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
【完結】ノーザンランドの白き獅子リーラ 〜捨てられた王女は人生逆転復活劇は起こしたくない〜
京極冨蘭
恋愛
【完結しました!】
敵国ゾーンに占領される前に隣国ノーザンランド帝国へ逃亡した少女は亡き祖父の意思を引き継ぎ立派な帝国騎士になる。しかし、少女の秘められた力を狙い敵国の魔の手が襲いかかる。
度重なる敵からの危機をくぐり抜け、いつしか傍で支えてくれたノーザンランド皇帝と恋に落ちる少女。
少女の幸せは長くは続かない、少女の力には秘密があったのだ。真実を知った少女は愛する人への想いは捨て、神から与えられだ天命を果たすために決意をする。
長編小説予定
第4章から戦闘シーンに入るため残虐シーンが増えます。
主人公の恋愛要素は第8章から動き出します。
第11章かはR15含みます、タイトル部に※をいれます。苦手な方は飛ばして下さいね。
関連作品
「騎士の家の子になった王女は義兄に愛されたい」リーリラ姫、リンダ姫とダリルが登場します。第12章関連の為数話追加しました。
高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます
花野りら
恋愛
花を愛する女子高生の高嶺真理絵は、貴族たちが通う学園物語である王道の乙女ゲーム『パルテール学園〜告白は伝説の花壇で〜』のモブである花屋の娘マリエンヌ・フローレンスになっていて、この世界が乙女ゲームであることに気づいた。
すると、なぜか攻略対象者の王太子ソレイユ・フルールはヒロインのルナスタシア・リュミエールをそっちのけでマリエンヌを溺愛するからさあ大変! 恋の経験のないマリエンヌは当惑するばかり。
さらに、他の攻略対象者たちもマリエンヌへの溺愛はとまらない。マリエンヌはありえないモテモテっぷりにシナリオの違和感を覚え原因を探っていく。そのなかで、神様見習いである花の妖精フェイと出会い、謎が一気に明解となる。
「ごめんねっ、死んでもないのに乙女ゲームのなかに入れちゃって……でもEDを迎えれば帰れるから安心して」
え? でも、ちょっと待ってよ……。
わたしと攻略対象者たちが恋に落ちると乙女ゲームがバグってEDを迎えられないじゃない。
それならばいっそ、嫌われてしまえばいい。
「わたし、悪役令嬢になろうかな……」
と思うマリエンヌ。
だが、恋は障壁が高いほと燃えあがるもの。
攻略対象者たちの溺愛は加熱して、わちゃわちゃ逆ハーレムになってしまう。
どうなってるの? この乙女ゲームどこかおかしいわね……。
困惑していたマリエンヌだったが真相をつきとめるため学園を調査していると、なんと妖精フェイの兄である神デューレが新任教師として登場していた! マリエンヌはついにぶちキレる!
「こんなのシナリオにはないんだけどぉぉぉぉ!」
恋愛経験なしの女子高生とイケメン攻略対象者たちとの学園生活がはじまる!
最後に、この物語を簡単にまとめると。
いくら天才美少女でも、恋をするとポンコツになってしまう、という学園ラブコメである。
貴方様と私の計略
羽柴 玲
恋愛
貴方様からの突然の申し出。
私は戸惑いましたの。
でも、私のために利用させていただきますね?
これは、
知略家と言われるがとても抜けている侯爵令嬢と
とある辺境伯とが繰り広げる
計略というなの恋物語...
の予定笑
*****
R15は、保険になります。
作品の進み具合により、R指定は変更される可能性がありますので、
ご注意下さい。
小説家になろうへも投稿しています。
https://ncode.syosetu.com/n0699gm/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる