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占いの行方 6 (完)

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「フェリクス殿ーー」

 魔法師団訓練場にたどり着くと、ミランがフェリシアに向かって手を振った。

「今日はどうしたの? 君が何も言わず朝の自主練に顔を出さないなんて、心配したよ」

 ミランの顔を見た途端、フェリシアの心はミランへの愛しさでいっぱいになった。
 ミラン殿下、私お見合いなんてしませんからね。
 占いなんて、吹き飛ばしてしまうから。

「すみません、ミラン殿下。急用が出来まして。ユリアン殿下夫妻がお見えになっていますよ」

「兄上と義姉上が? それじゃあ、挨拶してから学校に行こうかな。二人で魔道具の研究開発をやってるらしいけど、兄貴が魔道具なんて作れるのか? ポエム作ったほうがいいんじゃないか。まあ義姉上がいるから大丈夫だろうけど」

 ユリアンに対してそんなことを言いつつも、ミランは嬉しそうだった。顔に出ている。

「フェリクス殿、君も、そろそろ実家に顔を見せたほうがいいんじゃないか。君は女性だし、ご両親は心配しているんじゃないの」

 唐突に、ミランがそんなことを言った。

「はい。実は、そろそろ帰ろうかなと思っています」

「僕も一緒に行ってもいいかな」

 フェリシアは虚を突かれて一瞬、言葉に詰まった。

「フェリシア」

「ミラン殿下、それって」

「君のご両親に、君と僕との関係をきちんと知らせておきたい。ずっと考えていたんだ。だっていずれ……」

 フェリシアはミランの言葉の続きを聞く前に、彼を抱きしめた。
 剣の稽古を終えたばかりの彼は、ぽかぽかとした、朝の空気の匂いがした。

「フェリクス殿、公私混同はしないんじゃないのか。他の団員が見てるよ」

「ミラン殿下、私は馬鹿でした」

 フェリシアはミランから離れると、何かが吹っ切れたように笑った。

 ミラン殿下はこんなに私を思ってくれているのに、私と来たら、本当に、馬鹿だ。
 占いなんか信じない。あのおばあさんには、確かにちょっと不思議な力があるのかもしれないけれど、私はミラン殿下を信じてる。占いなんかよりも。

「ミラン殿下、今日はおひげを剃ってないんですか」

 ミランを抱きしめたとき、フェリシアの頬にちくりとした感覚があった。

「ああ、今日はまだ……。剃ってから学校へ行くよ。実はさ、いずれは父上みたいに、髭を生やしてみたいと思っているんだ」

 ミランは固い決心をする目をした。ミランは国民から「可愛い系第三王子」と呼ばれていることに日々、不満を募らせていた。いつかは国王のように、大人の男になりたいと思っている。

「そうなんですか。きっと、お似合いですよ」

 フェリシアは一応そう言ったが、内心、ミランに髭は似合わないと思っていた。
 今は似合わなくても、未来はどうか分からないけれど――。



 占い師の老女は、保護された部屋で一人、それなりにくつろいでいた。膝に乗せた水晶玉には、先ほどの髭を生やした中年男性が映っている。

 青い目のお嬢ちゃんは気がついていなかったみたいだね。
 私はちゃんとあんたの将来の相手を映し出したんだよ……ただし姿とは言っていない。
 水晶玉をちゃんとよく見れば、この中年男があの坊主だって、分かったはずなんだけどねえ。
 生意気に、髭なんか生やしてるから、分からなかったのかね。まあ髪型も違うし、それなりに貫録が出ているから坊主だと気がつかないのも仕方ないのかも知れないね。

 水晶玉の中の、髭を生やした男性の横に、金髪の中年女性が現われる。青い目の女性が男性に微笑むと、男性もはしばみ色の目を細めた。二人がキスをしようとすると、二つの小さな影がそれを遮る。男の子と女の子だ。二人は男性と女性にどことなく似ている。
 とても幸せそうだ。

「おばあちゃん、営業許可を出すので、この書類にサインして下さい」

 部屋に入って来た女性兵士に声を掛けられ、老女は水晶玉を懐にしまった。

「やれやれだね。これで営業再開できるってわけかい」

「はい。王都内ならどこでも。簡単な手続きをすれば、他の町や村でも大丈夫ですよ」

「そうかい。色々な場所を巡るのも悪くないね」

 老女は女性兵士に手短に礼を言い、堂々とした振る舞い、しっかりした足取りで、王宮を後にした。

 ――私の占いはひとつの道筋……可能性を映したまで。
 未来は変わる。
 未来をつくるのはあんただよ、お嬢ちゃん。
 あんたなら大丈夫だと思うけど、ま、しっかりやりな。



 占いの行方   終わり。
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